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記録映像レビュー②-2006年 シベリア少女鉄道『残酷な神が支配する』

シベリア少女鉄道 vol.16
『残酷な神が支配する』
2006年7月 吉祥寺シアター


[作・演出]
土屋亮一
[出演]
前畑陽平、篠塚茜、藤原幹雄、吉田友則、横溝茂雄、出来恵美、加藤雅人(ラブリーヨーヨー)

 シベリア少女鉄道『残酷な神が支配する』は一言でいうと「巨大なアントニオ猪木が突然登場、闘魂ビンタを打つたびに、回り舞台があり得ないスピードで回って登場人物たちが舞台から次々脱落していく芝居」である。マジでその大規模な一発ギャグのために2時間以上、芝居を観ていたのかと思うと衝撃が走る。

 これだけでは何が何やらなので、もう少し詳しく説明しよう。前半の1時間以上はほとんど笑うところのない、極めて緊迫したムードの中で進んでいく。妹の祥子(出来恵美)を誘拐した犯人が誰なのか、兄の山内達郎(藤原幹雄)をはじめとした警察官やその友人などの登場人物たちが、3つの部屋でそれぞれの推理を展開、真相を突き止めるとそこには…というサスペンス的な展開で進んでいくのだが、この前半については長い長いネタフリで正直、事件の真相がどうだったのかについては本気でどうでもいい。犯人からの電話で告げられる運命のカウントダウンがゼロになった瞬間に舞台は一転、なんの脈絡もなくいきなり下手側にアントニオ猪木の映像が大きく映し出される。爆音で鳴り渡るイノキボンバイエ。目が痛くなるビカビカの照明。そして闘魂ビンタが放たれるたびに、揺れる回り舞台。嫌な予感がする。やがて、連続で闘魂ビンタが放たれると、今まで時計回りで、暗転なども丁寧に入れて場面転換していたにも関わらず、逆時計回りで本来の物語を完全に無視するようにグルグル回りだし、別の部屋のはずの扉と扉がどこでもドアよろしく意味不明に繋がっていることが明らかとなり、ラスト近くではほとんど部屋を速く移動しながら演技を続行できなければ舞台を強制的に退場しなければならないという謎な状況に追い込まれていくのである。最初のうちは、残酷な神は回り舞台を登場人物の意思と関係なくグルグル回すアントニオ猪木のことかと思ったが、アントニオ猪木の映像を強制的に舞台に出している作・演出の土屋亮一が、もしかするといちばん残酷な神に近い存在なのかもしれない。

 シベリア少女鉄道は、シベリア少女鉄道スピリッツ名義で活動していた頃から見始めたにわかファンで、活動開始した2000年から2010年までの公演はひとつも観ていないのだが、2020年2月にシアターグリーンで上演された最新作『ビギンズリターンズアンドライジングフォーエヴァー』とやってることがほとんど変わってなくて逆に凄い。これを20年やってきたのは本当に凄い。どうしてこんなヤバい仕掛けをバンバン思いつけるのか。強いて言えば、最近の公演のほうが、前半から笑える仕掛けになってきている気もするが、この一本だけではわからないので、生粋のシベ少ファンの見解を伺いたいところだ。


チーフ・キュレーター 綾門優季

いただいたサポートは会期中、劇場内に設置された賽銭箱に奉納されます。