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【小説】ラスタパスタ


初めて入ったレストランで、あれこれ言いながら君とメニューを見る時間が好きだ。

なんだこれ?って怪訝な顔で初めて目にする名前のメニューに挑戦してみるのも良いし、結局いつも頼むようなメニューを頼んでみるのも良いと思える。

知らない名前のパスタを指差して、「今日はこれにしてみる」と君が笑った。

「あ、同じものふたつで」

別のものを頼もうとしてたのにその笑顔につられて、同じものを頼んでしまう。「あれ?同じのにしたの?」と君が覗き込んでくるのが照れ臭くて、うん、と小さく答える。

ラスタパスタ。頼んでみたらボリュームが多くて、すぐに「お腹いっぱいになった」って君が笑った。

「別々のもの頼んでシェアすれば良かったね」
「たしかに」
「見て、みんなシェアしてるんだよ」
「あ、本当だ。そういうお店だったのかな」
「そうそう、アメリカンスタイルだった」
「たしかに量多かったね」
「うん、でもこれも美味しかった」
「美味しかったね」

周りの席を見てみたら、みんないくつかメニューを頼んでシェアしていて、同じものをふたつ頼んで並んで食べてる席は、ここだけだった。

それに気付いたらおかしくって目を見合わせてケラケラ笑った。手を叩いて楽しそうに笑う君がこの世でいちばん尊くて、何度でもずっと見ていたいと思ったから、この先も一生、同じものを頼み続けるのも悪くないなあ、なんてぼんやりと思うんだ。

僕は、それが愛だなんて知りもしないで。

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