カンヌライオンズ2024 速報 【予習編】 チタニウム部門ショートリスト 全20事例
今日6月17日から1週間、世界最大級のクリエイティブの祭典「カンヌライオンズ2024」が開催されます。
このマガジンでは、3年前から各部門のグランプリ受賞事例を中心に紹介しているのですが、今年もやることにしました。
各部門のWinner発表スケジュールは以下の通りです。
発表時間は日本時間だと各日の深夜になるので、レポート記事の公開は翌日くらいになる見込みです。
自分を含めた有志3人でまったり更新していきますが、こちらのマガジンをフォローの上、各記事をお読みいただけると幸いです。
この記事では予習がてら、先行して公開されているチタニウム部門のショートリストにノミネートしている全20事例を超ざっくりとまとめています。
チタニウム部門とは、ゲームチェンジングなクリエイティビティを表彰する部門です。
全部門を横断した無差別級的な側面もあり、例年このショートリストに挙がる事例が他部門でグランプリを受賞するケースは多いので、予習にはうってつけかもしれません。
01.
Laut gegen Nazis
「Rights against the Right」
Agency:Jung von Matt AG
ドイツを中心にヨーロッパでは極右政党が勢力を増している。
ナチスに関するシンボルや言葉のほとんどは、ヨーロッパでは以前から禁止されているが、ナチ組織は「HITLER」を「HTLR」、「VATERLAND(祖国)」を「VTRLND」などとコード化することで法規制をくぐり抜けたメッセージをTシャツなどにプリントして販売し、そのイデオロギーを広めるとともに資金を獲得している。
反ナチス組織のLaut gegen Nazis(Loud against Nazisの意味)は、これらのコードの商標権を取得することでコードが埋め込まれた商品の流通を阻止するとともに、すでに販売されたアイテムに対しては補償を請求し、さらなるコードの商標権を取得する資金を得ることに成功した。
02.
Anzen Health
「855-How-To-Quit-(Opioids)」
Agency:Serviceplan
オピオイドは、ケシから採取されるアヘンや、その成分であるモルヒネなどに代表される薬物の総称で、強い鎮痛作用を持つ。
アメリカではオピオイドの乱用によって、6分に1人が命を落としているという。
「855-HOW-TO-QUIT」は、各種オピオイドの錠剤に印字されたコードを電話の内線番号に設定することで、薬物を手にしている人がアクセスしやすいように設計されたホットラインである。
オピオイド中毒者は、自身が持つ錠剤に対応するホットラインに電話をかけると、その薬の乱用をやめることに成功した人の話を聞き、専門家からのアドバイスを受けることができる。
03.
AIZOME
「AIZOME WASTECARE」
Agency:Serviceplan
「AIZOME」は、日本の伝統である藍染をもとにした染色技術を用いてベッドシーツや枕カバーなどの寝具を製造・販売するドイツ発のスタートアップ企業。
テキスタイル生産では通常1500種類以上の有害化学物質が使用されるが、AIZOMEは、水と植物、超音波だけを使用して無害であるどころか健康によい繊維を作り出す独自の染色方法「AIZOME ULTRA」を開発した。
「WASTECARE」は、染色の工程で出る廃水を使ったスキンケア製品で、藍由来の栄養に着目して開発された。
04.
Dove
「The Dove Code」
Agency:SOKO
2025年までにオンラインコンテンツの90%はAIによって生成されるようになると予測されている。
しかし、AIはすでに偏った美を学習してしまっており、AIが生成する美しい女性像は、ブロンドでしわも毛穴もない肌をしているなど、非現実的な姿をしている。
このままでは、このいびつな美が理想として固定化されてしまう危険がある。
「The Dove Code」は、生成AIに指示するプロンプトに「Doveのリアルビューティキャンペーンに従って」というシンプルな言葉を追加することで、幅広い本当の美しさを再認識し、AIに内在するバイアスを正常化しようというチャレンジだ。
05.
