記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

シネマ愚考録01 「ザ・メニュー」 食べたことのない高級フレンチが、2度と食べられなくなるトラウマに遭った。

シネマ愚考録では、僕きいまかれーが鑑賞した映画をネタバレを恐れず思ったことや考えたことを書き綴る。
あらすじの紹介や物語の解説は丁寧にしませんが、どうかネタバレにはご注意いただきたい。


令和4年11月18日に公開された「ザ・メニュー」を公開初日のレイトショーで鑑賞。

(C)2022 20th Century Studios. All rights reserved.

「ハリー・ポッター」シリーズでヴォルデモートを演じたレイフ・ファインズと、今年「ラストナイト・イン・ソーホー」や「アムステルダム」に出演し大活躍中のアニャ・テイラー=ジョイが主演し、「X-MEN」シリーズや「マッドマックス」にも出演したニコラス・ホルトなどが出演する、何やら気になる存在感を放っていたこの作品。

かなりの期待をして見に行ったが、めちゃくちゃ面白かった。

◆概要とあらすじについては、公式のホームページをご覧ください。


きいまかれびゅー

あくまできいまかれーの個人的な感想ですので、真に受けすぎずご覧ください。

レーダーチャート

「ザ・メニュー」のきいまかれー的評価は50点!(50点満点)
【内訳】世界観 9、脚本 7、演出 10、キャラ 6、満足度 10(◯アニャ加算 +8)

ざっくり感想

演出が抜群で雰囲気もよく、ひたすらアートで絵力の強烈な作品。
コース料理がテーマの映画ではありましたが、出てくる料理はどれも美味しそうというよりかはアートだなって感じ。
鑑賞中は手に汗を握ってジャンプスケアでしっかりびっくり。
いろいろと考えさせられることもあって面白い作品だった。

強いて欠点について言及すると、全体的にキャラクターの深掘りが浅かったこともあり、物語的な深みはイマイチだった気も。
主役のマーゴやスローヴィクの深掘りも浅かったので、わざわざ説明なんかしないから、その場の展開だけで楽しめというメッセージなのかも。
言われてみればテーマも感じる作品だったので、本当にそうなのかも。

なんといっても、主役のアニャ・テイラー=ジョイが表情も魅力的で見応え抜群。大満足。

ベストキャラ

アニャさんが最高の演技で魅せた主役のマーゴは、唯一の一般的な感性を保った意志の強い女性という感じ。
自分の持っている価値観を信じ、他人の意見や評価に流されない姿は現代人の鑑とも言える。


愚考01 タイラー、“レビュー”は程々に

(C)2022 20th Century Studios. All rights reserved.

その中でも特に、マーゴを巻き込んだタイラーについて言及するが、彼は美食家で料理の手法に詳しかったり、味や香り、風味に敏感であったりと、料理を味わうことに関しては一流と言えそう。

しかし、厨房を覗き込んでは料理人に軽口を叩いたり、料理の仕掛けを我が物のように語ったりと、その態度はスローヴィクにとって快いものではなかった。

そんな彼に対して特別に用意された罰は、デモンストレーションで彼の料理を味わおうというものだった。
スローヴィクは「料理の知識がすごい」「ホーソンにとって名誉だ」タイラーと持ち上げ、コックコートを着せて「君はシェフだ」と厨房に立たせる。
料理の手法には詳しいタイラーだが、自分では料理をすることができず、思いつきで作ったネギとヤギ肉をバターで炒めた物は、スローヴィクから「不味い」と言われてしまい、“タイラーの駄作”として他の客にも振る舞われた。

皆の前で辱められたタイラーは自ら首を括って死んでしまったが、彼は初めから最後には死んでしまうことを知っており、マーゴを雇ってまでこのイベントに参加した、かなりのサイコパスだったことがわかる。

情報を集めることが簡単にできる現代において、知識があることはさほど自慢できることではなく、何事についても"評価”をするときには、“作り手”がいることに配慮するべきである。
特に“裏語り”は「関係ないくせに」「お前はできるのか」となり得ることを忘れてはならない。

僕も映画のレビューを再開してみたわけだが、作り手に対するリスペクトと自分の感覚のバランス感覚に気をつけていきたい。

ところで、タイラー役のニコラス・ホルトも本当に演技がよい。
神経質であったり、愚直であったり、なんといってもサイコパス気味な“普通でない”役が本当に合う。
今作は主役ふたりの演技が凄みがあって圧倒されるが、これに負けない演技を見せてくれたと感じた。

愚考02 なぜマーゴは逃げられたのか

(C)2022 20th Century Studios. All rights reserved.

