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『壺中美人』(横溝正史)と『孤島の鬼』(江戸川乱歩)

こんにちは、ぱんだごろごろです。
このところ、通勤時間を利用して、近しいnoterさんから教えて頂いた本を読んでいました。

そのうちの一冊が、コメント欄で、ももまろさんから教えて頂いた、横溝正史の『壺中美人』です。

ももまろ˚✧₊⁎ Kakuhito⁎⁺˳✧    2023年5月19日 23:10
ぱんだごろごろさん、こんばんは!
横溝正史、私も大好きです
『悪魔の手毬唄』や『女王蜂』いいですよね
好きです
脳内、岸恵子さんです笑
犬神家に並んで、代表作みたいなものですよね
私は「壺中美人」や「病院坂の首括りの家」が好きです

どれもオッサンの欲に翻弄された背徳感があって
ぞくっとします笑

https://note.com/kigurainotakai/n/nd90f974bdba0「横溝正史の魅力」
コメント欄より引用


『病院坂の首縊りの家』の方は、家の本棚にあったので再読し、ついでに『悪霊島』も読み、『壺中美人』は、電子書籍店のコミックシーモアで購入しました。

『壺中美人』を読み始めて間もなく、既視感を覚えました。
舞台は成城、走って逃げる若い女を追う巡査。
決め手は、巡査の、
『お嬢さん、奥さん』と、走りながら呼びかける言葉でした。

相手が若い女ゆえ、未婚か既婚かわからず、お巡りさんは律儀にも、どちらでもいいように、両方の呼びかけをしていたのです。

このシーン、絶対に覚えがある、と思って、本棚を探したところ、案外あっさり見つかりました。

『支那扇の女』です。

『壺中美人』では、川崎巡査でしたが、『支那扇の女』では、木村巡査でした。

二人とも、若い女を追いかけるに当たって、『おい、止まれ』などとは言わず、『お嬢さん、奥さん』と呼びかけるのです。
やさしいですね。

追いかけて、どうなったか。
その後の展開は、もちろん二つの作品では、まったく異なります。
犯人像も動機も違いますので、安心して楽しめました。

さて、その謎解きに関してですが…。
横溝正史は、ある登場人物に、トリックを使っています。
それは、別の作品にも、使われていたもので、性別を瞞着する(ごまかす)トリックなのです。

それは、異性愛者と見せかけて、実は同性愛者だった、いや、その実、本当は…?

ネタバレにならないように書くのは難しいのですが、横溝正史の別の作品では、美少年に女装させて、周りには女性と思わせた上で、付き合っていた年上の女もいましたよね。

横溝正史は犯罪を描く上で、変態的な性愛を多くテーマにしています。

さて、横溝正史の盟友に、江戸川乱歩がいます。
いずれ劣らぬ、ニ大巨頭、日本が誇る人気探偵小説家の二人ですが、作品中での、同性愛の理解、表現、解釈においては、横溝正史より、江戸川乱歩の方に一日の長があると言わざるを得ません。

それはもう、江戸川乱歩の『孤島の鬼』を読めば一目瞭然、それに比べると、数多の作品における、横溝正史の男性同性愛に関する理解は、ある作品中の、「同性愛病患者」という言葉に表されているように、現代の我々から見ると、古めかしいものに思われるのです。

もっとも、それも無理のないことで、横溝正史と違って、江戸川乱歩は、『孤島の鬼』を書く以前から、男色に強い興味を持っていました。

あの、南方熊楠や稲垣足穂までもが高く評価したという、男色研究家の、岩田準一は、乱歩の仲の良い友人でした。

乱歩と岩田準一の二人は競って、男色作品の文献を渉猟して、研究をしていましたから、その成果が『孤島の鬼』でも、遺憾なく発揮されたのでしょう。

『孤島の鬼』のクライマックス、地底の迷路での、主人公蓑浦へ向けられる、高貴な風貌を持つ美青年、諸戸の悲痛、切実な恋心。

乱歩自身は、この作品中に同性愛の要素を取り入れたことで、「筋を運ぶ上で邪魔になった」と言っていたらしいのですが、私は無論そうは思わず、同じくそうは思わなかった人として、作家の筒井康隆がいることを挙げておきます。

彼は、乱歩の最高傑作は、『孤島の鬼』だと断言しており、私もまた同意見なのです。

簡単に言ってしまえば、健全な人が、変態性欲を理解しようとしていたのが横溝正史で、自身の内に、変態的なものを隠し持っていたのが、江戸川乱歩だったのではないかと。

金田一耕助が愛したのは、獄門島の早苗さんでしたね。振られて、独身のままでしたが。
明智小五郎が妻にしたのは文代さんでした。けれど、後年、文代さんは高地療養に行き、明智が一緒に暮らしていたのは、小林少年(青年)でした。

そんな風に読んでいます。


参考 :『男色の景色ーいはねばこそあれー』丹尾安典(新潮社)
   :「朝日新聞」2009/5/17 朝刊 読書欄 筒井康隆


今日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。
間もなく梅雨入りでしょうか。


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