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『学習する組織』をレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの文脈で読む(15)第11章 p315~

第11章は4つ目のコア・ディシプリンである「チーム学習」である。

「チーム学習」とは

 チーム学習とは、メンバーが心から望む結果を出せるようにチームの能力をそろえ、伸ばしていくプロセスである。チーム学習は共有ビジョンを築くディシプリンの上に成り立つ。また有能なチームは有能な個人の集まりなので、自己マスタリーの上に成り立つものでもある。

P.M.センゲ『学習する組織』第11章 p.317

 上記のセンゲの文にも見られるように、

 「自己マスタリー → 共有ビジョン → チーム学習」

 という積み上げがある。共有ビジョンのディシプリンでは、各人を共通のビジョンへとコミットメントさせることが最重要課題だが、チーム学習は共有ビジョンを実現するまでのディシプリンと考えるとよいだろう。
 自己マスタリーと共有ビジョンを踏まえてチーム学習を理解すべきであるので、過去のNoteでもう一度内容を確認しておきたい。

「チーム学習」の3側面

 センゲによれば、共有ビジョンを実現する「チーム学習」には3つの側面あるという。

 (1)複雑な問題を一人では達しない深い洞察力で考えること
 (2)革新的に、自発的でありながら協調的に行動する
 (3)メンバーがほかの学習するチームを育てていく

 この側面から、どれだけその組織で「チーム学習」ができているかがわかるということである。

ディスカッションとダイアログ

 チーム学習の意義である「共有ビジョンの実現」の道筋を描くための軸となるのがコミュニケーションのあり方である。センゲは、全体性と部分の関係に着目し「ダイアログ」のコンセプトを深めた現代物理学者デイビッド・ボームの考えを援用しながら「チーム学習」の中心にある「ディスカッション」と「ダイアログ」について議論を展開していく。

 チームは「ディスカッション」と「ダイアログ」という補完し合う2つのコミュニケーションのモードを習得する必要がある。これらを使い分けることはもちろん、それを妨害する力も理解して柔軟に対処することができなければならない。

 「ディスカッション」というコミュニケーションのモードでは、共通の関心事であるテーマについてあたかも卓球のゲームのように意見をやりとりする。相手の意見には反応する(打ち返す)が参加者は自分の意見の正しさや一貫性を相手に認めさせる(ゲームに勝つ)ように意見を出し、積み上げていく。何かを合意しなければならないとき、または何らかの決定しなければならないとき「ディスカッション」が必要になる。

 「ダイアログ」というコミュニケーションのモードでは、私たちの思考にある非一貫性を明らかにすることからはじまる。つまり、お互いに如何に考えていることが違うのかを確認することからはじまる。その中で、人々は自分自身の思考の観察者となることで、より大きな「共通の意味の集積」を認識する。最後は全体性の観点から一貫性をもって部分を理解できる状態を目指して進む。複雑な問題をよりよく理解しなければならないとき「ダイアログ」が必要になる。

「ダイアログ」実践のための基本条件

 センゲは「ディスカッション」よりも「ダイアログ」の方ができる組織が圧倒的に少ないと見て、「ダイアログ」の実践のための基本条件を3つあげている。

① 全参加者が自分の前提を保留する(吊り下げる)
② 全参加者がお互いを仲間だと考える
③ ダイアログの文脈を保持するファシリテーターがいる

 このうち①の「保留する」とは、自分の前提に気づき、認め、いつでも質問したり観察するようにしておくことである。この前提に気づき、質問を受けるということは、その前提を「否定する」ということに直結するというよりも、前提を中心に理解を広げ、意味を深めるという狙いがある。

 これにより「メンタル・モデル」を作り替えるという振り返りと探求のディシプリンが大きく強化される。

 ②はお互いに①の状態を作りやすくするための条件になる。お互いに相手の足を隙あれば掬おう、つけ込まれないように弱みを見せまいとする関係では前提を認めることはおぼつかない。ここでの「仲間」は同調圧力を意味するのではなく、お互いの力を合わせることで一人では得られないより深い理解を得ようとする前向きな姿勢を全員が保っていることを示す
 行動科学の大家、クリス・アージリスが示す防御的な心理や行動は、「ダイアログ」が求められる複雑な問題に向かおうとするときに生じやすい。自分だけでは無理だという弱みに気付き、防御的な振る舞いになっていることに気づくスキルもここに含まれると考えておいた方がよい。防御的な心理や行動については「メンタル・モデル」のディシプリンを扱う第9章でも扱われているのでそちらも改めて確認しておきたい。

 ③は②の状態を保ち、①ができるように参加者を導く役割がないとなかなか「ダイアログ」が成立しないということを意味している。また、「ダイアログ」の参加者として最もふさわしい振る舞い、すなわち意味の流れを見て今言われるべきことを感じ、その言葉が場に出されるようにする。ちなみに「チーム学習」のスキルが高まると、ファリシテーターの役割は小さくなっていく。

 また、「ディスカッション」と「ダイアログ」のバランスや切り替えも(本文では明示されていないが)、ファシリテーターが担う重要な役割であるといえる。

 この基本条件を簡単に満たすことは難しいので、練習が必要だということもセンゲは強調している。実に多くのチームが、生産性や効率性のもとに練習を軽視するが、結果として生産性や効率性が大きく損なわれているのである。

チーム学習とシステム思考

 チーム学習の「ダイアログ」は、ひとびとの中のある問題に対する考えと行動の非一貫性を暴き出す。その非一貫性を否定するのではなく、「全体」という観点からつなぎなおし、一貫性をもって理解できるようにする。一貫性を作り出すときに役立つのが、システム思考、その中でも特にシステム原型などの「構造」である。

 また、防御的な振る舞いがなぜそれほど頻繁に起こるのか、それを放置しておくとどうなるのかを知っているのも重要なチーム学習のスキルである。そのスキルもまた、「問題のすりかわり」などのシステム原型を知っていることによってより効果的に習得されることになる。

レゴ®︎シリアスプレイ®︎とチーム学習

 まず、今回の中間で扱った「「ダイアログ」実践のための基本条件」は、まさにレゴ®︎シリアスプレイ®︎のメソッドで作り出されるものであると、ファシリテーターやワークの体験経験のある人ならすぐに考えるのではないだろうか。

 ①の意見を吊り下げることは、モデルを作って目の前に置き、それについて話したり質問したりすることで実現する。
 ②の仲間はエチケットを通じてワークの基礎演習(スキル・ビルディング)で作られる。
 いずれも「ダイアログ」が参加者間でできているかどうかについてファシリテーターが常にアンテナを立てて場をみており、自身も最も「ダイアログ」を体現する振る舞い(意味の広がりや深まり)ができてこそのことである。

 また、そこに「ダイアログ」が起こり、それを参加者が体験し、理解したということを何によって確認するかということも考えて。

 また「「チーム学習」の3側面」から考えると、チーム学習は組織に広がっていかねばならないということにも目を向けておきたい。一つのレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを通じたワークの効果が、その場に参加した人はもちろん、どうやったら効果が組織全体に波及していくのかということも(簡単でないことは承知の上で)考えていく必要がある。もちろん、ファシリテーターが組織の各部所を回って組織の構成員全員にメソッドを届けることが最もシンプルな方法だが、簡単にはそのような機会はもらえない。そのような機会を得るための相応の工夫が必要であろう。

 何よりも「チーム学習」は学習されるものであり、それには練習が必要だという見解は、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを組織の中にどのような頻度で導入するべきかということにつながる。「チーム学習」スキルを学ぶために、ワーク後に繰り返し「練習」をすることを前提としたワークの設計方法も考えていかねばならない。

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