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smashing! かおるそのこうばしさを

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。

どうも来院される飼い主さんが少ないなと思ったら、外は雨が降っていた。細かく霧のように散る雨でも、地味にビショビショなるもんね。夕診後各所の掃除をし、喜多村は佐久間と共に2階住居部分に上がった。

「今日雨だけど千弦、俺ちょっと外に出たい」
「うん。雨だと鼻が楽なんだよな?じゃ外行こう!ご飯行こう!」

犬のリイコにゆでささみで留守番を任せ、久しぶりに二人揃っての外出。雨の日は花粉が舞わないから呼吸が楽だ。佐久間は嬉しそうに先を歩く。おすすめが山のようにあるんだ。喜多村は佐久間の後にくっついて世話を焼く。

二人だと、一人きりより気持ちが上がる。話しかけると必ず返ってくる笑顔が、どんな光より喜多村の心を明るく照らす。早く花粉が落ち着くといいな、佐久間の腕を取り、喜多村は最近発見したというネパール料理店に案内した。

「えネパール!やっぱりカレーなんかな?」
「ムフン。それがな、焼きそばみたいなやつもあってカレー味で」
「旨かったか?」
「まだ食ってない。ウミノ湯のマミたまがそう言ってた」

最初はなんでも鬼丸と一緒に食いたいからな。喜多村が嬉しそうに佐久間の肩を抱いて店に入る。イラシャイマセー。片言の案内に促された店内はスパイスの香りに満ちている。あ、匂いがわかる。喜多村が何故ここへ連れてきてくれたのか、佐久間は改めて察した。

喜多村の笑顔と、美味しい料理と、そしてこの香ばしさ。どれが欠けても味気ないものになるんだな。佐久間は心の奥底で潮が満ちるような気持ちにちょっとだけ泣きそうになりながらも、慌ててメニューを見る振りをして、顔を逸らすのだった。




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