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smashing! ことばといやしとおれ

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。

週末に出かけたり夜遅くまで騒いだり、そんな感じで迎える日曜は朝からほぼグロッキーだ。二日酔いという程でもないが頭も体も重い気がする、これって低気圧だろうか鬼丸さん、いいえ二日酔いです多分。

佐久間は基本ザルなので、酒で具合が悪くなったことはない。朝も血圧は低いが目覚めもいい。よってほぼ二日酔ってるのは喜多村。食欲もあまり湧かないこんな時、佐久間が作ってくれる軽めの朝ご飯を楽しみにしている。ちょっと不調な俺の為に鬼丸が作ってくれたご飯。なんてスペシャルなんだ。

佐久間がリビングに運んできたのは、野菜や鶏肉が入ったあっさりめの雑炊。柚子の香りがして、しば漬けが添えられている。こういうのが食べたかったんだ。喜多村は嬉しそうにゆっくりとレンゲを口に運ぶ。喜多村と暮らすようになって肉系は増えたが、佐久間は実家が寺なせいか、得意なのは野菜中心の精進料理系。野菜の旨味を活かすのがとても上手い。あと量も多い。

ああ、体に染み渡るなあ。喜多村の呟きに佐久間が目を細める。無理したのなら養生すればいいし、疲れたのなら一緒に体を休めればいい。気持ちが不安定ならハグし合って、低気圧には酔い止めを。気の乱れにはそれぞれの対処法があるから、合った方法で癒やせばいい。言葉に出さなくてもお互いに手を差し伸べれば、俺たちは一瞬で通じ合える自信ができた。それは毎日を積み重ねて出来たもの。

すっかり元に戻ったから、昼過ぎたらまた一杯やろう!そんな喜多村に苦笑いしながら、佐久間はそれでも喜多村に合いそうな軽い酒を頭の中で吟味する。ここでノンアルにするとかは、それこそ意味がない。同じ美味しいもの食べて、そして同じように旨い酒を味わって。空気ごと互いに一体になれる、そんな時間を感じられるのだ。

喜多村の隣に座った佐久間が、その目元に軽く唇で触れる。あんま飲みすぎるなよ千弦。喜多村は答えるかわりにムフンと鼻を鳴らし、佐久間の耳に小さく囁く。俺は鬼丸がいれば無敵なんだ。知ってるよ、佐久間の唇がそう動いて、続きは喜多村の中に飲み込まれて消えた。



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