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THE GAZETTEを読む(25)2017年5月号 静かなるリーダーシップ:自分で考える機会をつくりだす

 本記事は、ラスムセン・コンサルティングが発行しているメールマガジンTHE GAZETTEのバックナンバーを、日本語訳をしながら、コメントを加えながら読んでいくシリーズの一つである。レゴ®︎シリアスプレイ®︎(LSP)のファシリテーター・トレーニング修了者向けに書いている。
 この記事の引用元原文はこちらのPDFから読むことができる。

底から始める

 今号で扱う『静かなるリーダーシップ(Quiet Leadership)』の著者だるデイビッド・ロック氏は脳神経科学にいち早く着目し、脳神経科学者とビジネス・リーダーを集めて「ニューロリーダーシップ・サミット」を創設した人物として知られる。『静かなるリーダーシップ』については、横のコラムで以下のように紹介されている。

本書は、脳の働きに関する最近の発見をもとに、新しい会話の方法を紹介するガイドブックです。新しい考え方、新しい聞き方、新しい話し方、リーダーが部下と交わすすべての会話への新しいアプローチを指し示しています。

THE GAZETTE 2017年5月号をDeepLで翻訳・筆者が修正

 『静かなるリーダーシップ(Quiet Leadership)』は日本語に訳されていないが、それよりも後に出版された『Your Brain at Work』は『最高の脳で働く方法』として日本語訳が出版されている。

 『静かなるリーダーシップ』の序文で、デイビッド・ロックは次のように書いています。「認知行動療法やさまざまな行動科学で使われている氷山モデルという比喩があります。氷山モデルとは、何事においても、私たちの一連の行動、つまり習慣によってパフォーマンスが左右されることを説明するものです。氷山モデルでは、私たちのパフォーマンスは、私たちの行動、習慣、そして感情によって左右されると説明しています。
 氷山モデルでは、私たちのパフォーマンスといくつかの行動は目に見えますが、他の行動、感情、思考は水面下にあります。私たちのパフォーマンスの原動力は、表面に見えるいくつかの習慣だけでなく、もっと多くのものがあります。そして、その根底にあるのは、私たちの考え方です。つまり、仕事での成果は、私たちがどう考えるかによってもたらされるのです。しかし、もしあなたがリーダーとしてパフォーマンスを向上させたいのであれば、最も効果的な方法は、底にある「考え方」を改善することから始めることなのです。」

THE GAZETTE 2017年5月号をDeepLで翻訳・筆者が修正

 『静かなるリーダーシップ』での議論は主に、結果・行動・感情・思考の4要素の関係性を示した『氷山モデル』に基づいている。図にすると以下のようになる。

『静かなるリーダーシップ(英語版)』で示された図を筆者が訳したもの

 思考は感情に影響されるという考え方もあるが、ここでいう「思考」は自分でも気付かない固定された「思い込み」という意味合いで理解すべきであろう。例えば、あることについて不快な感情になったとき、「なぜ私は不快に思うのか?」と自らに問うてはじめて気づく「思い」がここでいう「思考」である。それは、2016年12月号でいう「習慣的思考」でもある。それは組織が次のレベルに上がっていくために打破するべき「思考」ということだ。

Heidi Buus Beldamのアハ体験

 最近、成功したIT企業で変革を担当するHeidi Buus Beldamが、私が開催したレゴ®︎シリアスプレイ®︎(LSP)のファシリテーターのトレーニングに参加しました。彼女は、トレーニングを受ける前は、LSPの経験はほとんどありませんでした。4日間のトレーニングの後、彼女は非常に興奮し、「これだわ!これこそ私が探し求めていたものです!」と言い放ったのです。私はポジティブな反応には慣れていますが、これは突出したポジティブな反応だったので、彼女にさらに詳しく聞いてみました。
 「私たちは、他の人たちのベストを引き出す名人である、静かなリーダーを必要としています。そのようなリーダーは、人々が安心して発言できるようにし、従業員の思考を向上させ、それによって従業員やチームをより高い次元に成長させることができるのです。このようなリーダーたちは、誰にも指示することなく、脳が情報を処理し、新たなつながりをつくる方法を改善します。今日の企業では、多くの人が考えることで給料をもらっていることを考えると、思考を改善することはパフォーマンスを向上させる最も手っ取り早い方法の1つだと言えるでしょう。しかし、これは実際よりもずっと簡単にできるように感じます。レゴ®︎シリアスプレイ®︎で、私はそれを実際に実現するためのツールと方法を手に入れたからです。

THE GAZETTE 2017年5月号をDeepLで翻訳・筆者が修正

 「静かなる」は、うるさくメンバーに指示をしてまわるリーダーとは対照的に、メンバーの奥底にある「習慣的思考」をその人が自力で自然に変わったと思うぐらい密やかに影響を与えるイメージである。レゴ®︎シリアスプレイ®︎は、皆が笑顔でもりあがりやすく、比較的活発なワークショップになるが、参加者が誰から命じられるのではなく自ら納得して変化を起こすように導くという意味では「静かなる」ものになる。

そこにある関連性とは?

 「静かなるリーダーシップ」とレゴ®︎シリアスプレイ®︎は、脳の働きに関する神経科学の最新の発見に基づい ています。なぜなら、私たちの脳の基本的な機能は、情報の断片間の関連性、つながり、リンクを見つけることだからです。私たちは秩序に囲まれていると安心し、すべてがつながっていることを感じる調和の中にいると気分がよくなるのです。
 脳の仕組みを知った上で、神経科学者は次のように結論付けています。
 1. 何らかの行動を起こすには、人は自分で考え抜く必要がある。
 2. 人は、自分で考え抜くことにはエネルギーを必要とするため、ある程度、惰性で考えることになる。
 3. アハ体験という行為は、人が意欲的に行動するために必要なエネルギーを与えてくれる。
 今日のリーダーにとって重要で、静かなリーダーであるためには、人々が考えたくなるような物理的・精神的な空間を作り出すこと、人々が考えを単純化するのを助けること、人々の考えの特質に気づき、人々が自らつながりを作るのを助けることができる能力が重要です。
 ここに関連性があります。レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドによる巧妙な設計(artful design)とファシリテーションがそれをまさに可能にします。

THE GAZETTE 2017年5月号をDeepLで翻訳・筆者が修正

 Artfulは「巧妙な」という訳語を当てた。意味合いとしては、ワークショップ実施の文脈をしっかりと把握して、最も効果的にカスタマイズするということになる。
 ここで指摘されているように、レゴ®︎シリアスプレイ®︎では、ある問いに対して自分の意見を表現したモデルをつくり、それを共有することになるが、参加者はお互いの話を聞きながら、(意識しなくとも脳の中では)相互の関連性を探っている。進行中のファシリテーションによって相互のモデルの関連性を探ったり表現させたりすることでアハ体験を起こせるときがある。それは参加者自身がワークの中で自ら気づくので、誰かに導かれるという感覚ではなく、自らが自分自身を気付きによって導くという感覚で気付きにもとづく行動へとモチベートされるのである。まさに「静かなるリーダーシップ」がそこに生まれるのである。

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