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あなたと出会うお茶づくり

お茶との出会いの先にあるのは、人との出会い。

創業100年近くになる富士山まる茂(まるも)茶園。すぐ後ろには富士山がそびえたち、富士山の火山灰が積もった土壌に茶畑が広がっている。まさに富士山と共にお茶づくりをしている茶園だ。

わたしたちKiKiのオリジナル茶葉「muica」を作ってくださっている茶師(お茶を選定・調合・製品化する職人)である、五代目本多茂兵衛(もへい)さんにお話を伺った。


朝、晴れた!夏の富士山は頂上に雪がない。

はじめにことわっておくと、本多茂兵衛さん(以下本多さん)の話はむずかしい。明確な答えがほしくて質問しても、返ってくるのは曖昧で、哲学的なことばかり。
それは日々お茶づくりをしながら自問自答し、口をきいてくれない自然を相手に人一倍考えているからだと思う。

だからこそおもしろい。
それはこの記事を書こうと思った理由の一つ。
本多茂兵衛という茶師のおもしろさを感じてもらえれば、おのずとお茶のおもしろさに出会えるはず。

富士山まる茂茶園 五代目本多茂兵衛

本多さんは富士山まる茂茶園の五代目として生まれ、早稲田大学商学部を卒業後、福岡県八女市の茶園での修行期間をへて、五代目本多茂兵衛を襲名。

「もともと継ぐ気はなかったんだけど、やってみたらおもしろくなってしまって。あとから興味をもったクチだよね。」

お茶のために300年生きる

本多さんの生活はお茶を中心にまわっており、新茶の時期など繁忙期には何日も徹夜で仕上げていくほか、常時15種類以上の茶の木を育てて実験を繰り返す。

「できあがる製品としてのお茶の香味にあわせて、肥料を入れたり入れなかったり、農薬を使ったり使わなかったり、様々な栽培、摘採、製法を試し続けている。まるで茶の木の奴隷だよ(笑)」

「僕を動かしているのは新しいお茶との出会い。22歳でお茶の業界に入って以来、名人たちが高齢すぎるから普通に生きていたら背中も見えないと思って、1年で3年分生きて追いかけようと思ってる。」

「人の人生を100年としてその3倍、せめて300年分はお茶に携わって、未来を手繰り寄せたい。」

緑茶、紅茶、ほうじ茶、ハーブティー。さまざまなお茶の研究をしている。

ビギナーもマニアも海のむこうも

インドや中国など各国の技術を取り入れ、日本茶の新しい表現を探っている本多さんのお茶づくり。その世界はビギナーからマニアまでが楽しめる広さと深さをもっている。

「ふだん店頭で販売しているものは、なるべく分かりやすい味や香りの、受け入れられるレンジの広いもの。ディープなお茶の世界を求める人にとっては物足りないハズだから、もう少しレンジが狭くて個性的な第二弾、三弾とよりディープな商品を隠し持っているんだ。」

そのお茶は日本を飛び越え、世界中に届けられている。フランスとドイツのテレビ局でドキュメンタリーが作られたり、「Mohei」の名を冠した海外向けのクラウドファンディングでも多くの資金を集めた。

フランスとドイツが共同出資する文化チャンネル「ARTE」によるドキュメンタリー

この一枚の葉に出会う

本多さんの話は、ときに宙をさまよい、哲学的な話になることもしばしば。でもその話は自然体で、お茶や人にたいする愛にあふれている。
その態度が、主張しすぎず飲んでいて気持ちのよいお茶の味や香りにも現れている気がする。

「同じ品種、同じ畑、同じ日にとれたものでも、一枚一枚の茶葉は別物。君たちが飲んでいるその「一枚の葉」にめぐりあうことは二度とないから、その出会いは奇跡であり幸運なんだよ。」

「この茶園も、富士山が噴火したら小一時間で溶岩の波にのまれてこの世から消え去る運命。明日も必ずあるわけじゃない。」

「人も同じ。だからこそ一緒にお茶を囲んだときに感じる人と人とのつながりに感謝して過ごしたい。それがほんとうの一期一会っていうものじゃないかな。」

一期一会とはよく使われる身近な言葉だけれど、その奥にある深い意味を考えられていなかった。今日あるものは明日も続くような気がしてしまうけれど、そんなことはない。

茶の木。学名 カメリア・シネンシス

自分の感性を育てる

「あなたのお茶は何がいいの?と聞かれることもあるし、いろいろな評価基準もあるけれど、まずは飲んで感じてみてほしい。結局それがすべてなんだよね。」

「何も感じなかったら?茶園側に問題があるかもしれないけど、五感が理解に至るに達してないことも。体調の問題や好み、経験。シンプルに舌が悪いとか(笑)」

「コンテスト入賞とか、googleの評価が良いとか、手摘みだとか、看板やラベルに惑わされないで自分の五感で好きか嫌いかを判断する生き方のほうがストレスがないと思ってる。」

モノや情報があふれているこの時代、表面だけをなぞらえたわかりやすい言葉に惑わされて、自分の価値基準や感性で判断できる人はそう多くない。
自分の感性で判断した、本当の意味での豊かな暮らしをすること。
それは毎日飲むお茶を味わう、といった小さなことの積み重ねなのかもしれない。

