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ブロック作品でディベートをさせる

 社会科学の学術論文では、考察対象に対する「光と影」という表現が、ときどき使われる。それが他に良い影響を与えていると同時に悪い影響も存在しているということを表す表現だ。
 このような発想は、人間の思考一般で、よく見られるようで「メリットとデメリット」「有効性と限界」「意図した結果と意図せざる結果」などという表現も、おおよそ同じようなことを含みにしている。

 何かを考えるときに、このような二面性を考えることができるかどうかは言うまでもなく大切で、ディベートなどはこの「光と影」を掘り起こす能力のトレーニングとしては最適なものの一つであろう。

 この「光と影」を考えるには、その対象について調べるとともに、その影響が及ぶ先をイメージする力が重要である。例えば、「消費税を上げる」ことの是非を問うときには、それが何に対して何をもたらすかを探り、Yes側はプラスの効果を主張し、No側はマイナスの効果を主張することになる。そしてお互いの主張する効果が他の簡易な方法や工夫の導入によって、いかに簡単に打ち消せるかをイメージさせることによって主張を弱めることができる。

 もう一つ、ディベートで重要な要素となるのが、主張や反論の正しさを裏付ける精度の高いエビデンスの収集であるが、それも適確な主張や反論の方向性を定めるセンスがあってのものなので、まずは、さまざまな角度から主張を吟味したり、反論を掘り起こす能力を鍛えることを重視したプログラムがあっても良いのではないかと思われる。

プログラム進行のイメージ

 レゴ®︎シリアスプレイ®︎そのものではないが、主張や反論をイメージする補助として、それらをブロック作品で表現しながら考えるという点を利用して以下のような方式を考えてみた。
 ただし、主張や反論をブロック作品にするというのは少し練習がいるので、レゴ®︎シリアスプレイ®︎の未経験者には、60分ぐらいの事前エクササイズが前提となる。

 まず参加者で、テーマ(ある命題)を決め、それを支持するYes側と反対するNo側とジャッジに分かれる。

 そして、まずあるテーマに沿ってYes側とNo側で基本的な主張を作品にする。チームを組んで行う場合には、メンバーそれぞれが主張作品を作り、それらを組み合わせて一つのモデルにする。それらをそれぞれ相手とジャッジに向けて説明する(Round1)

Note用スライド01

  次に、時間制限を設けた上で、チームごとに相手のモデルに対して反論を表現したモデルもしくは、自分達の主張の追加モデルを作る。時間制限内で、いくつ作ってもかまわない。大事なのは反論については何に対して反論しているかである。チューブや紐などでそのモデルが反論している部分がわかるようにコネクティング(反論は黒色とここではしている)する。(Round 2)

Note用スライド02

 この例では、Yes側は相手に対して反論2つと追加の主張、No側は2つ反論を作った。それぞれどのような主張か、相手の何に対して反論しているのかを明確にしながら相手チームとジャッジに説明する。

 次のラウンドでも制限時間を設け、さらなる反論か、反論に対する対策か、主張の追加についての作品をそれぞれのチームで作る。ここでも作品が何に対してどう関係づけられるかを作品間のコネクションで表現する。そして、相手側とジャッジに対して説明を行う。

Note用スライド03

 反論に対する対策のモデルの場合には、主張の擁護になるので、ここではそのような狙いをもつものは赤色のコネクションで表現させている。

 以後、繰り返し、何度か時間を区切って主張、反論、対策のモデルとモデル間のネットワークを広げていく。

Note用スライド04

 何ラウンドか繰り返して終わりとする(最初に設定されていてもよい)。例えば上図のようになった段階で終わったとする。最後は、ジャッジがYes側かNo側の勝敗を決め、勝敗のポイントとなった作品とモデルに対して、コメントをして終わる。

 この方法の想定されるメリットは以下の通りである。

(1)ブロックで作ることでイメージを膨らませながら主張や反論を考えられる。
(2)発言がモデルとして机上に残るので、どの主張に対してどれだけの反論や対策が考えられていたか振り返りやすい(記録も取りやすい)。
(3)ジャッジ側も自信ある物言いや勢いがあるなどの要素から離れ、内容に基づいたジャッジがしやすいし、コメントも出しやすい。
(4)チームで行う形式になれば、一人一人のメンバーの関わりが大事になる(通常の方法だと一人弁が立つ人がいれば、その人の活躍で勝敗が決まってしまうことが多々ある)

 一方、このやり方の想定される弱点としては以下のことがある。

(1)作品づくりの分の手間と時間がかかる(4〜5時間ぐらいは、余裕でかかりそう)。
(2)主張の裏付けやエビデンス部分が盛り込めない(これは作品に対するエビデンス・パートを作れれば避けられるかもしれない。例えばラウンドの合間に自分達の主張や反論を具体的なエピソードやデータで主張する時間を設けるなど)。

 今回はディベートを想定してプログラムを提案してみたが、何らかの社会的な問題を探求するときのまとめや方針作成にも使えそうな感じがする。この記事を書いている段階では、本当に単なる構想なので、どこかで試験的に試してみたいとも考えている。

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