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smashing! きづいたあじとパーティと

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。

「じゃ設楽、もんじゃ任せたな!」
「御意」

なんでだかバレンタイン当日、ド平日の夜に集まってのもんじゃ焼きパーティ。前日は喜多村の誕生日だったのだが、設楽が実家で発掘した古のゲームを借りちゃったおかげで、佐久間と喜多村は2日間ほぼ徹夜状態。今日はパックパクしながら追い詰めるやつもあります。手提げにソフトをみっしり詰め込んだ設楽が昼過ぎに到着。もんじゃ焼きは大得意なので、と本日のシェフを買って出てくれたのだ。
しばらくして伊達、雲母が限定焼酎や季節の国産ワインを手にやってきた。丁度リビングで宴の用意を始めていた喜多村が、二人に先にちょこっと呑もうかと持ちかけた。

「設楽の家ってなんでもあるな!雅宗先輩たちはもう何回も行ってるんだよな?」
「あれよほら、もう住んでるよなもんよ。俺の部屋も作ってもらったもん!」
「あのお家にはすごい戦慄する場所がありまして…」

えやだなあ俺そんなホラー聞いてもなんともないしねえ雅宗先輩。喜多村は雲母の話を聞いた途端挙動がおかしくなる。いえいえ違うんですよ千弦くん怖い方のではなくて。

「えじゃあどんな戦慄?」
「…仏間に飾られているご先祖さま。ほらこれ、僕が撮ったんですけど」

ほら皆、設楽くんと同じお顔なんです。雲母のタブレットの画像を見てしまった喜多村は悶絶が止まらない。ソファーから雪崩れ落ち爆笑している。徹夜明けテンションで聞いちゃだめなやつ。

「わー遅れた!鬼丸う、もう始まってる?」
「すいません遅れました!こんばんは!」
「…お邪魔します」

毎度のワンノックオープン。結城と小越が滑り込みセーフ(?)途中で会ったんだ。彼らと一緒にマスター岸志田七瀬も到着。結城と小越はふわふわのおそろいフェイクファーコート。マスター岸志田もこれまたフェイクファーコート。流行ってる?真っ黒でほぼ猫。なにかのテーマパークにいるチッペンデールと妖精王のようですね。雲母が嬉しそうに三人のコートを受け取り、玄関脇のラダーハンガーに掛けた。

パーティが始まってもないのに、既に出来上がりつつある者が数名。伊達はいつものこととして、ホスト役である喜多村がやばい感じに眠そう(徹夜明けですから)。佐久間といえばけっこう涼しい顔でマスター岸志田と雲母に酌をしている。

「お待たせしました。じゃ端から土手作っていきますんで」

設楽シェフがキッチンより降臨。これで全員ですね。リビングに設置されていた2台の大型ホットプレートに、大きなボウル片手に流し込みを始める設楽。さ手伝おかね。席を立ちかけた伊達を設楽はやんわりと座らせた。

「ゆっくり一杯やっててください。すぐに食べられますから」
「えもういい匂いしてきた!」
「雲母さんと卓さんは明太子好きですよね」
「そう!大好き!優羽はねお餅が好きなの!」

じゃあここには明太子と餅入れましょう。設楽が持ってきたバットには変わり種トッピングが仕込まれている。その気配に喜多村が起き上がり設楽の動向を凝視。何?何が入るの次?すると結城が持っていたチョコレートを設楽に差し出した。

「チョコいれよ♡」
「…御意」(年長者に逆らえない性格)
「すぐるんの言うことは絶対なんね」
「王様ですからね」

チョコレートもんじゃの勘がどストライク。マスター岸志田はちょっと渋い顔。すると佐久間の腕が伸び、岸志田の目の前に小さなボトルを置いた。これ俺らからのチョコ。佐久間がワインにチューハイを混ぜながら微笑んでいる。あそれカクテルザオニマル…もう?時間的に早くない?

「チョコレートリキュールだね。嬉しい。ありがと院長」
「俺も一緒に選んだんだ!かわいいだろ?(ムフン)」
「かわいいね。院長みたいで」

あとのもんじゃはキムチとトッポギの、エビとマヨネーズの、そして小さめの規模でもってチョコレート入りの。そして全もんじゃにはちゃんとベビーでスターなラーメンが入っている。

「これがないと実家だと戦争になるんで」
「大人数得意ってすごいな!鬼丸も得意だもんな」
「…すげえうまいなあ。たいちゃんすごいや」
「しだらあ、キムチもっと入れてえ〜」
「御意」

一方、雲母とちっちゃいものクラブ2人は、チョコレートもんじゃを真剣に食べていた。侮りがたしチョコレート。なにこれ思ってもなかった甘塩っぱい美味しい。あえてコレを避けていたマスター岸志田が、結城にハガシで「あーん」されてしまい、強制的に口に入れるハメに。岸志田の大きな目が細められ、三日月の形に。

「あ、意外とこれ…旨」

マスター岸志田の呟きに、ほぼ全員がチョコレートもんじゃを味わうこととなった。

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「ねえ、ちぃたん…だめだこれ起きない。そっちは?」
「佐久間さんが珍しいですね。完落ちなんて」

もんじゃとシメのチャーハンを堪能し、いい感じにお酒も回った頃。早々に佐久間と喜多村が落ちた。しょうがないか二徹らしいしな。設楽と小越が二人を寝室に運んでやり、いろいろ片付けを終えて、残りのメンバーで仕切り直しての二次会。設楽が実家から持ってきたレトロゲームには魔物が棲んでいるのかもしれない。今度は小越と結城がハマり始めていた。テレビの前から二人とも動かなくなってる。時々酒には手出してるけど。

「なあ設楽、俺ら明日休みよね?」
「はい。代休に次ぐ代休で、ホントの休みがわかんないんですが」
「…俺らで代わってやんない?ここ」
「!伊達さんにしては名案」

にしては、は余計なんよお。伊達が設楽をポカポカと叩きながら軽く抱きついた。じゃあ僕は受付をさせていただきましょう。雲母が目を輝かせた。ものすごく嬉しそう。あれだ、スクラブが着たいんだな。そう思ったけどそこはツッコまないでおこう。

「卓と俺も混ぜてもらっていいですか?」
「手伝う!お会計とかもここでやってたし!」
「優羽くんは力あるから、大っきなワンちゃんとか助かるねえ」

わいわいと明日の算段が整っていくなか、マスター岸志田が小さな声でつぶやいた。

「じゃあ、明日の昼ごはん。俺が全員分届けようかな」

やったあーありがとマスター!結城が岸志田に抱きついて頬を擦り寄せた。やらかくて可愛いしすべすべだし得したな。そんなことを考えてたら目の前に差し出されたコントローラー。クリアよろ♡!結城は鼻歌を歌いながらキッチンに酒を取りに行った。こういう時は「御意」って言うのかな。そしたら設楽と目が合ってしまい、なぜか力強く頷かれた。

ゲームでもなんでも、外から眺めるものだと思っていた。だけどなにかのタイミングでプレイヤーになっちゃうことって、あるな。ありよりのあり。シューティング以外はあんまりやったことないんだけどね。岸志田は少しだけ挑戦的な表情で、もう一つのコントローラーを持ってこちらに笑いかける小越と、同時にAボタンを押した。




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