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赤ちゃんは建設する君という人間を

以前のnoteではきちんと映画や音楽や書籍等のレビューを書いたりしていたし、お小遣い程度のレビューを頼まれていたけれども、今の僕の脳みそは秋の空模様と一緒なのでぼちぼちと。

僕の読書スタイルは、文学作品はじっくり一冊読み通し、哲学・批評は雑誌感覚、そしてたまにジャンル構わず何冊か同時多発的且つ宴席感覚的に多冊同時に味わうスタイルだ。
レビューを頼まれて更に何冊かの書籍とレコードや映画何本てはならない時はのぞいて基本的には何冊か並行してゆっくりと読んではいるけれども。

最近は川上未映子のエッセイと小林秀雄と岡潔の対談の二冊を同時に読んでいる。
純粋にじっくり楽しみながら箸休めのように交互に読んでいる。

かたや作家の出産から育児へのエッセイ、かたや知の巨人と偉大な数学者の対談。
文体も文学的属性も発表されている年代も異なる。


「人間の建設」小林秀雄・岡潔 著
小林と岡の対談については同書を既読であったけれども何年かして、ふと何となく読み返してみるとそこには過去の僕には感じることが出来なかった感慨深いものがある。

確かにある程度の学術的知識はあったほうがより楽しめるけれど、それは付録のようなもので、それよりも少しばかり大人になった僕が今感じるのは、噛み合っているのか噛み合ってないのか、でも、クスッと笑ってしまう二人の会話から滲み出る人間性や情熱とか関係性なのだ。
この関係性については、バカンス的頭脳の持ち主の僕には上手い表現が見当たらないけれど、過剰依存度が高いが距離感は遠い現代社会には必要なものだと思うのである。


「きみは赤ちゃん」川上未映子 著
川上未映子の妊娠・出産エッセイ。
病院の売店で入手。
当たり前のように売店の書籍コーナーは時代ものや推理小説やクイズもので溢れていた。
端っこで迷子のように、場違いのように、でもやたら堂々と立っていた一冊。

あとから思うに総合病院だから産婦人科もあるから当然か。

川上未映子は好きな作家ではあるし、作家のエッセイは好きだけれど、僕は男性であるし、独り身だし、一番は当然妊娠・出産は不可能的であるので理解し楽しめるのかが不安であった。

読み始めると不安はたぶん宇宙の果てに飛んでいき、すんなりとそして濃くそして黒飴のように甘くて苦いような出汁の効いた麺つゆのように入ってきた。

よく妊婦がどれだけ大変かと夫に重りのような変なモノを体に着ける体験ある気がするけど、そんなの全然意味ないよねと思う。誰かと誰かが出会うところから始まって、妊娠し、出産って簡単なことではなくて。

愛だとかも重要、でも、ひとつの命って物体は試練の連続なのだね。

本著では時にさらりと時に笑いとほんの少しだけどでも大きな粒の涙で妊娠から出産までを克明に描いてる。
読み終え、男性として妊娠・出産について考えてみたけれど、僕らはつわりの苦しさもマタニティブルーも分娩や出産の痛みについて経験は出来ないし、それらは頭で理解しても、それは理解だけであって。ただひとつ言えるとしたならば、ひとつの愛おしさという感情だろう。

後記
二冊ついては、読み始めは料理で言えば、刺身と焼肉といった全く別物の感覚でした。ただ読み始めるにつれその感覚は消え、そしていつのまにか舌の上で混ざり合いひとつの感覚になりました。
2冊に共通しているものは、人間らしさとその人間という物体や本質への愛おしさ。
今の世の中では煙たがられるかもしれないけど、愛おしい人間臭い感覚や感情。
ちょっとした道標を堪能できた二冊。
少し迷った時は「人間の建設」
これから妊娠・出産を控えてる方々、特に男性はぜひ「きみは赤ちゃん」をば。

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