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THE GAZETTEを読む(28)2018年1月号 対話の再設計 by Carlo Spellucci

 本記事は、ラスムセン・コンサルティングが発行しているメールマガジンTHE GAZETTEのバックナンバーを、日本語訳をしながら、コメントを加えながら読んでいくシリーズの一つである。レゴ®︎シリアスプレイ®︎(LSP)のファシリテーター・トレーニング修了者向けに書いている。
 この記事の引用元原文はこちらのPDFから読むことができる。

 Carlo Spellucciは世界的にも著名なLSPのファシリテーターである。筆者にはグローバル・ミーティングでの彼の新規事業アイデア開発支援の報告が強く印象に残っている。そこでも参加者をリラックスさせ、心の声をよく引き出すことを何よりも大切にしているとの印象を受けた。

Carlo Spellucci氏

「C.A. Swanson & Sonsが、ディナータイムにテレビの前に座れるようにデザインした便利なトレイに入っている即席料理を大量販売し始めたのは1953年のことでした...それはわれわれがテクノロジーを食卓に招いた瞬間でした...それはわれわれがディナータイムのホストとしての「われわれ」を諦めた時でもあります」 (Fred Durst、IDEO社CEO、Fast Company誌掲載)。
 私の子供時代、80年代には、この戦いが繰り広げられていました。5人家族の我が家にはテレビが1台しかなく、父は夕食時間のほとんどをテレビに占領されていました。一方で、母は何とか条件をクリアして、作りたての食事を出していました。
 今日の調査によれば、消費者一人当たりの平均接続機器数は3.64台で、5人家族なら5~10の機器を所有していることになります。そして、大人も若者と同じようにスクリーンタイムを減らすことに苦労しています。カフェやレストラン、家庭で、多くのカップルや友人、家族が、お互いの顔を見るよりもスマートフォンを見ている時間の方が長いのです。

THE GAZETTE 2018年1月号をDeepLで翻訳・筆者が修正

 冒頭に出てくるIDEOはデザイン思考を提唱して世に広めた会社である。デザイン思考の特徴は、徹底的に人間(ユーザー)の視点から考える点にある。そのCEOであるFred Durstが提起したのは人々の間の会話のデザインである。ちなみにここでの「テレビ」という訳語を当てた原語は「the boob tube」で、「下らない内容」ということが暗に含まれている表現とのことである。

対話のアート

 最近、IDEOの社長であるFred Durstは、Fast Company誌の記事の中で、テクノロジーが私たちのコミュニケーションの方法を変えたことに対し、対話を再設計するという課題を提示しました。「顧客やパートナー、そして敵対する相手とより建設的な交流を行い、脆弱なコミュニティを虜にするシステム的な問題に取り組むにはどうしたらよいのでしょう。」
 私はプロフェッショナルとして、レゴ®︎シリアスプレイ®︎ (LSP)を設計し、促進する技芸と技術を提供しています。私は対話のエンジニアなのです。当然、私はすぐにFredに、レゴ®︎シリアスプレイ®︎は業界、政府、コミュニティの垣根を越えて有意義な対話を生み出すのに確かに役立つと書きました。
 LSPの仕組みは、あるグループがファシリテーターと一緒に時間を過ごすことに同意し、ファシリテーターが彼らの目標に到達するためにカスタマイズされた質問を通して彼らを導くというものです。しかし、対話を修復することが課題であるならば、明確な権限を与えられていなくても、LSPを使って自発的な対話を呼び起こすことはできるのではないでしょうか。

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 この文章の脇には、そのFast Companyの記事の写真とコメントが掲載されている。このページはまだ読むことができる(そのページはこちら)。このページでは問題提起のあと、IDEOは「クリエイティブ・テンション」という対話の技法をデザインしたと紹介している。記事の範囲で理解する限り、あるテーマについて、部屋の中で意見の少し異なる人のそばに座り、対話を繰り返しながら共通点を見つけながら、新たな理解を深めていくという手法とのことである。