CeraVe
「Michael CeraVe」
Agency:Ogilvy PR
「Michael CeraVe」は、皮膚科医とともに開発したスキンケアブランドCeraVeの、スーパーボウルでのCMを軸としたキャンペーン。
スーパーボウルの1か月前から、ソーシャルメディアでインフルエンサーを起用するなどして「CeraVeは、有名俳優のMichael Ceraによって開発された」という陰謀説を流布。
1週間前には、Michael Cera本人が出演するCMも放映した。
そしてスーパーボウル当日、実際にCeraVeを開発しているのは皮膚科医であり、Ceraは関与していないことを明かした。
06.
Orange
「WoMen's Football」
Agency:Marcel
Orangeはフランスで最大の通信事業者であり、フランスサッカーの歴史的なスポンサーでもある。
Orangeが男子と女子、両方のナショナルサチームを同等にサポートしている一方で、女子サッカーは依然としてサッカーファンから軽視されている。
Orangeは、2023年FIFA女子ワールドカップを活用してこの偏見に立ち向かった。
フランスの男子サッカーチームの未公開ハイライト映像をまとめ、強力なシュートや驚くべきドリブルなど、感動的なシーンを紹介。
しかし、実はこれは女子フランスチームのプレーであり、女子選手の顔を合成してエムバペやグリーズマンなどの男子選手に見せかけたものだった。
このキャンペーンでは、最初に男子選手に見せかけたハイライト映像を公開してサッカーファンを興奮させたのち、合成のカラクリを明かしたメイキング映像を公開して、視聴者のバイアスを明らかにした。
07.
Sphere
「Exosphere」
Agency:Sphere Entertainment
「Exosphere」はラスベガスに昨年オープンした球体型アリーナ「Sphere」の外面に設置されている球体状のディスプレイ。
巨大な顔文字や眼球になるデジタルアートや、広告メディアとして使用されるなど、かつてない体験を生み出す巨大なプラットフォームとなっている。
08.
JCDecaux
「Meet Marina Prieto」
Agency:David
2022年、スペインの地下鉄広告への投資は18%減少した。
世界的な屋外広告企業であるJCDecauxは、このメディアが効果的なものであることを示すため、無名の100歳のおばあさんマリーナ・プリエトを著名にするプロジェクトを実施。
数百もの空いている広告枠を使用して、マリーナのインスタグラム投稿を掲載した結果、マリーナのインスタグラムアカウントの成長率は、39,285%となった。
09.
Arla
「Selfless Shelves」
Agency:FP7 McCANN
レバノンでは経済危機により女性の失業率が63%増加し、多くの女性は家庭で「ムーネ」という保存食品を作って販売し、収入を得るようになった。
その一方、中東最大の乳製品メーカーであるArlaは、毎年100万個以上のガラス瓶に入ったクリームチーズ「Puck」を販売し、その大半が埋め立て地に捨てられている。
Arlaは、使用済みのPuckの瓶を回収して消毒してから、レバノンの女性に自家製ムーネを詰めてもらい、スーパーマーケットのPuckの棚で販売できるようにすることで彼女たちを支援した。
10.
DEGIRO & UN Women
「Pink Chip」
Agency:AKQA
世界の上場企業のCEOのうち、女性はわずか7%にとどまる。さらに、実際にCEOに任命されると、偏見を持つ投資家が株を売却し、株価が2.3%下落するという。
この偏見は社会にとってマイナスである上に、投資戦略としても不適切なものである。
ヨーロッパ最大の証券会社であるDEGIROは、自社のプラットフォームを利用してユーザーのリターンを向上させながら、ビジネスにおいて女性を支援するため「ピンク・チップ」という新たな株価指数を開発した。
これにより、女性が率いる企業の業績を追跡し、業界のベンチマークと比較できるようになった。
ピンクチップ指数は全体的に上昇しており、女性リーダーがいかに優れているかを明確に示している。
11.
