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smashing! やさしいそのうでのなか

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。経理担当である税理士・雲母春己と、そこで週1勤務をしている、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗は付き合っている。

夜中にふと目を覚ますと、いつのまにか伊達さんが隣で寝息を立てていた。うつ伏せのまま顔だけ僕の方を向いて。小さなサイドランプのオレンジの灯にふわりと照らされ、ぐっすり眠っておられる、指先をつとその頬に滑らせても、起きる気配はない。

伊達さんの背は170センチで、僕と16センチの差がある。けれど僕よりも全然体格もしっかりしてて男らしい。腕も足も長くすらりとしてて、バランスが素晴らしいんですよまさに芸術。こうして二人でベッドに横たわっていると、その身長差がなくなって、僕は伊達さんの腕にすっぽり収まってしまえる。小さな頃から背が高かった僕は、羨ましがられるほかに不利になることもなかったけれど、いつも思っていた。好きになった方と目線を違えず接してみたい、と。ただ、そんなことしなくても伊達さんには全て通じていた。

伊達さんは小柄な分、コミュニケーションの取り方が上手で、それはきっと職業にも生かされていると思う。まっすぐ人の目を見つめて、無意識に目線を合わせようとする癖。あの接し方は人や動物を安心させてくれるから。いつも人の目を覗き込むようにして笑う垂れた目尻は、何より心が安らぐ気がする。人心掌握術とはまた異なるのだろうけど。優しい、この人は本当に優しい。でもそれはきっと、未だ話したことのないたくさんの傷を、その心に受けてきたのかもしれない。だから。

眠る伊達さんの側、寄り添うように触れるキス。伊達さんはまだ半分眠ってるような感じで、どしたのハルちゃん、小さく笑って体の向きを変え、僕に向かって手を差し伸べる。いいよおいで怖い夢見た?いいえ何でも。マイナス16センチの世界はこんなにも対等、でもこの人にはそんな数値なんてあってないようなもの。僕が大きくても小さくてもきっと、こうやって全て受け入れて抱きしめてくれる。僕が全てを手放し預けることのできる、あなたこそが僕の、主君。


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