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同人AV女優 中村淳彦著

「同人AV女優」、ここにかかわる世界には正直言って私には全く縁がなく、取材される女性たちにも共感もなければ、共通するところも全くない。
そんな立場から読了しました。

相変わらずひどい世界だと思いながら読んでいましたが、そこに入ることになるきっかけは、高額な大学奨学金返済からだったり、また非正規雇用によることだったりすることは、中村さんのかつての本から知っていた。

そこに入る女性は低年齢化していき、令和になってからは「ホス狂い」になるZ世代が何千万という大金をホストに注ぎ込むために貧困に陥る、という奇妙な現象まで起きているという。

女性が貧困になると、裸になることで合理的に稼げることを求めるが、その選択肢として「適正AV」ではなく、素人がやれる「同人AV女優」があがることの説明はかかわりのない立場の私にもよくわかった。

話は変わるが、2016年に私は、中村さんの取材されたテープ起こしの仕事を少しお手伝いさせてもらったことがある。その中の一つに「AV強要問題」での取材に応じた一人の女性の長い長い、聴いていてひどく胸が痛む告白があった。

「このような女性をこれ以上生みださない」ことを目的として、去年6月に成立したAV新法。
これが、その世界の女性をさらなる貧困に突き落とすことになり、大混乱が起きた、という幕開けからこの本は始まる。

ひとりの女性国会議員の強要問題を撲滅するという声がきっかけで、女性を守るための決まりが、対象女性の仕事を奪うことになってしまったのである。
しかも同業者たちによる分断までも生み出した。

多くの女性とかかわる人の取材から、現状が紐解かれてあからさまになり、悲惨なことに独占による産業崩壊もが起きていた。そしてただただ絶望的な悲痛な声の中、最後のセーフティネットである場所ですら生きられないひどい現状が見えていた。

しかし、第五章(テクノロジーの功罪)からそこにも光があることがわかる。

2019年頃、中村さんは「個人の時代」とい言葉をよくつぶやいていた。
組織に属した自分ではなく、個人としての自分を売り出す時代が来た、と。

それがこの女性の最後のセーフティネットでも起きていたことがわかり、この世界で生き残りたい人の大きなヒントとなるだろう。
読み手の私にはその光がせめてもの救いだった。

この世界に限らず、社会からの情報を遮断していたり、いつまでも古きしきたりに固執していては生き残ることは難しくなる。

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