生き残るべきD2Cブランドが持っているもの
2020/10/8
「あ〜、D2Cね。ハイハイD2Cね。流行ってるよね〜!」。
などと適当こいて、ようわからんけど知らないと思われたくないから一応知ってるふりしとこ。って人のために一応簡単に説明しときましょう。
Direct to Consumer (ダイレクト トゥ コンシューマー)の略、“ディートゥシー”で D2C 。
直訳すると「消費者に直接」みたいな感じですかね。俺は英語ダメだが。
要するに、何かを作ってる人や企業が卸売や小売店を介さず、ECサイトなどを利用して消費者に直接商品を販売するモデル。また、直接販売することだけにとどまらず、“生産者自身が消費者と直接繋がりを持ってることが特徴”だったりする。
例えばアパレルブランドならデザイナーがインスタで消費者のリクエストに答える形で新商品を拵えたり、化粧品ブランドの社長がツイッターで消費者と交流したりするのがD2Cブランドでは結構よく見られる。
ここでいう消費者っつうのは、“ファン”と言い換える方が理解が早いかもしれない。
従来型の企業やブランドのように、マーケティングを駆使して商品を企画して流通に乗せるみたいな順序ではなく、SNSなんかで「僕ら(私ら)こんな面白いことやってるんですよ」って紹介したり、ネットでの発信力の高い人が商品とその商品が持つ“ストーリー”に共感する人・しそうな人に伝えてくことで商品をいいなって思ってもらうモデルなので、D2Cブランドを買う人は、実際の商品を手に取る前にすでにブランドやデザイナー、或いは社長のファンになっている場合が多いと思われる。
そこから本物のブランドのファンになっていくのは、商品の良し悪しも多分に関わってくるのだが。
今日はそんなD2Cというモデルが今後ブランドのあり方として定着するのか、はたまた一過性のブームに終わるのか。そこのところを考察してみたい。
かゆいところに手が届く
D2Cブランドで成功する一つの要因としてよく挙げられているのが、かゆいところに手が届く点だろう。
つまり、“ありそうでなかった”、“少ない需要だが確実にファンがいた”といった要因がビジネスの勝敗を左右する。
俺が知っている事例としては、具体的に身長〜cm以下の女の子に送るブランドとして展開し、小柄な女の子でも可愛い服が着たいという需要にガッチリ応えるレディースアパレル。
俺は女性の服のことはよく知らんのだが、かなりの小柄女性には通常のSサイズですら大きい時もあり、かと言ってもっと小さいサイズを探そうとしたら子供服になってしまって大人っぽいいい感じに可愛い服がない。と言うことが良くあるのだそうだ。
確かに、女性からすりゃいつまでも小ちゃくて可愛いねえ、とばかり言われていられないだろう。そう言う、若い女性と大人の女性の間で洋服に迷う子らがこぞってそのブランドに集まっているらしい。
もう一つ、こちらのブランドはわずかながらメンズも展開していて俺もパンツを一本買ったことがある。
とっても良かった。玄人受けするクラシックなディティールのスラックスで、ベルトループの代わりにシンチベルトが両サイドに付いている。
今でこそヤングなメンズの間でタックインがオシャレテクとして認められているが、そのパンツは現代のストリートに見られるのとは違う文脈上にあるタックイン、いわば正統派の、メンズクラシックで実践すべきタックインができる素敵なワンタックスラックスだった。
そのブランドのメインはあくまでレディースで、メンズにも見られたクラシックに対する深い造詣が織りなす普段使いのドレスを主力アイテムとしている。
これが特定の女性に大ウケしていて、ドレスって言ったら普段から着る人はかなりの上級者と思われるが、そういう上級者でなくても普段ちょっとお買い物に行くぐらいのシーンで気軽に着用できる、素材やシルエットなどが絶妙にやりすぎていないドレスを作り出すのだ。
これらのブランドはいずれも、デザイナー本人が市場に足りていないと思っていたり実際に欲しいと思っていたアイテム像を反映しているため、共感したファンとの結束力が強い。また、大手が採算的にも手を出していない領域なのかも知れない。今のところ、同ジャンルの競合に押されている様子が見られない。
売上規模などは公表されていないので知らないが、両者の活動ぶりを見る限り非常に好調に見える。
また、ブランド自体の魅力もさることながら、両者ともデザイナーやディレクターなどの主要な人物の発信力がことに高く、ブランドのファンにとっては半分タレントのようなものなのだろう。SNSでファンと交流している様子が見受けられる。
さしずめ、”会いに行けるデザイナー”と言ったところか(あ、会いには行けないか)。
商品に目新しさはない場合も
今はD2Cが乱立していて、当然成功例は上の二つの例だけではない。
そういう中で個人的に気になっているのは、必ずしも画期的でなかったり、新鮮味も特にない服を作るブランドが成功を納めている事例だ。
