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smashing! こころのなみにあらわれて

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。

小さい頃何を集めてたかって話になって、呑みの途中で各々の部屋へ。いくらなんでもそんな昔のはここにはないけど、爪痕的なものが何かしらありそうってことで、いくつかの箱やらアルバムやらを持ち出してきた。

「あーベイなブレードとかあったねえ」
「流行るの、大体がゲームだったしなあ」

喜多村はサッカー選手やメジャーリーガーの何らかのカード。なぜか部屋中にばら撒かれた写真が。なんで本人は写ってないんだ?そう聞くと、だいたいこんだけ持ってる的な目安で友達同士で見せ合っていたらしい。ばら撒いているわけじゃなかったんだな。佐久間はそっと言葉を胸にしまった。

佐久間は幼少期はほぼ、幼馴染で兄の友人のママちゃんこと真々部千秋と過ごしていたので、図鑑の切り抜きや鳥の尾羽、ちいさなくっつくビーズなどがあった。イラストも一緒に描いてたんだ。得意そうに差し出した写真には真々部と絵を描く姿が。うん、なかなかの画伯の片鱗が見え隠れしている。今や真々部はちょっとしたキャラクターデザイナーだが、この頃はあまり佐久間との絵の差はないような気がする。

実家だとなんか山のように取っておいてくれてるんだよな。喜多村と佐久間は顔を見合わせて笑って、空けてしまった焼酎瓶を片手に喜多村がキッチンに向かう。テーブルの上に広げた宝物のカードや写真を箱にしまいながら、佐久間はふと一枚の写真に目を留める。

あ、犬だ。

小学生くらいの喜多村と一緒に写っているのは、いま家にいるリイコにどことなく似た風貌の子。目元が特に。これが千弦の心の中にずっといる「リイコ」なんだな。その話を自分とはしたことがない。いや、きっと仲間内の誰も知らないのではないだろうか。どういう経緯でこの子と一緒なのか、あの時どんな気持ちで大学を辞めたのか、なぜそこまでしてリイコを引き取ったのか。その全ての答えがきっとここにある。佐久間はそっと指先でその「犬」を撫でる。

普段は見せない喜多村の繊細な部分を、一緒に暮らすようになって少しずつ知ることができるようになった。佐久間はその都度思うのだ。一片、一枚、薄い花びらが広がるみたいにどんどんその人となりは、自分の中で大きく鮮やかになっていく。美しさも、優しさも、その激しさも。

「鬼丸ーー、ズッキーニ炒めようか?肉もいるか?」

キッチンから呑気に響くその声で、佐久間は我に返る。うん頼むよ。平静を装い答えた。いつもの喜多村の大らかさに包まれる安堵が、些細な心のさざ波に洗われながらも尚一層、佐久間のなかで大きな礎になっていくのを感じながら。





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