Coca-Cola
「Thanks for Coke-Creating」
Agency:VML
コカ・コーラのロゴなどのビジュアル・アイデンティティは公式にはガイドラインによって規定されているが、世界の食料品店ではガイドラインを無視して勝手に描かれたロゴや商品のイラストが大量に存在している。
コカ・コーラは、多様性や包括性のあるブランドとして、非公式なイラストを正すのではなく、それらを受け入れ、評価することにした。
世界各地で非公式に描かれたロゴを公式に採用した商品や配送トラック、自動販売機、屋外広告などを制作し、実際に使用。
また、優れた作品を収録した本を作成し、常にブランドの一部であった人々とそのビジネスを称賛した。
12.
DP World
「The Move to -15°」
Agency:Edelman
世界最大級の海上ターミナル経営会社であるDP Worldでは、過去100年にわたって世界的な標準温度である「-18℃」で冷凍食品を出荷してきたが、地球温暖化への影響を考慮したときに、本当にそこまで低温にする必要があるのかを問い直すことにした。
そして研究者グループによる調査の結果、「-15℃」まで温度を上げても問題ないことがわかった。
そこでDP Worldは、独自の研究データを自由に利用できるよう公開し、競合他社も含めたコールドチェーンを担う多くの企業に「-15℃」への移行を呼びかけるイニシアチブ「The Move to -15°」を立ち上げた。
このイニシアチブには世界のコンテナ輸送業界の60%が参加しており、毎年1770万トンの炭素排出量を削減することが期待できるという。
13.
Google
「Meet iPager」
Agency:David
アメリカでは、ほとんどの人がWhatsAppやTelegramのようなチャットアプリではなく、ネイティブのテキストメッセージアプリを使用している。
このメッセージアプリにおいて、AndroidではRCSという新しい規格を採用しているが、iPhoneでは古い規格のSMSのままとなっている。
このため、iPhoneからAndroidにメッセージを送る際は、iPhone同士では可能なビデオ通話やファイルの送受信、既読確認などを行うことができない。
AppleがSMSを使いつづけるのは、AndroidユーザーにiPhoneを購入させることが目的であると言われている。
これに対し、Googleは「iPager」という架空のポケットベル端末の発売を発表するムービーを公開することで、Appleの古いメッセージ技術を揶揄し、煽った。
このムービーの公開後、Appleは2024年にRCSを採用することを発表した。
14.
Eletromidia
「Guarded Bus Stop」
Agency:AlmapBBDO
夜のバス停に1人でいる女性を守るため、ブラジル最大の屋外メディア企業のEletromidiaはバス停のデジタルサイネージにカメラ、マイク、センサーを取り付けた。
通常は普通の広告が表示されているが、夜間に女性が1人でバス停にいるのを検知すると、通話ボタンが現れる。
そしてバスを待っている間、このサイネージを通じて警備会社のスタッフとビデオ通話をすることができる。
15.
Heineken
「Pub Museum」
Agency:LePub
アイルランドのパブの多くは経営難に直面しており、2005年以降、4分の1のパブが閉鎖している。
その一方でアイルランドでは、博物館のように一般に公開されている歴史的に重要な場所に対して、補助金の支給や免税などの支援を行っている。
ハイネケンは、歴史のあるパブが地域社会にとって重要な文化的ランドマークとなっていることに着目し、これらをバーチャルミュージアムに変えることで経済的支援を受けられるようにし、その存続を助けた。
このバーチャルミュージアムは、パブ内にある歴史的な掲示物にスマートフォンをかざすとARによって説明書きや音声ガイドを視聴できるというもの。
16.
