見出し画像

smashing! おいてきぼりをだきしめて・1

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。病院の経理担当である税理士・雲母春己。その雲母の元後見人はフリー弁護士・白河夏己。

あれは確か、今日みたいにいきなり寒くなった頃だった。十数年前の記憶。所々あやふやだが、仕立てのいい紬の袖口に絡まってた小さな糸屑だとか、どうでもいい事ばかりが思い出される。貴重な休日、早朝に目が覚めてしまった白河は、無意識に手探りで携帯に触れ、半目ブサイク顔のまま指先を滑らせる。すると急に目が見開かれ、いつもの涼やかな目元のステキハンサムフェイスに戻った。

「なんだ、ハルが来るのか…しかも三人、で今日って」

洗濯物を溜めてなかったのは及第点、ただ今日から休みということで何もかも丸投げで就寝した、そりゃ気も緩む。まあ致し方ないか。自分のようなある意味自由なライフスタイルの弊害は、何もしてないのに部屋が散らかっていくことだ。白河はベッドの上でうんと伸びをし、ようやく起き上がった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

白河はリビングのソファーで雲母の淹れたモカボルドーを飲みながら、掃除機やマイクロファイバーを手に動き回る伊達組を眺める。おかげで助かった、ひとりだとこの家は広すぎて、どうにも掃除が行き届きにくい。

「せんせ~俺冷麺作ってもい?」
「それはありがたいが、今日は少し寒い気がするな?」
「伊達さん、やっぱりチゲ鍋の方が」
「あったかい部屋でこそ冷たいのが美味いのっ」

その時伊達の携帯がポヨーンとメッセージ受信。画面を見た伊達は「アッ」の顔のまま固まっている。どうしましたお仕事で何か?雲母が心配そうに覗き込んだ。

「俺、一時間くらい抜けるけど、すぐ戻ってくるん!」
「一時間抜けてすぐ戻るとは」
「違うのよこないだのあの、誕プレ持って駅まで来ちゃったってのよ」
「あ、こないだのあの」
「そそ、向こうも急ぎだっていうから受け取るだけ。あ先生自転車あったら貸してえ、駅まで行ってくる」

俺の自転車はカゴついてるからカッコ悪いぞ、よくよく聞けば高級クロスバイクにそのような改造を施したらしい。時に外見より利便性を取る白河。「ママチャリ仕様」クロスバイクの鍵を受け取ると、伊達は素早く身なりを整えまさに風の如く出ていった。

「それじゃあ飯はオレが。先生何か食べたいものありますか?」
「マサムネ君が冷麺言ってたからそれでいい」
「御意(先生ほんと伊達さんに甘い)」
「設楽くん、お肉も何か…」
「御意、サムギョプサルもつけます」

キッチンに向かう設楽の後をこっそり雲母が追う。作り方を見たいんだろうな、雲母の様子に笑みを浮かべながら、白河はメッセージらしき受信音の鳴った携帯を手にした。



多分前後編かと。続きます!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?