俺が監視しているブランドがある(なぜ監視かって? そんなに魅力的でもないものを大げさな物言いで売って好調そうだから嫉妬しているためだ)。
そのブランドは、見た目はいわゆるスーツのセットアップ風の服を主力商品としている。
なんでも、ネット社会になって、仕事と日常の境目がなくなった中で、スーツでもない。かといってスウェットシャツでもない。何を着ようか。と服選びに迷った事に端を発して生まれたのだそうだ。
素材やシルエットを見直し、リラックスした着心地なのに見た目はセットアップできちんと見えることが商品の売りだ。
このブランドもファンからの支持が熱く、デザイナーや企画に携わった人間などのコアメンバーが全国を回って購入者やファンを相手に講演会や交流会を開催している。
そうした会では服作りを教えるわけではない。ライフスタイルや好きなことを仕事にする方法などが語られているようだ。
資金面でも、ファンとの繋がりの面でも、間違いなく成功を収めているといって差し支えないブランドだろう。
しかし、ブランディングとしてはどうだろう? 個人的には、少し懐疑的にみている。
というのも、スーツに見えるリラックスウェアというコンセプトの商品自体は、何年も前から市場にあるため、商品の機能性の面で新鮮味は特にない。
なおかつ、消費者側の視点に立った時、そこまで服装に厳しくないが一応きれい目な服装を求めらる職場に勤めている場合、その人はお気に入りのブランドやおなじみのセレクトショップから堅苦しくない素材と作りのセットアップを探してくるだろう。
もっと言えば、今はユニクロは愚かGUでさえ、その手の機能性スーツは何種類かラインナップしている。
だが、当該のブランドは発信力が極めて高くSNSでの認知は広いし、資金集めも上手く、一言で言って“今っぽい”。
商品につけるキャッチコピーも巧みで、コピーを見ただけで気になり、説明書きを読み終えて「なるほどそういうことか」と思って金を出す人も多いことと思う。
では、なぜそのように売れるのだろうか。
ストーリーへの投資がトレンド
今はあまりにも選択肢が多いこともあって、消費者は選ぶための動機と後押しを求めている。
情報が溢れて、デザインやディティールへの感動が薄れた時、じゃあ人は服をどういった基準で選ぶだろうか。
そこで最近よく言われているのが「ストーリー」である。
ストーリーとは、素材の産地やそこで働く人々の生活であり、縫製する工場や町の歴史であり、デザインが生まれた起源やエピソードである。
つまり、ある商品が存在するために必要だった、材料以外のすべての、物理的精神的観念的のモノだ。
先ほどのスーツに見える服の場合だと、「ネットの発達によって仕事と日常の境界線が薄れ、それに伴って、かっちりした従来のスーツだと日常に戻った時堅苦しく、普段着のスウェットなどでは出先でだらしなく見える。なので、そのどちらでもいける服を作ろう」というところが一つの出発点となるストーリーだ。
しかし、俺はこの「ストーリー消費トレンド」を、一過性のブームと捉えずにいられない。
コンセプトが生まれた背景に共感する気持ちはわかる。
だが、商品自体に新規性や画期的な何か、もっと端的に言えば“個性”がなければ金を払うのは一度ではないかと思うのだ。
すでにあるものの解釈や見え方を少しズラすことで優位性を保つことができるのは、ストーリーへの投資が一種のブームとなっている今現在ならではだろう。
ここ数年は、クラウドファンディングの認知拡大やインフルエンサービジネスの増加によって、ネット発のプロダクトに対する人々の期待感が高まっている。クラファン大手のキャンプファイアの案件数や投資額は右肩上がりだと聞く。
もちろん、資金の足りないところから、そうしたプラットフォームを活用して起業なりプロダクトを世に送り出すなりするのは素晴らしいことと思う。誰にでもできることではないし、社会的に意義のある活動も多い。
けれど今は、ハッキリ言ってクラファンでの少額投資のようなことがブームになっているので、特にプロダクト自体にそれほど惹きつけられる何かがなくとも、見せ方や発信の上手い勢力に資金や支持が流れている状況だといえる。
そのブームが去って、商品そのものに評価の軸が移った際に、件のスーツに見える服を作っているブランドは生き残れるのだろうか。甚だ疑問だ。
個人的には、ズラしではなく、そんなニーズが?! に感動したい。
D2Cブーム関する、思うところを述べてきた。
ネット発の小さなブランドがひしめき合っている状況は、今後勢力図を変える強力なブランドが生まれる前兆のようで面白いと思っている。
だから、どのブランドにも基本的には頑張ってほしい。
だが、D2Cブランドに関して個人的な好みを述べるなら、すでにあったものを別の角度から見せてそれらしく見せるブランドよりは、今まで誰も目をつけていなかったところに光を当て、マーケットに新しい価値観を創出するブランドを応援したい。
このロクでもなくやはりロクでもない世界の目を瞑ってはいけない部分を目を見開いて見た結果を記してゆきます。