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smashing! まよけとしゅごが だいじゅうたい

最初に目についたのはその靴先。細かなキズも丁寧にカバーされた、滑らかに光るその革靴に、院内なのに窮屈じゃないのかな、と少しだけ違和感を覚えた。

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大学附属動物病院。朝礼、顔合わせで俺はチームの皆に挨拶。今日だけのヘルプ要員だというのにここの人間は至極フレンドリーに受け入れてくれた。わからないことがあったら聞いてください、人の良さそうな青年医師が何かと世話を焼いてくれる。この彼は2m近いな。大きいね。思わず出た言葉に彼は照れ臭そうに笑った。

午前の部を過ぎた頃。交代で休憩を取るため大きな彼と一緒に外で昼食。そして病院に戻ると、午後からのシフトで入ってきた数人に出くわした。

その「助教」はわりと小柄、ふわっとしたブラウンのくせっ毛が印象的で、垂れた目元がとても優しげ。人や動物に警戒心を与えないタイプだな。そして友好的でもあったのでこちらとしてはとても助かる。なんにせよアウェーではいらぬ波風立てず過ごしたい。新たな患畜への注意事項やなんかを確認し、その「くせっ毛助教」ともう一人、彼の側、というよりは絶妙の距離感で控える下僕のような、黄色メッシュの「ヒヨコ」くん。

そういえばあの大きな彼が言ってた。ウチにはすごく仲のいい先輩たちがいるんですよ!って。ランチで食べた天ぷらきしめんが美味すぎて生返事しか返せなかったんだけど、たぶん、この二人のことなんだろうか。ただあの彼が言ってたみたいに、とっつきやすい雰囲気は皆無に思える。「くせっ毛助教」は全然友好的だけど、問題はもう一人のほう。仏頂面で、でも怒っているわけではなさそうだ。

距離を測っている。視界に入る全てに対して、自分とその対象物との。特に感じるのは「くせっ毛助教」が関わった時だ。言い方はあれだが、助教を常に立てている、ように思える。それでいて周囲に溶け込もうとは思っていないんだ。際立っているのは違和感。このヒヨコくんは、きっと。

彼のためだけにしか気を配っていない。

これはあれだ、「仲良しな先輩たち」って言ってた大きな彼には悪いが、そんな次元じゃない。飄々として呑気で優しい「くせっ毛助教」。だけど俺はなんとなく気づいたことがある。まずあの靴。ピカピカで手入れの行き届いたそれには、掛けられた手間の分、逆に人を寄せ付けないオーラのような壁を感じた。全く隙がない。これも「くせっ毛助教」を護るような。

なんだろう、俺にはなぜか。この「くせっ毛助教」に関わる人間が、仲良しと称される人物が、もう一人いるんじゃないかって感じた。

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後日あの大きい彼に聞かされた事実に、改めて知らされることになる。「伊達助教は、彼氏とその彼氏、三人で同居されているんです!仲良しですよね!」

磨かれた靴は邪を払う。なるほど、他人を寄せ付けない理由。そしてそうまでしないと「くせっ毛助教」には。

邪を引き寄せてしまう何かが、あるんだろうな。



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