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私たちは暗闇の中でも繋がる力を持っている

「対話と会話は違う。ただ会話するのではなく、互いを理解しあう対話をしましょう」

いつの日にかの会社の研修で、そんなことを言われた記憶がぼんやりとあります。対話って、なんだろう?どうすればできるんだろう……?

企画でメシを食っていく」(以下企画メシ)第4回は対話の企画。

企画メシとは
「企画する人を世の中に増やしたい」という思いのもと
コピーライター&作詞家の阿部広太郎さんが主宰する、企画の連続講座。毎回テーマに沿ったゲストをお招きしてお話を伺い、いただいた課題に挑戦していく。


企画メシから派生して生まれた、同じく阿部広太郎さん主宰の連続講座「言葉の企画」(昨年は言葉の企画2020としてオンラインで実施)の卒業生である藤本舞が、今回は講義レポートをお届けいたします。

今回のゲスト講師は「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」でアテンドをされている、ひやまっちこと檜山晃さん。

ダイアログ・イン・ザ・ダークとは、
これまで世界50カ国以上で開催されてきた、真っ暗闇の中を探検するソーシャルエンターテイメント。

視覚障害者のアテンダントによる案内のもと、視覚以外の感覚を使って、その場で組む同じチームの人たちと対話しながら歩いたり、物に触ったり、様々な体験をしていきます。

生まれつき目の見えないひやまっちさんは約20年前から
この施設でアテンドをされています。


2020年ダイアログ・イン・ザ・ライトの体験

2020年、未知の感染症によって突然世の中の状況が変わってしまった年。
その場でのリアルな体験が軸となるダイアログ・イン・ザ・ダークも形を変えて開催せざるを得なくなりました。

視覚の代わりに触覚が頼りになる中で直接触れ合うことがままならない状況は、暗闇との相性が悪く……
昨年は特別版「ダイアログ・イン・ザ・ライト」として開催されていました。

阿部広太郎さんからダイアログ・イン・ザ・ライトを紹介いただき、実際に私が体験しに行ったときの話はこちらにつづっています。


暗闇ではなかったものの、ダイアログ・イン・ザ・ダーク同様に視覚障害を持つアテンダントの方に案内いただき、同じチームの人たちと対話しながらワークショップを楽しむという初めての経験。

次は一体どんな体験が待っているのだろう?と先が読めないプログラムが続く中、ドキドキが止まらなかったことを今でもよく覚えています。

同じチームメンバーもはじめましての方が多く、耳の聴こえない方もいたため、始めはどのようにコミュニケーションをとればよいのかという不安もありました。

その中でも一人ひとりに寄り添い、声をかけてくださったのが障害を持つアテンドの方。
優しいアテンドのおかげで、私たちは誰一人置いてけぼりにされずにすみました。
戸惑う参加者に対して一歩踏み出し、声で導いてくださる大きな安心感があったんです。

今回の講義でのひやまっちさんからも、同じことを感じました。
この安心感は、どこから来るのでしょう。


課題で知った「対話」を生み出す土俵づくり

企画メシの講義では、毎回講師の方からいただく課題に受講生(私たちは企画生、と呼んでいます)が挑戦しています。

今回、ひやまっちさんからいただいた課題はこちら。

「目を閉じてパラリンピックを音で観戦してきてください。そこで発見したことを40秒で話してください。」


私も挑戦しましたが、限られた40秒という時間の中で
音での観戦という初めての体験を伝えることは、想像以上の難しさがありました。

しかし、提出された現役企画生81名分(+卒業生、事務局の方々、阿部さん)の音声は内容もさまざま、表現方法もさまざまで。ひやまっちさんの言葉をお借りすると、すべて聴こうとしても「1つ1つが濃密でなかなか先に進まない」ほどでした。


感覚、感性での発見を語る人。
競技に対する思いを語る人。
目を閉じて過ごしているときの、心の動きを語る人。

相手に優しく語り掛けるように、話す人。
わくわくを共有するように、話す人。
クイズやラジオ風にして相手を楽しませる人。


この個性豊かな音声に、ひやまっちさんはどんなフィードバックをするのだろう。

目の見えないひやまっちさんだからこそ、
スポーツが好きなひやまっちさんだからこそ見える世界があるはずで、そんな視点をもとに課題のフィードバックをいただくのかな……と、思っていたのですが。