マーゴはコース料理の提供を遮り、「料理を食べる気になれず腹が減ったので、デザートの前にお腹を満たせるものが食べたい」とチーズバーガーを要求し、一口食べては「お腹がいっぱいだったので、テイクアウトしたい」と言い出す。
スローヴィクはこの突然の提案を受け、なんなら少し楽しそうにチーズバーガーを作って、お土産もつけてマーゴをレストランから送り出した。

スローヴィクにとって、マーゴはテイラーが勝手に連れてきた招かれざる客であり、スローヴィクが招いた「罰するべき愚客」とは正反対の性質を持った女性であった。
スローヴィクにとって都合の悪い存在であったマーゴは、シェフである彼を持ち上げ、快い気持ちにさせた上で自らを危機から救ったのである。

マーゴがシェフの部屋に忍び込んだときに見た写真で知った、シェフのキャリアがハンバーガー屋さんからスタートしたことと、チーズバーガーを注文したことは関係したのだろうか。
トイレでスローヴィクは「おもてなしを楽しく思う気持ちは忘れてしまった」と話していたが、ハンバーガー屋さんで働いていた頃は、おもてなしを楽しいと思う気持ちがあったのだろう。

となんやかんやと考えてみたがスローヴィクは結局、マーゴがふと思いついたイチかバチかに乗っかっただけで、特に深い想いもなく、むしろ好感を覚えたマーゴを殺さない選択肢ができてラッキーだったくらいなのかもしれない。

マーゴを送り出したスローヴィクは、仕切り直してデザートの準備に取り掛かる。
「逃げようと思えば逃げられたはず」と言われた愚客の皆さんも、半ば諦めたかのように大人しくデザートの一部となることを受け入れた。

レストランが炎上するシーンには焦りや抵抗が全くなく、当事者全員が全てを受け入れた空間が狂気に満ちてとても綺麗だった。

ところで、最後にマーゴが船の上で口についたケチャップをコースメニューで拭ってキレイにするシーンは、スローヴィクがこだわり抜いて実行した“完璧なフルコース”をコケにした最高のオチだなと感心した。

愚考03 スローヴィクも意外と不完全だった

(C)2022 20th Century Studios. All rights reserved.

招いた客を愚客として扱い、散々弄んだシェフのスローヴィクだったが、意外と完璧すぎることはなく、隙も多かった印象を受けた。

映画のスターに対して演技に文句をつけたシーンでは、自分の料理に対して批評をすることを許さなかったことが説明つかない。

老夫婦のお爺さんの不倫を暴露するシーンは、関係のない人の罪に対して個人的に罰する愚かな行為にも見える。

タイラーを吊し上げたシーンは、料理人を批評で潰した評論家とやっていることが同じな気がした。

仕返しのつもりなんだとしても、料理以外の芸がない。
なんだ、あんたも結局同じ穴のムジナじゃん。

それにしても、最後に部下も道連れに愚客と炎に焼かれたのは、罪の意識からだったのだろうか。それとも完璧なコースの一部として“完成した”のだろうか。

全ての行動について正義から説明することなんで不可能に近いのだから、自分は完璧なフリをして人を評価するのは、本当にやめたい。

まとめ

結局この作品は、シェフとマーゴ以外の客がレストランの本来の目的を忘れてしまった中で全員死んでしまうという、皮肉の効いたブラックジョーク映画でした。

現実的でない部分もあった気がしますが、衝撃的な展開とキャストの演技力、そして圧倒的な演出と絵力によって最後まで勢いで見切れてしまう作品になっていた気もします。

そしてくどいようですが、主演のアーニャさんが魅力的すぎました。
今後もアーニャさんの活躍が楽しみでなりません。

(C)2022 20th Century Studios. All rights reserved.

それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。
次の機会があれば、その時にまた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?