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【き・ごと・はな・ごと(第25回)】A・LA・つばき(1)

木と三と人と日で椿。三は草薙の剣から生まれた女神の数。古代よりの女性の聖数。日は太陽。つまり椿は、天照大神の恵みの気を孕んだ樹木。天のパワーを受け止める神の木では?・・・・これは勝手な思い込みですが・・・・。

さて、今回は巷で拾った春の木、椿のあれこれを二回に亙ってご紹介。

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椿町、椿神社、椿公園とツバキと名のつくところを見つけるとノコノコでかけていく。名称だけで全くイミのないものも多々あるのだが、それでもいい。私にとって、それは聖地巡礼なのだから。で、この度訪れたのは名古屋駅太閤口から徒歩わずか、名古屋市中村区椿町界隈にある椿神明社だ。普段は神官の姿もない。密やかな町の鎮守さまである。

境内には椿の木がある。20㍍近い高さのものもみられる。だが、数にしてみるとかろうじて名称に違わずといった程度。由緒には、かってここが椿の森と呼ばれていたとあるが、それ以外には椿との謂れめいたものは皆目分からない。通りすがったご近所の人に聞いてみても、「いえいえ、たまたまツバキとあるだけのこと」と言うばかり。生い茂る艶葉に隠れ咲く緋色の花が、もの言いたげにみえる。ふと視線を感じて振り返ると、隣の民家の狭いトタン板の軒先に黒猫の目が光っていた。後日、聞くところによると―ここはその昔、小さな祠があるだけだった。かって伊勢神宮に通じる川が流れていて、あるときそこにお札が流れ着いてきた。それを祀ったのがそもそもの始まり。当時、周囲は湿地帯。五月ともなると藤だなに見事な花が咲き人の波が押し寄せる。花見の酔っ払いに田圃が荒らされるのを嫌った人が、藤を切り落としたら途端に疫病が流行った。それで甘酒を供えたのが今も祭りとして伝わる―。なかなかの由来である。では椿とのかかわりは?―椿との縁ネエ・・・? 昔、椿が群棲していたことだけは聞いている。戦災を受けて大かた焼けてしまったらしいが。・・・・木春さんっていう斎女の隠語だって、古くからの氏子の一人が、飲んだ勢いで言ったことがある。でも、ベロンベロンに酔っ払ってのことだヨ。まるきりアテになる話じゃないな―。ともかく、伊勢神宮の下宮であり天照大神を祀っているということである。そして、これこそ筆者のかってな想像ですが・・・・。キハルの3もじには、もっと別のイミ、気が春の人というイミが含まれていたとしたら、どうだろう。よく言うでしょ。あの人はアタマが春だって。つまりご神託を降ろす神がかった巫女さんは、傍からみれば気が春になってしまった、そう取られても仕方がないともいえる。つまりはそんな巫女さんのことをアダナで椿さんと呼んだのでは。全国に数ある椿神社には、案外そんな巫女さんのニックネームが由来しているやもしれぬ。そんな考えがチラリと頭を過った。

これもまた名古屋でのこと。折しも開かれていた名古屋城つばき展、その会場の一隅に竹の花器に椿が生けられているコーナーがあった。通り過ぎようとしたご婦人のグループがそれを見て「あら珍しい、竹葉が巻いてないわ」と小さく騒いだ。その青竹の器には笹枝が付いていて、ピンと瑞々しくハっている。それが珍しいというのである。花を生けたのは主催『名城つばきの会』副会長を務める前野稔氏。ふしぎな青葉付竹花器は北島富良氏によるもの。前野氏曰く―「多少でも花を生けたことがある人なら知る通り、竹は水揚げが難しく、青葉は2時間ほどで葉が巻いてしまう。酢や酒を入れるなどしても、せいぜいが2日。これは10日になるけど生き生き。一カ月、二カ月、半年、あるいはそれ以上も持つ。一年以上前に分けてあげた人から新芽が出たって報告もあった」とか。北島氏の竹花器造りはもっぱら趣味のこととて人に譲ることはないとのことだが、縁あって前野氏の椿に提供している。竹の青葉は椿を生かす。茶花の佗助との取り合わせなどは、愛好家にとって垂涎の極み。作り方を伝授して欲しいという人、また花器そのものを欲しいといってくる人も多いという。あれこれと説明をしてくれながら、前野氏は頻繁に花を気に掛け、水やりに余念がない。それはやはり会員である奥様の節子さんも同様である。椿のことを話すとき、手入れをするとき実にいとおしげだ。「今展示しているこれらの花器も、既に関、豊橋、知多などに嫁入りすることが決まっている」。嫁入りというコトバに思いを込めるように前野氏は目を細めた。青葉付竹花器は恒例の名古屋城つばき展(三月中旬)にて出会うことができる。器の作り方については「名城つばきの会だより」に寄せた氏の一文にもそのコツが紹介されている。

椿神明社 正面鳥居
神殿
境内に咲く藪椿
左に椿魚市場の文字、右が神社の社業
名古屋城つばき展会場
場内に並ぶ青葉付竹花器
10日目にして青葉が巻いてない

文・写真:菅野節子
出典:日本女性新聞―平成11年(1999年)4月15日(木曜日)号

き・ごと・はな・ごと 全48回目録

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