【開幕レポート】美しい日本語で出会う日本~オペラシアターこんにゃく座 オペラ『神々の国の首都』~
3月8日(金)、吉祥寺シアターでオペラシアターこんにゃく座 オペラ『神々の国の首都』が開幕した。ラフカディオ・ハーン(のちの小泉八雲)が松江で過ごした日々を描く作品だ。坂手洋二氏が主宰する「燐光群」が1993年に初演した同作を、オペラ化して上演する。オペラシアターこんにゃく座は、[新しい日本のオペラの創造と普及]を目的に創立された。今作の見どころは何といっても、美しい歌唱で紡がれる日本の美しさにあると思う。
ハーン(作中ではヘルン先生と呼ばれる)は地球半周を超える旅の中で異文化を体験し、「オープン・マインド」の心を育んだ。「オープン・マインド」とは、多様性をみとめる開かれた精神のことだ。
日本を訪れたハーン(髙野うるお)は、松江の中学校教師として赴任する。病床に臥しているところ、後に妻となるセツ(豊島理恵)と出会う。松江の人々やセツと交流し、ハーンは「オープン・マインド」の心で日本に出会っていく。
舞台には半分ほどの面積を占める木の舞台が設置され、周囲には黒の玉砂利が撒かれている。上手にはフルート、ヴァイオリン、チェロ、ピアノの楽士。こんにゃく座の舞台はピアノのみ、または小編成のアンサンブルでの演奏であることも特徴の一つだ。細くたおやかなヴァイオリンの音色がたなびき、私たちは『神々の国の首都』出雲へ足を踏み入れる。
舞台は二部構成だ。第一部では日本の人々や文化との出会いと感動が瑞々しく描かれる。楽器の音色や美しい歌声が、私たちの心を直接動かして弾ませるようだ。だが、明るいばかりではない。不穏な影を落しつつ、第二部へ。第二部では、「とある出来事」を機に、ひんやりとした幽玄の世界へ移り変わる。その移ろいが見事だ。私たちは知らぬ間にハーンの精神世界と怪談の世界に迷い込んでいた。
その見事さの理由には、演奏と歌唱の力もあるだろう。演奏される楽器はいずれも海外で生まれたものだ。楽曲も所謂「和っぽい」音で構成されているわけではない。だが、どうしてか日本的な“もののあはれ”を感じさせる音なのだ。この理由を言語化したかったのだが、うまく突き止められず悔しいばかりだ。柔らかなグラデーションと鮮やかさをもって観客の心を日本と出会わせる力があった。
舞台となる吉祥寺シアターは、一般にオペラが上演される劇場に比べてコンパクトな空間だ。音を全身で浴びる感覚が心地よい。特に豊島さんの歌声に心洗われる感覚がした。公演は3月17日(日)まで。美しい歌唱によって届けられる美しい日本の姿をお見逃しなく。
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