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記録映像レビュー⑤-2009年 大橋可也&ダンサーズ『深淵の明晰』

大橋可也&ダンサーズ
『深淵の明晰』
2009年9月 吉祥寺シアター


[振付]
大橋可也
[出演]
垣内友香里、皆木正純、古舘奈津子、前田尚子、多田汐里、とまるながこ、山田歩
[音楽]
舩橋陽
[映像]
岡崎文生(NEO VISION)、吉開菜央

[衣裳]
ROCCA WORKS
[照明]
遠藤清敏(ライトシップ)
[音響]
牛川紀政
[舞台監督]
原口佳子(officeモリブデン)、桑原淳
[美術協力]
伊東篤宏
[写真]
GO (go-photograph.com)
[宣伝美術
佐藤寛之
[制作]
三五さやか、山本ゆの、上田茂(ビーグル・インク)

 冒頭シーン、笑いどころじゃないところでつい笑ってしまったのですが、こんなに楽しくなさそうに槇原敬之の曲を歌う人、はじめてみました(正確には『世界に一つだけの花』だからSMAPの曲ですけど)。本編とは関係ないですが、コロナ禍でドタバタしているうちに、仰天のニュースがつい先日飛び込んで来ていたことにすっかり気づきませんでした。いま槇原敬之でたまたまググってひっくり返りました。え、みんな知ってましたか、これ?

槇原敬之被告 起訴内容を認める 覚醒剤所持の罪など 初公判
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200721/k10012525651000.html

 この話から繋げるのもあれなんですが、ドラッグに例えると、大橋可也&ダンサーズの作品は「アッパー系のドラッグをキメてバッド・トリップした時に訪れる悪夢的な光景」と「ダウナー系のドラッグをオーバードーズして卒倒するように眠った時の震えが来るほど綺麗で健やかな風景」の大きく2つに分類されます(※されません)。いや誤解しないでください、僕は一度も実際にキメたことはないですよ。あくまでも体験ルポなどの知識から話していますからね。やめてね、そういう白い目で僕をみるのは。さて、その整理でいくと『深淵の明晰』は、迷わず前者に分類されるものになります(ラストはちょっとだけ後者よりかも)。ずっと映し出されている映像と舞台上の人の出入りが密接に関係していて、観客がみる側でダンサーがみられる側というシステムが次第に反転していき、映像の向こう側の人たちは舞台上で激しく踊っている人たちをみているのか、それともそれをみている私たちまでをもみているのか、あるいは先ほどまでみられる側だった人たちが、画面の向こう側に行くことで私たちをみつめ返そうとしているのか、そもそも私たちの目は本当にあっているのか、違う世界をみているのか、などなど視線がかなり重要なモチーフになっていて、細かく追い出すと発狂しかけます。不協和音みたいな音楽がそれに拍車をかけてくるため、少なくともメシ中にみるには不向きな映像であるということだけは伝えておきます。食欲を減衰させる効果があります。

 映画でいうならデヴィッド・リンチ『インランド・エンパイア』、演劇でいうならスペースノットブランク『ウエア』、小説でいうなら笙野頼子『レストレス・ドリーム』あたりが好きなひとなら、もしかしたらハマるかも知れません。ちなみに大橋可也&ダンサーズ『深淵の明晰』はYoutubeで無料公開されていますので、どなたでも観ることが出来ます。

大橋可也&ダンサーズ『深淵の明晰』


チーフ・キュレーター 綾門優季

いただいたサポートは会期中、劇場内に設置された賽銭箱に奉納されます。