見出し画像

記録映像レビュー⑥-2010年 笠井叡と黒田育世+BATIK『カルミナ・ブラーナ』

Generis第2回 新作公演
笠井叡と黒田育世+BATIK『カルミナ・ブラーナ』
2010年9月 吉祥寺シアター

[構成・演出・振付]
笠井叡
[出演]
BATIK(黒田育世、伊佐千明、植木美奈子、大江麻美子、梶本はるか、田中美沙子、寺西理恵、中津留絢香、西田弥生、矢嶋久美子)、笠井叡

照明]
関根有紀子(ぐれこはうす)
[音響]
角田寛生
[衣装]
荻野緑
[舞台監督]
定方まこと
[宣伝美術]
坂本陽一(モッツ)
[制作]
天使館(笠井久子)

 なんだかいろいろ考えていたらレビューじゃなくて気持ちになりました。あらかじめ謝っておこうと思います。申し訳ありませんでした。

 僕は劇作家で、劇評やレビューの依頼が来るのもほとんどが演劇なので、観ている舞台のうちの六割強は演劇、一割がコンテンポラリーダンス、ぐらいのバランスになってくる(なぜ足してもぜんぜん十割にならないのかというとこんなに綺麗に分類できないものも割とあるからである)。ただその中にも例外があって、上京したてではじめて観た規模の大きいダンス作品だったという「感動しやすさ」はあったにせよ、開幕5分から閉幕するまでずっとずっと泣き続けてしまった黒田育世『あかりのともるかがみのくず』(フェスティバル/トーキョー10)は僕にとって今でも特別な作品で、舞台芸術の世界に身を置いている理由のひとつだと言っていいくらいだ。そのおかげでBATIK、それに黒田育世のソロやコラボ作品まで含めると、実に10本以上の作品を観たことがある。もちろんすべてを網羅出来ているわけではないにせよ、ダンス、という切り口でいえば10本以上の作品を観たことがあるのはあとは矢内原美邦だけなので(もっとも、ニブロールも割と観てるけど演劇に入るミクニヤナイハラプロジェクトの存在がやはり大きい、『静かな一日』もそういえばずっと泣いてしまったっけなあ、コロナが落ち着いたら再演しやすい演目だとも思うので、また吉祥寺シアターでやってくれないだろうか、これはただの一ファンの声です)本当の本当に大切な存在だ。急な坂スタジオの新しい取り組みの対象者発表で「綾門優季」と「BATIK」が同時に選出された時には「ええっ!? ちょっ…どういうチョイス? うわー、え、うわー、ちょっと待っ、ああー、どういう顔で会えばいいんだろう」とドギマギした割には今に至るまで会う機会が一度しかなかったという、どうでもいい余談があるくらい尊敬している。急な坂スタジオで上演された連続パフォーマンス企画「BATIK100会」の『モニカモニカ』も非常に素晴らしかったが流石に! もうここで! 暑苦しいファン語りはやめておきましょう! 誰か声かけてくれたらあと三時間ぐらいはノンストップで喋ります!! 『ラストパイ』の話とか!!

 とはいえ、『あかりのともるかがみのくず』で衝撃を受けたあとはなるべく熱心に活動を追ってきたものの、その2ヶ月前に上演された『カルミナ・ブラーナ』は残念ながら未見だったので、今回の機会はありがたかったです。でも笠井叡と黒田育世+BATIKって何その異なる方向への生命力の爆発×生命力の爆発みたいな組み合わせ…宇宙の誕生かよ…観ていて爆死しないだろうか…という若干の懸念はありましたが、若干の懸念の通り、観ていて爆死しました。もーね。もー凄い。ぐったり。生命力ガンガンに吸い取られて再起不能って感じです。インパクトのある絵面をどれだけ詰め込んでくるのかっていう。ダンス批評をいくつか読んでいると未だに僕はあまり文化がわかってないまま楽しんでいるのかなあという苦手意識があるんですけど、例えば身体の所作が、的なことよりこの笠井叡の表情という表情がガチでヤバくないですか? あまりの気迫に叫びそうになりません? これをみなかったことにして踊りに集中するのだいぶ無理な時間が割とないですか? あとBATIKが拍車をかけて殺しにかかってくるよね。いちいち怖くてヒッてなるよね群舞が。そこがいいんですけどね。しかしただでさえどちらかを観ているだけでもいっぱいいっぱいなのに、なんかもう精神がもたないです。冷静に論じられるひとたちのことを讃えます。僕はすみませんワーッて。最初から最後までワーーーッッッてなっちゃって心臓がバクバクしてもう上手くレビュー出来ません。気持ちが、気持ちがもたないよー。。。

チーフ・キュレーター 綾門優季

いただいたサポートは会期中、劇場内に設置された賽銭箱に奉納されます。