デザインとアート(1)
「デザインとは何か?」という話題になると、しばしばアートとの比較によってデザインの特徴を浮かび上がらせようとする議論を目にするのだけど、これはあまり筋のいいアプローチではないように思える。
具体的には次のような論調が目立つ。
アートは表現すること自体が目的であり、
デザインは課題を解決することが目的である。
アートは自分のためのものであり、
デザインは他人のためのものである。
これらの認識は、部分的に正しい側面もあるが、必ずしも正しくはない。
おそらくそれは、アートというものの捉え方が難しいことに起因している。
アートとは何か?
アートには、大きく2つの捉え方がある。
1つは、中世ヨーロッパの教会の天井に描かれた宗教画や、美術館に展示されているゴッホやピカソの絵画、そして最先端の現代アートに至るまで、美術史に登場するようなものをアートとする捉え方。
そしてもう1つは、アートとは自己表現であり、誰にでもできるものだという捉え方で、この場合は子どものお絵かきだってアートになる。
前者を「美術史的アート観」、後者を「自己表現的アート観」と呼ぶとすると、冒頭のデザインとの対比でよく語られるアートは、自己表現的アート観によるものだろう。
しかし、美術史的アート観によれば、状況は変わってくる。
たとえば中世ヨーロッパの宗教画や肖像画などは、教会や権力者からの命令や依頼によって描かれたものが多い。
つまり、クライアントがいたことになり、そこには「こういうものを描いてほしい」という課題や方針のオリエンテーションもあったことだろう。
この場合のアートの目的は、クライアントに満足してもらうこととなる。
現代アートにおいても、クライアント的な存在がいないわけではない。
アーティストの千房けん輔さんによれば、アートの役割は「『世の中に存在しない価値』を見つけること」だという。
まだ誰にも発見されていない価値を見つけることがアートの目的であり、それが認められたとき、美術史に残る作品となるのだろう。
つまり、自由奔放に作りたいものを作ればいいわけではなく、「これまでにない価値を作れ」というオリエンテーションに従って作らなければならないのだ。
このような考え方によると、アートの目的は表現すること自体ではないし、アートは自分のためのものでもない、ということになる。
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