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smashing! ととのうもひとそれぞれ

大学付属動物病院獣医師・設楽泰司。週一で佐久間イヌネコ病院に出向している理学療法士・伊達雅宗は彼の先輩で恋人だ。


この間、佐久間さんとこの病院に伊達さん迎えに行って、人手が足らなかったんで手伝って、そんで夕飯ご馳走なって。そん時に見た配信のドラマが予想外に面白かった。あれだ、最近流行ってるみたいな、サウナ?に入って体も人間関係も「ととのう」というやつ。

ウチの病院の後輩、東もよくこの言葉を使う。女子も教授もみんなして何に対しても使ってる。聞いてみたらなんか「すっきり」だの「滞りがなくなる」だの、解釈が十人十色でもって全然その基準がわからない。

「お前は何でも難しく考えすぎなんよ」
「オレだけわかってない感があって」
「んなの皆適当なんじゃないかなあ」

ペントハウス帰ってきて、伊達さんの後ろ頭の、汗となんかいい匂いが混じったやつでサカって思わず色々して。うわあ汗だく、先に風呂入ってくるねえ。鼻歌混じりでバスルームに向かった伊達さん。散らかし放題にしたリビングを黙々と片付ける。そういえば雲母さんも言ってたっけ、ここのリビングは広いからつい雪崩れ込みますよねンフ、って。障害物ないのは有難いけどヒトとしてどうなのよ的な、まあいいか。

バスルーム入ったら伊達さんがバスタブでのんびり横になっていた。藍色から漆黒に変わってく空を眺められる、このバスルームの窓は雲母さんの大のお気に入り。ガーッと頭と体洗って伊達さんの隣、ていうか後ろに無理くり入り込む。あーもーお湯なくなるん、ほぼ密着してその頸のとこに顔を擦り付ける。

熱くもなく冷たくもなく、バスタブの湯はちょうどいい湯加減で。今日はなにも入れてないんですか?あ忘れてたん。更湯てのもたまにはいいか、伊達さんの出汁出てますしね。そう考えたらじんわりと温かくなった気がして、宵闇の間、煌めく星々を見つけて。そしたら。あ、すごく心が穏やかに、こう、透明な感じに。

「どしたん設楽?大人しくなったん」

側から見たらただ呆然としているオレは、まるで自然や空と一体化してしまったように感じられた。なんだこれ、すごく気分がいい。感覚が立ってる気がする。おそらくはこれが「ととのった」というやつだ。

そう、いわば、伊達さんの「出汁」で。

「それその言い方ぁ!」



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