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smashing! ゆいいつむにのかたわらに

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。
そこから西へおよそ約3時間。大きな招き猫が鎮座するアーケード街を抜けた先に、ひっそりとした静かな山門、数匹の猫が思い思いに寛ぐ場所。佐久間の兄・達丸こと妙達が住職を勤める小さな寺がある。

佐久間家には最近、可愛い縫いぐるみや編みぐるみ的なものが増えた。佐久間の兄・達丸の同級生で幼馴染の真々部千秋のお手製だ。達丸の弟である鬼丸を可愛がっていた真々部は、幼い彼を喜ばせようと、二人の実家の寺で飼っていた動物たちの絵を描き始めたのがきっかけで、ちょっとしたキャラクターデザイナーとなりファンシー雑貨も手がけるようになった、無駄にマッチョな美丈夫だ。

「達ちゃん、これでどうやろ?」
「…まだまだ、あれの良さが出とらんなあ」

仕事用とは関係のない、大好きなものをイラストや立体で象り表現するといった、真々部本来の趣味としての「製作」を行う時は、自宅ではなく馴染みの喫茶店の隅や、達丸の寺を使わせてもらうのが真々部の定番だ。人ん家だと没頭できるのよね。私事に惑わされることなく集中できるらしい。それと達丸の寺では、もちろん寺の諸々や掃除なんかを手伝うことはあるが、基本3食ちゃんと出してもらえるのも大きな魅力。更にここでなら「作品」が完成するまで、達丸のダメ出しをいただけるのだ。

「休憩してからでええが。今日はオムライスだで」
「嬉しい!よっちゃんの、そのへんの喫茶店なんか比べ物ならんもんねえ」

達丸の部屋でずっと羊毛フェルトをチクチクしていた真々部は、数時間ぶりに大きく伸びをした。廊下を出て本堂の前、大きな仏像に軽く会釈をする。広々した本堂は基本開け放たれ、線香の煙が籠らないようにしてある。その中でふと真々部は、見慣れないものを見つけた。

「なんやろこれ、見たことない…」

どうしたんママよ。遅れて本堂を通りかかった達丸が声を掛けると、真々部は供物の段のそばで、謎の書箱を手にしていた。

「ああ忘れてた、そこにあったか…」
「あ、ごめん供養するやつかこれ?触ってまったわ…」
「ちゃうちゃう、大丈夫なやつ」

本棚整理してたら出てきたんだ。中には何故か佐久間兄弟の幼少の写真が数枚入っていた。真々部はちょっとだけ変な声が出ちゃったが、なんとか踏みとどまった。

「これ、達っちゃんコレクション?」
「ちゃう。アルバム入れようして忘れたやつ」
「見てもいい?」

達丸は返事の代わりに全ての写真を真々部に手渡した。一枚一枚、爆萌えしながらも頑張って目に焼きつけた真々部は、ふと気づいた。これは兄弟でお互いに撮り合ってる?

「よく気がついたなあ」
「だって目線がさ、安心してるのよ」

この達丸の目は、いつも鬼丸を見守る目。そして鬼丸の目は、勝ち気で優しいこの兄を心から慕っている。他の誰にも、真々部にも向けられることのない目だ。

達ちゃん悪いけど、ご飯あとでいただくわ。そう言い残して真々部はまた達丸の部屋へ戻った。あいつは言い出したら聞かんでなあ。徳河と一緒に夕食のオムライスを食べ、真々部の分を持って部屋の襖を開けると、入ってきた達丸に全く気づかず羊毛フェルトと格闘する真々部がいた。一心不乱なその姿に、今回のこの人形さんは会心の出来になるなあ。そんな確信を持って、そっと達丸は部屋を出た。

数時間後。真々部はいつのまにか布団で横になっていた自分に驚き、部屋を見渡す。テーブルの上には空になった皿。そして同じ布団の中には寝巻き姿の達丸がいた。いつのまに。
真々部の懐にすっぽり挟まるように眠る達丸の軽い鼾。真々部は苦笑しながらも、背中に布団をかけ直してやる。うんと小さな頃から、二人で一緒に寝る時のこの寝方は変わっていない。

「俺がいないとダメなのよね、達ちゃんは」

それ以上に俺も、だけどね。鬼丸と同じ色の髪が真々部の顎をくすぐる。ふわふわちくちく。これ羊毛フェルトで出来てるのかしら。そんな事を考えながら、真々部はゆっくりと目を閉じた。

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早朝。勤行の支度にかかるため、達丸の部屋を(襖ノックして)開けた、見習い修行僧の徳河慶喜は、大の男二人が同衾(?)している様に超ビックリ。

「ギャーーー!やっぱりあんたら付き合っとるでしょ!」

真々部と達丸は同じ布団に包まったまま声を上げた。

【 【 付き合っとらんて!!! 】】





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