次世代につなぐ茶の木

茶葉を収穫できるまであと5年かかる。そのあと50年茶の木として続いていく。

お茶を通した自分の表現、そして受け取り手とのコミュニケーション。それらを大事にする一方で、自分の茶園だけではなく、お茶業界全体を良くしていきたいという想いのとても強い方だ。

「僕が今こうしてお茶を作れるのは自分の力じゃなくて、先祖や、周りでお茶を育て産地をかたち作ってくれている農家、茶師。そうした人達が紡いできた茶業の歴史があって、その末端に立たせていただいている。」

「お茶づくりが先人たちから受け取ったものだとすれば、それを守って、発展させていくことが使命だと感じているし、今の時代にできる役目を果たしていきたい。」

工場にてお茶をつくりながら話をきく。

わたしたちは大人5人で2時間ほど雑草抜きの作業をして、ようやく見渡せる範囲の茶畑がきれいになった。

本多さんのお茶づくりを土から見せていただいて、問いをなげかけられた気がする。それは、仕事としてだけはなく、いまの日本で暮らす生活者としてどう生きるか。そんなことだと思う。

「お茶にはいろいろな楽しみ方、可能性がある。
君たちらしいあり方を探ってもらえれば。」

暑さを避け朝6時から作業。茶畑がきれいになった!

アナザーストーリー。 わたしたちのお茶づくり

わたしたちは、本多さんのお茶づくりに触発されながら、独自のお茶のあり方について探ってきました。

ふだんの暮らしの中でお茶を飲んできて思ったのは、飲み物として美味しいだけでなく、その先にある豊かな暮らしや時間もつくりだしてくれるという、お茶のもつユニークなおもしろさや楽しさ。

そのおもしろさ、楽しさを多くの方に伝えたい、共有したいという想いから、オリジナル茶葉づくりがスタートしました。

日常のさまざまなシーンを本多さんに伝え、香り、味、余韻などの観点からシーンに合ったお茶を作ってもらい、試作を繰り返し、日々をあじわうお茶「muica」が完成しました。

今回は本多さんにmuicaの6種類の茶葉について解説してもらいました。

日々をあじわうお茶「muica」

01玉露煎茶FUU
「食後に飲むお茶というコンセプトのために、食べ物の油分を切ってくれるような味わいに仕上げています。いまの食卓に多い洋食にも合うようなイメージ。」

「玉露の風味を感じるこのお茶は、嗜好品としての玉露の味わいに慣れる最初の一歩になればいいよね。」


02ハーブ煎茶SUISUI・03スパイス煎茶HARE
「日本茶の技法として合組(ごうぐみ)というものがあって(異なる茶葉を組み合わせて狙ったお茶をつくる技術)、その技術をハーブやスパイスなどの素材にも広げている。」

「ハーブもスパイスも、仕入れたものをそのまま使っても問題ないんだけど、目視で確認して、悪いものは弾くようにしているのは茶師としてのこだわり。」

「味を出すために細かく刻む部分、見たときに楽しいように形を残す部分、というように、機能によってさまざまな形状の素材を合組している。味わいも、見た目も大事だから。」

03HARE ローズの花がきれい。


04ほうじ茶MARU
「ほうじ茶は一般的に強火で10分くらいで焙煎して香りづけをするんだけど、これは焙煎して、休ませて、また焙煎してというのを3日間繰り返して芯までしっかりと火を通していく。」

「実はこの2つの焙煎は技術的に違うもので、後者は中国や台湾の烏龍茶において嗜好品としての価値を上げるために使われるような技術なんだ。」

「そうしてできるのが雑味がなくて、甘い、カフェインの少ないお茶。個人的に一番好きなお茶で、子どもたちとも安心していっしょに飲める。」

時間をかけて手作業で焙煎していく。


05焙煎紅茶GEKKO・06紅烏龍茶YOI
「GEKKOは重厚で、中身が詰まっているイメージ。単体で飲んだ時の満足感がしっかりある。」

「一方でYOIは軽やかで、中身が空洞のイメージ。重いものと組み合わせたとき空洞の中にハマってくれてバランスが良くなる。
ミルクだったりコーヒーだったり、ジビエや根菜と合わせてもおいしい。」

05焙煎紅茶GEKKO。焙煎前の状態。シンプルな紅茶らしい味わい。
焙煎後。スモーキーな香りが特徴の唯一無二のお茶に変化した。

今回、焙煎をかける前の04~06のお茶を飲ませてもらったが「ここまで変わるのか!」と味の違いに驚くとともに、焙煎の技術によって唯一無二のお茶が作り出されることを改めて認識した。

他では飲めないような味がこのお茶には確実にある。
そんなことを感じながら、改めて自分たちのお茶を好きになった体験だった。
ぜひお店で、自宅で飲んでみてほしい。

わたしたちらしい、お茶の届け方、楽しみ方をこれからも一歩ずつ模索していきたい。
そして一緒に楽しんでくれる仲間に出会えたら、これほど嬉しいことはない。


写真撮影:
きさらちさと/サムネイル、1.2.4.5.6.7.8.10.11.12
松田大成/3.9


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