Tottus
「The Gift Card of Life」
Agency:McCANN
ペルーでは、乳癌が女性の死亡原因の第2位となっている。これは、ペルーの公共医療制度が非効率でマンモグラフィーの検査が1年半待ちとなっており、また民間医療制度は高額すぎてほとんどの女性にとって利用できないものであることによるものだ。
そこでペルーの大手スーパーマーケットチェーンのTottusは、もっとも重要な顧客であるペルー人女性を守るため、初めてのマンモグラフィーを利用できるギフトカード「Gift of Life」を店頭で購入できるようにした。
「Gift of Life」を使うと民間のクリニックでのマンモグラフィーを、80%割引価格で待ち時間なく受けることができる。
17.
Mastercard
「Room for Everyone」
Agency:McCANN Poland
ロシアの侵攻により、ウクライナの隣国ポーランドには155万人の難民が押し寄せ、国の人口が4%増加した。
ポーランドで新たに開業した事業の10%はウクライナ人となり、難民は競争相手と見なされるようになった。
しかし、マスターカードの利用データによれば、多くのビジネスは補完的であり、たとえば以下のように近くに位置することで相乗効果を得ることができる関係性が存在する。
・ペットショップはドラッグストアの近くでより成功する
・本屋は宝石店の近くでより繁栄する
・理髪店はレストランの近くでより多くの顧客を引き付ける
マスターカードはこのことを利用して、ウクライナ人とポーランド人の起業家を結びつける「Room for Everyone」という難民向けのデジタルツールを公開した。
これによってウクライナからの難民は、自分の事業をポーランドのどこで開業すると有利かがわかり、それは相補的な事業を行うポーランド人にとっても有益なこととなる。
18.
DoorDash
「DoorDash All The Ads」
Agency:Wieden+Kennedy
DoorDashはフードデリバリーサービスとして有名だが、料理以外にも何百万もの商品を配達できることは知られていなかった。
そこで、スーパーボウルの間に放映されたすべてのCMの商品を1人に配達し、プレゼントするキャンペーンを行った。
スーパーボウルでCMが放映されるたびに、その商品をオンラインカートに追加し、最終的には76の広告すべてから商品を配達することに成功。ほぼあらゆるものを配達できることを証明した。
19.
Spotify
「Spreadbeats」
Agency:FCB New York
2023年、Spotifyは新しいビデオ広告ユニットを導入した。Spotifyのオーディオのみの広告は、広告費の2%しか占めていないにもかかわらず、広告主やメディアプランナーは依然としてSpotifyをオーディオプラットフォームとしか見ていなかった。
そこでSpotifyは、ビデオとオーディオを組み合わせることで発揮される目と耳を惹きつける力の大きさを証明するため、普段メディアプランを提案する際に使用するExcelファイル上にコード化したミュージックビデオを埋め込み、メディアプランナーにメールで送信した。
さらにこれを1回限りのスタントで終えるのではなく、すべての営業担当者がカスタマイズして使えるよう、Spreadbeats ジェネレーターが開発された。
これをPCにインストールして、送付相手の名前やブランド名、その他関連情報を入力すると、カスタマイズされたミュージックビデオを作成することができる。
そして実際のメディアプランを記載したスプレッドシートをアップロードすれば、ミュージックビデオと統合され、個別の営業活動に使用できるようになるという。
20.
Xbox
「The Everyday Tactician」
Agency:McCANN
現代のサッカーは、コーチやアナリストのチームを雇用することのできる少数の裕福なクラブによって支配されており、多くの小規模なクラブは人材獲得に苦労している。
そこでXboxは、サッカーチームの運営シミュレーションゲーム「Football Manager 24」の発売にあたり、このゲームを通じて小規模なサッカークラブのBromley FCが実際に戦術家を採用するキャンペーンを行った。
この結果、「Football Manager」の1人のコアユーザーが同クラブの戦術家に就任。クラブは史上最高の成績を残し、132年の歴史で初めてイングランドのプレミアリーグ2に昇格した。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
それでは、カンヌウィークを楽しみましょう。
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