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Smashing! 佐久間イヌネコ病院

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佐久間鬼丸獣医師(受)と喜多村千弦動物看護士(攻)とその友人達のお話。 どうぞお楽しみ下さい!
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2023年11月の記事一覧

おいてきぼりをだきしめて・4(了)

あの時残された心の軋みは、今となってはもう上手く思い出せない。その後追い縋ることをしなかったのは、見郷のほんの少しのプライドと、何より白河の更なる拒絶を避けたためだ。もちろん嫌われたくはなかった。でも嫌われたのだろうと思った。 「別に一番じゃなくても俺は」 「事情を知ると気を遣うだろう。そんなのはお前らしくない。それに…」 「それに?」 「…とにかく、あの時はあれでよかったんだ」 物静かで鷹揚に見える白河は、見郷の奔放さとは真逆なようだが、その実こうと決めるとテコでも動か

smashing! おいてきぼりをだきしめて・3

ー 伊達くんの携帯で失礼する。見郷だ ー 短いメッセージに、白河は数度瞬きを繰り返した。そして画面を二度見、そして三度見。明らかに覚えのある苗字。こんなのはいくらでもあると思いきや絶対ハンコは特注なやつに違いない厄介だな苗字ってやつはそういえばハルのも学校とかほんと大変だった気がす(ノンブレス)。そんな白河に痺れを切らしたように、ダイレクトで電話が掛かってきた。 「夏己だな」 「…見郷」 もー何してんのおケンケンはあ!長い沈黙を破ったのは電話口で騒ぐ伊達の声だ。 「ご

smashing! おいてきぼりをだきしめて・2

週末の仕事帰り、俺のマンションにやってくるスーツ姿の見目麗しいこの男。今日は珍しく言葉少なにしているなと思った。親友が家族旅行中の事故で亡くなったのだ、彼はそう呟いた。いつものようにこいつの好物の出前を取り、いつものようにこのまま朝を迎える。その流れを遮るような何かが起こっている、そんな予感がした。 「あいつの一人息子の後見人…そう、俺が引き取る事にした。親戚もいない。ただまだ事故の後のリハビリもあって、何をしてやったらいいか考えあぐねていてな」 「…大丈夫なのかお前のほう

smashing! おいてきぼりをだきしめて・1

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。病院の経理担当である税理士・雲母春己。その雲母の元後見人はフリー弁護士・白河夏己。 あれは確か、今日みたいにいきなり寒くなった頃だった。十数年前の記憶。所々あやふやだが、仕立てのいい紬の袖口に絡まってた小さな糸屑だとか、どうでもいい事ばかりが思い出される。貴重な休日、早朝に目が覚めてしまった白河は、無意識に手探りで携帯に触れ、半目ブサイク顔のまま指先を滑らせる。すると急に目が見開かれ、いつもの涼やかな目元のステ