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smashing! よゆうなんてきやすめで
目が覚めたら一瞬ここはどこなのか分からないくらいに、僕はよく眠っていたようです。お仕事の切れ間がなくここ暫くはあまり休めなかったせいか、こんなふうに突然、一人になった途端に電池切れみたいに落ちた、そんな感じでしょうか。
ここは僕の家、マンション最上階ペントハウスからだいぶ離れた場所にある、小さなホテル。お得意様にご挨拶にやってきたのですが、どうやらこの街にはちょっとしたチーズ工房があり、一週間に一度しかお店が開かない。それがちょうど明後日だと知った僕は、急いでここを押さえたんでした。
まだ早朝。起き上がってカーテンを開けると、中々見晴らしがよくて。お部屋もね、お掃除が行き届いていて、びっくりするほど館内も綺麗で。大当たりなんじゃないでしょうかここ。そしてとても静か。お腹は空いているけれど、なんだかまだ寝足りない。冷蔵庫に入ってるミネラルウォーターを取り出して。これをあの二人の前でやりますと「ダメここ入ってるやつ高いから!」などと嗜められますが、そっとお値段を確かめたら定価。なんて良心的なんでしょう。もう少しだけ休んで、そしたら館内の探検に出て、そして…着いた時何もないように思えた駅前のメインストリートにも…
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「…ちゃ…ハルちゃん」
「は…」
「あーよかったあ!なんでこんなとこで寝てんの!」
??アレレー?ここには僕しかいないはずなのになんで伊達さん?どうやら僕はバルコニー風の窓の側で、ソファーに凭れて落ちてた模様。備え付けの半纏を羽織っててよかった。薄いパジャマ風の寝巻きだけでは風邪をひきかねませんからね。
「あのお得意様がねえ、ハルちゃんの携帯に通じないってすごく心配してて」
「…あ!お家にお邪魔した時に音切ってたの忘れて…」
「ウン、そうかなーて思ってた。んで、宿泊先教えてくれたんよ」
すみません伊達さんにご迷惑を。そして取り急ぎお得意様にお電話。僕はまだまだツメの甘いところがありますね。反省はしても罪悪感は不要だ、白河先生の口癖が聞こえるようです。床に座ったままの僕と視線を合わせてくれていた伊達さんの頬に、軽くキス。そう、こういう時の伊達さんってワンちゃんみたいに「ウヒャ」って首を竦めて笑うんです。
「ハルちゃん、お腹空いてるでしょ?」
「何でわかるんですか!」
「わかるよお?ハルちのことならね」
伊達さんのバッグの中から出てきたのは綺麗な包装のお弁当。小さいながらもこの辺りの名物を網羅してるらしく、駅で買う時すっげ勧められたんよ。伊達さんは一緒に買ったらしいペットボトルのお茶を、キャップを開けて差し出して。
「一緒に食べようね」
「伊達さん、これ食べたら駅前の散歩、行きませんか?」
「いいねえ!」
僕が仕入れた例のチーズ工房のこともお話ししたら流石、伊達さんの目の色が変わりました。もともとオッドアイなだけに。プッ…ククッ…クッ…。突然込み上げた笑いに悶絶する僕。お弁当はとても美味しいし笑いのツボからは抜けないし。それになにより伊達さんの困ったような眉の下、優しげな垂れ目の可愛さに、僕は目が離せなくて。
「あ、ハルち。ちょっと予定変更してもい?」
「?ええ勿論。なにか気になることが?」
お散歩の前にちょっとだけ…い?今の今までキュートみの溢れてたその目は、僕の心の奥底を掴んで離さないあの、手のひらが汗ばむような妖艶な趣を湛えている。ああ、これは抗えないやつ。全身からゆっくりと力が抜けていくのを感じながら、伊達さんを静かに見つめる。瞬きもせず背けもせずただ真っ直ぐに。
「俺大好きなんよその、ハルちゃんの目つき」
伊達さんの指先が、僕の頬から輪郭を辿る。その指先に噛み付くように受け入れる僕の口内を、それはゆるゆると泳ぐ。熱い、ね。徐々に隙間がなくなっていく二人の間で、邪魔になってるボタンや布がじれったく剥がれていく。僕たちは時折こうして、お互いの視線に煽られながらのアグレッシヴさで、切羽詰まったように抱き合う。呼吸もなにも奪われて見えなくなる、あなたのことしか、そしてきっと僕のことしか。
まるで貪りあうかのように。
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