見出し画像

記録映像レビュー③-2008年 青年団『眠れない夜なんてない』

青年団 第56回公演
『眠れない夜なんてない』
2008年6月-7月 吉祥寺シアター

[作・演出]
平田オリザ
[出演]
篠塚祥司(客演)、大崎由利子(客演)、山内健司、ひらたよーこ、松田弘子、足立 誠、山村崇子、志賀廣太郎、辻美奈子、天明留理子、渡辺香奈、大塚 洋、大竹 直、髙橋智子、堀 夏子

[舞台美術]
杉山 至
[照明]
岩城 保
[舞台監督]
中西隆雄
[衣裳]
有賀千鶴
[宣伝美術]
工藤規雄+村上和子、太田裕子
[宣伝写真]佐藤孝仁
[宣伝美術スタイリスト]
山口友里
[制作]
西山葉子、野村政之

 私にとって間違いなく、日本で最も劇評が書きにくい劇団である青年団(※綾門はこれでも青年団員です)。とはいえ2014年に入団したので、その6年前にあたる青年団の公演については何も知らず、ある程度の客観性を保てるように思う。その証拠にこのDVDも初見で、事前知識もあまりなかったため「今これやんの? マジかよ!」と素でめちゃくちゃびっくりしてしまった。この作品はすでに告知があったとおり、青年団の再演ツアーが決まっていて、東京公演は吉祥寺シアターで行われる予定である。

 基本的にはマレーシアで「そとこもり」をしている日本人たちの話。「そとこもり」という言葉は聞き慣れないかもしれないが、初めて聞いた、という方はこの記事を参照すると大体の概要は把握できる。

「ひきこもり」が自宅で何もしないことだとしたら「そとこもり」は海外で何もしないことなのだが、はっきり言ってこれほど「そとこもり」が難しい時代は過去に類例がない。再演は新型コロナウィルス流行の前から決まっていたので偶然によるものだが、今の現実に対してエッジの効いた皮肉としか捉えられない言葉が随所に散見される。

「しんどいもんですよ、この歳になって、自分の生まれた国が嫌いだってわかるのは。」
「でも、もうここから離れたくないんです。日本とは、できるだけ関わりたくないっていうか、」
「どこにも、もう、行きたくないんだ、」

(平田オリザ『眠れない夜なんてない』上演台本より引用)

 嘔吐しそうである。グサグサ刺さりまくるセリフの嵐に、観終わって私のHPは完全にゼロになってしまった。落ち武者のように鋭いセリフの矢が身体の各所から突き出ていて抜けない状態である。
 私が、私たちがここで描かれる人々よりも更に絶望的なのは、それだけ日本を心の底から憎しんでいたとしても、事実上、日本から今すぐに逃げ出すことが出来ず、半強制的に「ひきこもり」を選択しなければならないことである。「STAY HOME」なんて体裁のいい言葉には騙されない。要するに「一億総ひきこもり」状態である。
 「ひきこもり」が社会問題だと叫ばれていた頃、私は正直なところ「いいじゃん別に、社会と折り合いがつかないひとだっているでしょ、そっとしといてあげなよ」ぐらいに思っていたが、今は本気の本気で絶対に社会問題である。ひきこもりたくもないひとたちが、場合によっては仕事を奪われてまでひきこもらされており、それにもう耐えられない人たちが家から飛び出し、感染を広げている。
 たとえ海外への移動がこれから緩和されたとして、東アジアでは今やトップクラスの感染者を出しつつある日本から来た人々を、誰があたたかく迎えたいだろうか。差別せずに優しい態度で受け入れてくれる国は果たしてどれだけ残っているだろうか。下り坂をそろそろと下ることすら出来ず、先進国の看板をそろそろ下ろしたほうがいい日本の人々が、これだけ余裕をぶっこいた生活を送っている様子は、果たして、どのように人々の目に映るのだろうか。

 あえて大規模な海外ツアーを仕掛けてみたい作品だが、それもコロナ禍が落ち着いてからの話である。


チーフ・キュレーター 綾門優季


いただいたサポートは会期中、劇場内に設置された賽銭箱に奉納されます。