【小説】五兄妹がバンドをやるようです
「この五人で、バンドやらないッスか?」
そう言いだしたのは、きょうだいで一番気が弱く引っ込み思案の鈴音(すずね)だった。
「「「「バンド!?」」」」
他の四人が同時に叫んだ。
「面白そうね! やりたいやりたーい!」
真っ先に手を上げたのは、次女の麻雪(まゆき)だった。身を乗り出し、大きな目をらんらんと輝かせて鈴音を見つめている。
「鈴音、貴様勉強はどうした! 高卒認定を取ると意気込んでいたではないか!」
そう叱りつけたのは、長女の司(つかさ)だ。
「まあまあ姉上、勉強はちゃんとやるッスから……ねえ?」
鈴音は気まずそうに目をそらす。
「お姉様、私は何のパートをやればよろしいでしょうか?」
鈴音の双子の妹・こまめがおずおずと口をはさむ。
「こまめ、貴様まで乗り気になるんじゃない! 兄貴、こいつらを止めてくれ!」
司が目線を送った先にいるのは、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべる長男・悠之助(はるのすけ)だ。
「ふーん、バンドねえ。所詮は子供の道楽だな。勝手にすれば? 俺には他にやることがあるから」
悠之助は興味なさげにそっぽを向いた。
「何よー。兄さんも姉さんもノリ悪いわね。スーちゃん、こまちゃん、こうなったらあたし達だけで決めちゃいましょ」
麻雪が頬をふくらます。
「でも、せっかくなら五人で……」
鈴音が消え入りそうな声で反論する。
「はいはーい! あたしボーカルやりたい! でもギターも捨てがたいわね……迷っちゃうー!」
「それならば両方やれば良いのではないですか? 私はかつてピアノを習っておりましたので、キーボードなどいかがでしょうか」
「スーちゃんは何がやりたい?」
「ぼ、僕はベースが……って、勝手に話進めるのやめてほしいッス!」
「これでみんな決まったわね! あとはドラムが必要みたいね……」
麻雪の視線の先には司がいた。
「な、何だ? 俺様はやらんぞ」
「もったいないわねえ、姉さんほどの才能があればきっと一流のドラマーになれると思うわ。姉さんは体力も運動神経もあたし達の中で一番で、リーダーシップもあって、それから……」
「……仕方ないな。俺様の力を貸してやるとするか!」
「やったあ!」
「いいか、俺様が参加するからには一切の手抜きを許さん。いついかなる時も全力投球で行くぞ!」
「「おー!」」
そんな中、鈴音だけは浮かない顔をしていた。
「でも、兄上が……」
「貴様もしつこいな、あいつは放っておけ」
すると、その様子を見ていた悠之助が、四人を見て口を開いた。
「バンド、やってもいいぜ」
「本当ッスか!?」
「ただし、条件がある。一か月後の初心者向けライブイベントに出て、俺を納得させる演奏ができたらバンドに入ってやるよ」
悠之助の言葉に、こまめが表情を変える。
「一か月後とは、少し早すぎはしませんか? 私を除いて楽器を触ったこともない初心者ですし、無理があると思います」
「諦めるな! 俺様の辞書に、『無理』の二文字はない! 兄貴をぎゃふんと言わせる演奏を一か月で作り上げてみせるぞ!」
「姉上……そうッスね!」
「ま、楽しみにしてるぜ」
それから、四姉妹のバンド漬けの日々が始まった……
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?