「対話は人類と同じくらい古いものですが、ここ数年、私たちはそれを誤った状態にしています。テクノロジー、政治、メディアは、伝統的に産業や政府、そして彼らが奉仕する地域社会を助けてきた会話を損なっているのです。」

 Fredの提示した「対話をデザインする」という課題にCarlo Spellucciはすぐにレゴ®︎シリアスプレイ®︎がそれについては優れていると反応した。これはレゴ®︎シリアスプレイ®︎の本質が、レゴ・ブロックではなく、「対話のデザイン」であると彼がしっかりと捉えていたから出来ることであろう。
 後半の彼の提案は非常に重要である。誰に頼まれてファシリテーターとして認められる場がなくともレゴ®︎シリアスプレイ®︎はいろいろな場に持ち込める。例えば私も時折、家族にブロックで作品を作ってもらい、それを使って話すときがある。そのような眼で周りを見渡せば、LSPを使う場の広がりに気づけるだろう。

ある実験

 これを検証するために、久しぶりに会った友人を訪ねたときに、家庭内での実験を行うことにしました。彼はエンジニア、奥さんは弁護士で、16歳の息子と12歳の娘の2人の子供がいます。私が到着したとき、子供たちはあまり話をしませんでした。
 「あなたはどんな仕事をしているの」と聞かれたので、レゴブロックの入った袋をプレゼントしました。LSPの手法に慣れるためにはじめの練習を行い、次に、組み立てによって答えてもらう質問を出しました。
 「もし、あなたが1年休んで、生活を維持することを心配せずに自由に選択できるとしたら、何を学びたいですか:
 何を学びたいですか?
 何をすることで、誰を助けたいですか?」

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 この文章の脇には、このワークときの実際の様子らしき写真と、ワークの結果についてのコメントも掲載されている。

結果:レゴを使った具体的な作品に、ブロックでできたメタファーをたくさん見ることができ、その日一日、家族の会話を弾ませることができました。彼らの話から、子供や親が理想とする人生のシナリオについて、多くの示唆を得ることができました。

 研修やミーティング以外の場面、例えばここにあるように、友人や家族との間の会話においても(スマートフォンなどで家族同士の対話を忘れてしまっていても)、レゴ®︎シリアスプレイ®︎は効果を発揮する。会話のあるところ、どこにもその活躍の場は埋まっている。

対話を再設計する

 Fredへの回答です!私たちは、対話の帯域を広げることで、ステークホルダーとより建設的な会話をすることができます。レゴ®︎シリアスプレイ®︎は、構成主義(constructivism)の原則に基づき、自分自身と他者を深くかつリラックスして探求するためのプロセスです。お互いが好奇心旺盛なリスナーとなり、より良いストーリーテラーになることができ、画面に乗っ取られるのを防ぐほど面白いことが証明されました。
 この魔法をかけるのは、ブロックを使うことだけではありません。それを実現するのは、構成主義のプロセスなのです。

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 constructivismは心理学者のジャン・ピアジェの提唱した用語である。彼の考えを発展させた考え方としてconstructionism(教育学者のシーモア・パパートが提唱した。こちらは「構築主義」と訳されることが多い)という概念がある。構築主義では、使っている材料・道具のほか、周りの人々とのやりとりも学びにとって重要だとみなし、子供だけではなく大人でも同様の学びは起こるとしている。そう考えると、後者の考え方も含んでここでは「構成主義」という言葉が使われているというべきだろう。構成主義(構築主義)はレゴブロックの使用を前提とはしていない。
 ただし、さまざまな材料・道具の中でもレゴブロックが、対話を促すために非常に優れたものであるのも間違いではない。このレゴブロックの材料・道具としての価値については以下のリンク先で公開されているワーキング・ペーパーによくまとめられている(英語)。

https://imagilab.org/wp-content/uploads/2021/01/WP20.pdf

 最後に、Carlo Spellucciらしい最後のメッセージで記事は締めくくられている。常にそうありたいものだ。

有意義な会話であふれる2018年になりますように。

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