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『くいしんぼうのあおむしくん』

実家の大掃除をしているここ数日。
めちゃくちゃ好きだった絵本が出てきた。

『くいしんぼうのあおむしくん』(作:槇ひろし、画:前川欣三、福音館書店)である。
『はらぺこあおむし』ちゃうんかい、とツッコまれること山の如しなタイトル。しかし内容はもちろん全く違います。

『くいしんぼう〜』はたまたま拾った手のひらサイズのあおむしくんが何でも食べちゃう話。
主人公まさおくんのおやつもおもちゃも、パパもママも街そのものも、海も山も食べてしまう。
最終的にはまさおくんも食べてしまうんです。
でもあおむしくんのお腹の中にはまさおくんの街が広がっていて、パパもママもいて、だから空の色はあおむしくんと同じ、あおく透き通った色なんですよ、という、まあなんともそら恐ろしい話です。

昔はまさおくん目線で読んでた。
でも今は完全にあおむしくん目線になっていることに大掃除の最中に気付く。
(大掃除の最中に懐かしい本を見つけ読みふけってしまうのは自殺行為)

「やめろ、やめろ!」と何度もまさおくんが悲痛な叫びを上げて止めるのに対しあおむしくんは
「ごめんなさい。ぼくおなかがすくと ほんとうにだめなの」
と叱られてしょんぼりします。
でもすぐ空腹になって何もかも忘れて食べてしまう。
世界に何にもなくなって、まさおくんは
「とうとうぼくひとりぼっちになっちゃった」と嘆きます。
実際にはあおむしくんとふたりぼっちなのに、すごく意図して書かれた台詞なのがわかります。
そしてあおむしくんを罵倒します。あおむしくんはまさおくんのためにまさおくんを食べます。

あおむしくんが悪気なく欲望のままにむしゃむしゃしてるだけなら不思議怖いだけで済む絵本ですが、強い自責の念が描かれているところがすごく揺さぶられます。
「ひとりぼっちになっちゃった」と言われたあおむしくんはどんな気持ちだったか。
あおむしくんは暴食してしまったあといつもしょんぼりしている。
自分で自分の体質をコントロールできず、周りの人みんなを傷付けて、ついには一番大切な人も傷付けて、ひとりぼっちになるあおむしくん。
今どうしているんだろう。
もう食べるものなんか残ってないだろうに。
でも今も空は青いのである。

+ + + + +

私には「双極性障害Ⅱ型」という精神障害がある。
今は平常時が多いが、躁や鬱になるとほとんど自分ではなくなってしまう。
たくさんの人を無意識で傷つけてきたと思う。
それは自分の意思ではなくても実行したのは私だし、事実は消せない。
そういう時は大概消えたくなる。
何度か遺書も書いている。
死ぬために必要な作業は何かな、と考える。
To Doリストを作る。手続きしなきゃいけないものを思い浮かべる。
口座、クレジットカード、スマホ、Wi-Fi、ヨガスタジオの会費、ファンクラブの会費、SNSはどうする? 荷物みんな捨てなきゃ。これ燃えるゴミ? 燃えないゴミ?
そうやって遺書やリストを書くとお世話になった人の顔が浮かんだり、実作業が面倒臭かったりで、死なずに済む。
冷静になるために遺書やエンディングノートを書くというのは私には結構有効だ。
でも、場合によっては孤独が文字で炙り出されて、より一層死にたくなるので諸刃の剣だ。

自分で制御ができない行動で他人を傷つけてしまう。
これは双極性障害に限らないと思う。
発達障害、統合失調症、認知症、高次脳機能障害、更年期障害、月経困難症、様々な脳の機能障害。
そして障害がないと今はされている人でも、自制できないことなんて山ほどあるだろう。

あおむしくんの存在を唯一証明してくれていたのがまさおくんである。
でも存在に耐えられなくなったあおむしくんは、まさおくんを食べることで消えてしまった。誰からも認識されなくなった。
それは計り知れない孤独だと思った。

私も今の医師に出会うまではそうだった。とにかく他人と関わらないように。関わったら何でもかんでも傷つけてしまう気がして。

と、ここまであおむしくんに肩入れしまくっているが、まさおくんは医者じゃない。
介護でも治療でも、専門家と当事者を支える家族や友人がいなければ成り立たない。
まさおくんにあおむしくんの全てを背負わせるのは重すぎる。

せめて空が青い理由をまさおくんが覚えていてくれてると良い。




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