『彼方からのうた -SONG FROM FAR AWAY-』演出・桐山知也インタビュー
世界が注目する劇作家 サイモン・スティーヴンス氏と、カルト的人気を誇るシンガーソングライター マーク・アイツェル氏による戯曲『彼方からのうた -SONG FROM FAR AWAY-』。日本初上演となる本作に、気鋭の演出家・桐山知也氏が挑む。吉祥寺シアターでは、その作品の魅力を発掘するべく、桐山氏にお話を伺った。
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──『彼方からのうた -SONG FROM FAR AWAY-』を上演することになったきっかけは何ですか。
今回の公演の主催であるゴーチ・ブラザーズが行っている「仙台カルティベイト・キャンプ」というワークショップで、この作品を題材として扱ってみませんかとご提案いただきました。数年前に、サイモンさんの「ポルノグラフィ」という作品のリーディング公演を演出したことがあり、それ以来サイモンさんの作品に興味があって、実際にやってみると色々なアイデアが生まれて、いつか上演できるといいですねと話していました。
──桐山さんは、戯曲のどのような部分を面白いと感じましたか。
この作品は弟が死んだことをきっかけに、34歳の男性が、アムステルダムの実家に帰って家族と会い、自分の過去や家族との関係、自分のセクシュアリティなどと向き合う物語です。一人の男の人の話ですが、大げさな言い方をすると人類史のような長い時間のことを語っているような印象がありました。そこに、まず興味を持ちました。
ここ数年は、「記憶」や「人が物語るってどういうことなのか」、ということにすごく興味があります。記憶が、今生きている人間にとってどういう影響があるのか。そんなことを考える作品だなと思っています。
──もともと桐山さんが興味のあるテーマと関係しているのですね。
──今回『彼方からのうた』をどういった作品にしていきたいですか。
出演者は4人なのですが、それにまつわるちょっとした仕掛けがあります。サイモンさんも面白いねと仰っているとのことなので、結構イケてるんじゃないかなと思っています。
音楽もオリジナル版と同じくマーク・アイツェルさんの曲が使えることになりました。マークさんから「『愛のある所に行きなさい』と歌詞にあるが、その愛がどこにあるかはまだ分からない」というメッセージをいただきました。目的はあるけど、どこに向かったらいいのか分からないという揺れ動いている感じが少し不思議で、そこに現代っぽさ、先の見えない感じがあるなと。「愛が大切だよ」と分かりやすく言うのではなく、愛というもののプロセスについて語っていることが重要な気がしています。
──今回の出演者の皆さんは、桐山さんから見てどのような方々ですか。
これまで多くの作品に出演されていて、色々な演出家の方と出会っているので、稽古場で起きることに柔軟に対応していただけるんじゃないかなと思っています。それがいい化学反応になるのではないかと期待しています。
──話題は変わりますが、桐山さんは何がきっかけで演劇を始めたのですか。
母にミュージカルに連れていかれたのがきっかけでした。そのパンフレットに衣裳デザイナーの仕事について載っていて、舞台美術という仕事があることを知りました。もともと絵を描くのが好きだったので面白そうだなと思っていたのですが、しばらくして “美術のことにも口を出せる、演出家という偉そうな職業がある”というのを知って(笑)、演出家というのが自分の頭の中にぼんやり浮かんできました。
大学卒業後、蜷川幸雄さんや野村萬斎さん、白井晃さんと出会って、いいとこどりをしつつ、自分なりのやり方を組み立てていきました。
──最初に見たミュージカルは何でしたか。
劇団四季の『ユタと不思議な仲間たち』です。ミュージカルは音楽の力もあって誰にでも分かりやすくストレートに伝わるものがあると思います。原点がそこなので、『彼方からのうた』も、自分の母親にも目の肥えた演劇ファンの皆にも楽しめるものを創りたいと思っています。一見矛盾しているようですが上手くそのバランスをとるのが創作の醍醐味かなといつも思っています。
──ちなみに、桐山さんはどういう劇作家が好きですか。
サイモン・スティーヴンスですね(笑)。王道ですがアーサー・ミラーやテネシー・ウィリアムズも好きです。自分では戯曲を書かないので、演出家としてその戯曲をお客さんにどう新たに提示するかに興味があります。偉そうな言い方ですが、演出の力でテキストの新しい可能性を見せたいなと思っています。
日本でも最近サイモン・スティーヴンス作品の上演が増えてきていますよね。これからもっと増えていってほしいです。
──本日はありがとうございました。
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世界で絶賛されている戯曲に、戯曲の新たな可能性を常に探る演出家、実力ある俳優陣。全て兼ね備えた本作が楽しみでならない。上演は、8月2日(金)より、吉祥寺シアターにて。
詳細:https://www.musashino.or.jp/k_theatre/1002050/1003231/1006397.html
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