キネマ愚考録05「市子」 本性が掴めず、どこかに狂気味があり、それでいて確実に美しい
令和5年12月8日に公開された「市子」を12月10日にミッドランドシネマで鑑賞。
ビジュアルポスターの花ちゃんをひと目見た瞬間に見ることを決めたこの作品。
予告は見ず、ポスターに書いてある情報のみ頭に入れた状態で鑑賞した。
かなり衝撃的な内容ではあったが不思議と嫌悪感はなく、鑑賞後は簡単に言葉で説明することのできないふわっとした感情を抱えて映画館を出ることになった。
キネマ愚考録では、僕が鑑賞した映画についてネタバレを恐れず思ったことや考えたことを書き綴ります。
あらすじの紹介や物語の解説はあえてしませんが、どうかネタバレにはご注意ください。
映画概要
評価点数
「市子」の僕的評価は、50点満点中47点。
世界観_★★★★★★★★☆☆
脚 本_★★★★★★★★★☆
演 出_★★★★★★★★★☆
キャラ_★★★★★★★☆☆☆
満足度_★★★★★★★★★☆
花ちゃんの顔加算_★★★★★
ざっくり感想
一見、この映画は日本の社会の闇を暴くような内容であり、主人公の市子は同情を誘うような境遇にある。
しかし市子からは哀愁は感じられず、気づけば目の前に堂々と居座る社会問題は意識からすべり落ちて、市子の狂気とサスペンスの雰囲気を楽しんでいる自分がいた。
(特に顔が)魅力的な市子に思いを寄せ、普通に暮らせる術を何度考えようが、社会的に救いようがない境遇であることを思い知らされるのみであり、それどころか彼女に関わる人たちは総じて救われない。
それなのに後味が悪くないのは、市子はひとりで生きていくことが一番現実的に見えてしまうからなのだろうか。
なんにせよ、とんでもないものを見たという衝撃が計り知れない。
ベストキャラ
市子の存在感はどう考えても圧巻だった。
一見「可哀想」な境遇であり、ほかの登場人物からも異様な眼で見られている存在の市子。彼女が自分の境遇にどこか諦めの気持ちを持ちながら、けれど開き直って生きていく様に魅力を感じる。
「無戸籍の子」「母子家庭の子」、そして「可哀想な境遇な子」というだけではない、唯一無二な「市子」に強く惹かれた。
そして、そんな市子を演じた杉咲花ちゃんの演技に凄みを感じ、ただ可愛い女優さんというイメージは確実に崩れ去った。
愚考01 報われない長谷川くん
オープニングとエンディングで長谷川くんがプロポーズをするシーンが2度繰り返され、市子は涙を流す。
オープニングで見た市子の涙は言わばありふれた、心待ちにしたプロポーズに心が動いた涙のように感じた。なんならちょっとほっこりした。
エンディングで見た市子の涙は、人生最大のサプライズであるプロポーズを「そんなもの」と呼ばざるを得ないほど比べ物にならない、自分がひとりの「人」だと思えたことへの感動の涙であった。ほっこりどころか号泣ものだった。
市子にそんな幸せを教えた長谷川くんを置いて、市子は失踪してしまう。たぶん理由は結婚するのに必要な戸籍を持っていないこと、そして自分が埋めた妹が発見されたニュースを見てしまったことだと思う。
長谷川くんは自分のことを語りたがらない市子から詳しいことを聞かず、そしてただ愛しただけ。だからこそ市子はそんな長谷川くんとの生活に幸せを感じ、長谷川くんに迷惑をかけたくなかった。
市子は自分と関わる人が幸せになれないことはよくわかっていたのだと思う。
ほんと、どんまい。長谷川くん。
愚考02 北くんの結末に納得をせざるを得ない
高校生時代の市子に出会い、心を奪われた北くんはもっと報われない。
いや、実際どうだったのだろうか。
あの結末は北くんの同意の元で行われたのだと思えなくもない。
市子の秘密を知り助けるために大変なことをしたのにお礼もなしに失踪され、なんとか市子を見つけたらもう関わるなと言われ、なんとか諦めようとしていたところに三度現れた市子を匿い、代わりに人を殺せと言われる。
そんな彼の結末には、納得せざるを得ない。
愚考03 底抜けに明るいキキちゃんが尊い
寮友のキキちゃんは、長谷川くんと並び市子に幸せを与えた重要な人物。
ちょっと強引な感は否めないが、ちょっとおバカさんなのかなという感も否めないが、しかしそんな友達が心を救ってくれることは往々にしてある。
パティシエを目指して、話も聞かずちょっと強引だけど、底抜けに明るい。
そんなキキちゃんが尊すぎてならない。
最後に
冒頭、そしてエンディングで市子が鼻歌を奏でていた童謡の「虹」を母親が歌ったとき、本当に全身が鳥肌に覆われた。居た堪れなくてしんどかった。母親の「市子、ありがとうな」が心をギッタギタに引き裂いた。
それでも、どこかに諦めを感じているようで、それでいて現実的に生きていく、そんな市子にちょっとだけ元気をもらえた作品だった。
それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。
次の機会があれば、その時にまた。
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