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陽性のあとで②

思うようにいかないことなんてたくさんあるのに、この頃はこれから起こることが受け入れられず、思考を停止させていました。『きっと大丈夫』ポジティブではなく虚無を発動させるのには、充分な出来事でした。


泥濘にいる気持ち

初診から2週間後。期待と不安の中で迎えた再診を終え、地に足が付かない日々から一転、泥濘に足を取られたような気分で私は帰宅しました。はっきりと何かを言われたわけではないため、安静に過ごしたほうがいいのか、普段通りでいいのか、自分で判断するしかありませんでした。なんとも言い難い病院側の立場もなんとなく理解できました。泣き出したいような逃げ出したいような気持ちもありましたが、1歳の活発な娘のためにも今自分が崩れ落ちるわけにはいかない。心に蓋をしました。

しかし1週間後の再診を待たず、翌日から少量の出血が確認されました。妊娠中であれば時期を選ばず出血の可能性があると解っていましたが、やはりとても動揺しました。ごく少量の出血でしたが、4日後に片道2時間の電車移動を控えていたため、その時に何かあっては困ると思い翌朝すぐに病院へ行くことにしました。悲しみでいっぱいになる自分を別の自分が窓の外から見ているような、やり場のない辛い気持ちでした。


再々診、再々再診

翌日病院へ行くと、初めての女性医師が診察にあたってくれました。優しい雰囲気の医師でした。内診時「ここにいますね~」と明るい口調で言われたので、何とも拍子抜けしたのを覚えています。前回同様やはり心拍は見えず、決して状況が好転したわけではなかったと思いますが、その時医師に「まだ何もわからないのが現状ですから、普通にしていましょう」と言われました。流産の進行が見られたわけでもなく、胎児の異常が見られたわけでもなく、いつもと違うのは動揺しきった自分なのだと気づき、翌週の診察まではいつもの自分でいようと強く思いました。

少量の出血は続き、気のせいと取れなくもない腹痛が何度かありました。週が明け、本来3回目だったはずの4回目の診察の日を迎えました。つい3週間前、あれほど輝いて見えた病院の受付や待合室はもうありませんでした。この日、流産の診断を受けました。
後に行う処置の流れや日程について、淡々と話してくれた医師の顔を全く覚えていません。耳は聞こえているのに、目に見えるものが夢の中のようにぼんやりしていました。自然排出を待つという選択肢も与えられましたが、雰囲気に促されるまま翌々日に子宮内を掻把する手術の予約をしました。悲しいでも苦しいでもなく「嫌だ」という言葉が一番近い気持ちでした。


自然排出となって

非日常は「これでもか」とわが身に訪れます。この日の夜23時頃から、自然排出による激しい腹痛、出血が始まり、駆け込んだトイレの中で組織切片を拾い上げる事態となりました。
止まらぬ出血に恐怖を覚えながらでしたが、ある瞬間「ポン」と出た何かが私に宿った赤ちゃんであることは直感的にわかりました。汚い話なのですが、迷うことなくトイレに手を入れ、その塊を私はすぐに拾い上げることができました。透明な丸いボールの中に、太陽にかざした指先のようなものがありました。きれいな胎嚢でした。心が追い付かず少しおかしくなっていたのかもしれませんが、出産をした時のような「会えた」という喜びを感じました。出血の量や状況からして気づかずトイレに流してしまう可能性のほうが高かったと思いますが、それに気づいてこの手に抱き上げることができたその時の感動を、人には言えませんが大切な思い出として自分の胸に残しています。こうして書いているとやや客観的になるので、やはりその時の自分は少しおかしくなっていたかもしれません。

夫を呼び状況を話し、深夜ではありましたが病院へ連絡をしました。痛みが引くようなら翌朝、可能ならば組織片を持参し受診するようにと言われました。眠れぬ夜を過ごし言われたままに病院へ行き、持参したものを病理検査に出すことになりました。ここで初めて、自分が”流産”をし、胎の子を失ったのだという悲しみが”普通の感覚”で溢れてきました。僅かに組織の残りが子宮にみられるとのことで、1週間後に再診することになりました。掻把の手術をせずに済んだのは幸いのように言われた気がします。痛み止めとパルタンM錠という薬を処方され帰宅しました。腹痛はかなり収まったものの、横になっているくらいがちょうどいい状態でした。


不妊治療に挑戦する自分に起こった出来事を要約した記事にするつもりで始めたのですが、どうやらお腹の中のことは心の中のことを抜きに語れないようです。長々お読みいただき申し訳ないのですが、近々出す予定の続きをお読みいただけますとまた、私が喜ぶ自分に会えますので、そして願わくばスキやフォローをお恵みくださいませ。欲張りですみません。


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