ひやまっちさんは
「自分がこう捉えているということを言いたいだけじゃなく、やってみてどうだった?と全員に聞きたいのだ」とおっしゃってました。

「それぞれがポジティブな捉え方をしてくれて嬉しかった」
「スポーツが得意じゃない人もいただろうし、よくやってくれたなと思った」とも。

目が見える人にとっては、視覚を奪われることによる観戦は必ずしもポジティブではないのでは。
スポーツに興味がない人はこの課題に興味が持てないのでは。

ひやまっちさんはご自分のことを一方的に伝えるのではなく、相手の立場に立ち、違いを想像したうえで、まずは共有しようとしてくださりました。

これこそ、ひやまっちさんが考える「対話」だったんです。 

自分は目の前の土俵に乗るし、
相手も、同じ土俵に乗る感覚がある。
しかし、そもそもその土俵さえも、そこで
つくらないといけない。


阿部さんの「ひやまっちさんにとって対話とは?」という質問に対して、ひやまっちさんはこうおっしゃっていました。

同じところに乗れるように、どう土俵から作っていくか。
それを考えるのが対話であり、それがあって初めて一緒に新しい価値観を作っていけるのだと。

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ひやまっちさんが、私たちに対しても
対話するための土俵そのものを作ろうとしてくださったからこそ、導き、寄り添ってくださる大きな安心感を私は抱いたのだと思います。

40秒で話す、という課題。
一方的におもしろい視点で話せばいいというものではなく、聴いてくれている相手の立場に立ち、違いを想像したうえで一緒に立つ土俵づくりからすべきだったのかもしれません。

企画生の戸田妃世里さんがこんなコメントをされていて、私はハッとさせられました。

この課題をいただいたときに、40秒×80人分を聴く
檜山さん、どれだけ大変なんだろう
といちばん最初頭に浮かんだ。大変な中でもちょっとでもわくわくしたり、楽しんでいただけたらいいなと思った。

BGMをつけたり、スキル的におもしろくする技術がないと思ったので、シンプルに「対話」になるようにひやまっちさんに届くといいなという想いを込めて、楽しみながらお話させていただいた。


相手の立場に立って想像した上で、土俵づくりからされていたからこそ、戸田さんのメッセージは私を含む、それを聴く人たちに伝わったのだと思いました。そんな戸田さんの思いがつづられたnoteはこちらから。


阿部さんとひやまっちさんが作ってくださった土俵

一緒にふと思い出したのは、昨年「言葉の企画2020」で、企画生が提出した課題に対して阿部さんが全員分、声でフィードバックをくださったこと。

2時間半、私たちに声でフィードバックを届けてくださった阿部さん。
(一部の人は最終回を除いて)直接お会いして講義を受けることが叶わなかった私たちでしたが、一人ひとりに語り掛けるにようにして収録されたラジオ風の「肉声」によって阿部さんの存在を感じることができました。
今思えば阿部さんが対話の土俵を作ってくださっていたのだと、思います。

今回もひやまっちさんとはオンラインでお会いする形になりましたが、講義中、声や言葉で私たちに寄り添い、一緒に立てる土俵を作ってくださいました。

対話のための土俵づくりが必要なのは、目に見える・見えないの違いがあるから。
リアルに会えず距離を感じてしまいがちな、オンラインだから。

それももちろんありますが、それだけじゃなく、日常におけるコミュニケーション全てにとって大切なことなのだと思います。


暗闇の中で繋がるための一歩を自分から踏み出す

思えば私も「言葉の企画2020」を受講していたとき、住む場所も年齢も違う上にオンラインでしか会ったことのない99名の同期たちとどう対話すればよいのか、初めは悩んでいました。

それでも、最終的に驚くほど互いを理解し合い、距離を縮められたのはそれぞれが少しずつ違いを認め、相手のことを想像し、理解できたから、かもしれません。

世の中の状況が一気に変わり、先の見えない暗闇の中でたどり着いた「言葉の企画2020」という場所。
用意された土俵の上で最初は探り探りだった私たちも、少しずつ本当の意味で、お互いが対等に会話できる関係性を作れるようになったのだと思います。

「企画メシ2021」の企画生たちも、オンラインでしか会ったことがなく、まだまだ交流できていないとの話も、講義の日の1週間前に耳にしていました。

しかし、講義の日の夜。企画生自らが企画したオンライン交流会にはたくさんの人が集まり、土俵作りの一歩となる場が用意されていました。

企画生の春花さんがオンライン交流会「キカクの夜市」への思いをつづったnoteがこちら。


目が見えない。耳が聞こえない。
身体的なものに限らず、みんなそれぞれ違いがあります。

違いを乗り越えて繋がるのは、リアルに会えない中で、より難しいのかもしれません。

それでも、例えそこが暗闇だったとしても、私たちは互いを想像し、自分を適応させて、最終的には繋がる力を持っているはずです。

分かり合うことが難しい人、これを読んでくださっているみなさんの周りにもいるかもしれません。
私の周りにも、います。
そんなときもまず一緒に立つ土俵づくりを、自分から一歩踏み出して始めることができたら……少しだけ前進できそうな気がします。

レポート:藤本舞(言葉の企画2020)

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