何チャン

スピリットを残せるパーティーがココに 〜 NYE @cedarroomparty

パーティーで初めて働いた。それも大晦日恒例の「カウントダウンパーティー」で。日常的に踊ることを仕事以上の「お勤め」とし今年早6年目。音楽を聴いて踊ることで我がエネルギーを常時満タンに出来るナチュラルハイに味を占めた。この経緯からダンスパーティーを「ガソリンスタンド」と呼び、自らを横付けしては給油行為を繰り返す私の耳の前に、今回新たに未知なる次元が広がった。見失っていたスピリットたるものを蘇らせる、そんなムーブメントがあったらアナタも参加してみたくなるのではないだろうか?

私に与えられた仕事内容とは、バーエリアのアシストで、空き缶やビン、コップの回収、皿洗い、洗浄済み備品を元の位置へ戻し、ゴミの撤収、床こぼしのモップ掃除、カウトダウンの際にシャンパンで乾杯する場所案内。そして何より大切なのが、ダンスフロアでのクオリティー向上を目指した巡回と警告であると思い込んでいた自分の計算違いが生じたのはそこ。

雇ってくれたモンちゃんとユキちゃんと事前に話をしていたとき、清掃作業をする傍ら、曲は大音量でかかっているし、病み上がりだし、マスクをしているし、声は聞こえにくいしで、あらかじめ作ってきたプラカードを即座に取り出せるようにしておいて、フロアで写真やビデオを撮ろうとしている人にはイエローカード、悪態をつく人にレッドカードを切り、極端な冗談を交えておまけには『ジェイル行き』と、モノポリのボードゲームやサッカー試合のルールで捉えれば、知っている人も多いから分かってもらえるだろうと、やや強引に『ラブゲーム』たる作法を考案してみた。

付け足して、何故『ラブゲーム』だったかといえば、先日一年振りに『クワイエット・ストーム2020』なるプレイリストをユーチューブで作りながら聴いていたバラード曲の数々の歌詞がいかに沢山の「恋の駆け引き」を歌っているかにおののき、「愛は真剣」たることしか知らなかった私が、愛のゲーマーの群れに改めて感心したのが発端で、それならゲームにした方が容易いだろうという手筈だった。

だが実際の現場では、一階にあるバーエリアでドリンク販売や接客や両替もやっていたくらい飲み物を求める客が一晩中絶えず、挙げ句の果てには自ずの短気をコントロール出来ないパリピの友達も混じっていて家庭用ゴミ袋を外壁へ向けブチ投げ道端が生卵だらけになり緊急清掃も発生し、地下にあるラウンジとダンスフロアのゴミ回収とDJブースで取った注文の飲み物を運んで行き、外にゴミ袋を出し、水のタンクを継ぎ足すのが精一杯で、逆にフロアでフラッシュをつけ撮影したのがどの人なのかを瞬時に探し当て、プラカードを見せるには部屋は混み過ぎ照明も暗過ぎていた。

相変わらずな世間ズレ200パーセントの自分自身があえて重点を置いていた、『和食さと』の店員の制服をイメージした作務衣を着た「パーティーパトロール」たる行為といえば、阿寒湖で見つけたまりものポシェットより上の方に斜め下げした札幌の定山渓温泉PR隊長キャラ『かっぽん』のポシェットの中に大切にしまい込んだお手製ハート型プラカードたち、結局イエローカード数回使用のみで、殆ど日の目を見ることはなかった。ちなみに何故ハート型にこだわるかといえば、フロアで注意した相手との緩和剤というよりも、やはりバレンタインデーの告白的愛の証なのだからだ。

それは昭和の特撮ドラマ『がんばれ!!ロボコン』で、ガンツ先生の頭と心で計算され体内で消化された、各ロボットの人間社会での貢献内容がハートの枚数によって定められ、まるで自動販売機から落ちてくるラブレター、チープに象られた赤い「ハートマーク」となって下腹部へと吐き出される。幼い頃にガソリンスタンドで働きたかった理由はその匂いが好きだったから。それ以外、このテレビ番組で給油レバーを差し込まれているロボットを観て育っている影響も隠しきれない。

脱線した本筋を戻し、季節労働者改め「シーズナルパリピ」たる、普段遊んでない人達が年末年始の仕事休み中にここぞと挙って一旦馬力で盛り、全力のセミや瞬時に美しく散って咲く花火のように空中分解するのをフロアで目撃してきた私が極力避けようとしてきたこの時期最大のパーティーなのだ。楽しく愉快に知恵を絞った熟練パーティーおばさんでも到底太刀打ちできない。それでこそが、人間のエネルギーの凄まじさだと感じている。

ノースリーブ銀色スパンコールのミニドレスを着た新顔だった短髪の黒人女子がその類いのパリぴん子の典型だった。決してダンスは派手ではないが、あらゆる男子の注目を得る為わざわざセクシーな動きを繰り返し、音楽がかかっているのもお構いなしで自分の思いつく曲を口ずさみ、時間が経つにつれ音声がより大きくなっていく滑稽な人だった。その彼女が日も明けた後、モンちゃんがプレイしたデヴィット・ボーイの曲を聴いた瞬間、騒々しく雄たけんでいた様子から豹変した。「何で私の想い出の曲をかけてンのヨ〜。」「グスタヴォが恋しい〜。」「グスタヴォ〜。」と男の名前を言いながら大声で泣き始めたではないか。横たわっていた二人の男子の膝からやがて立ち上がり、「今からパブリックレコードへ行ってセックスする相手を見つけるワ。」と言い残し一人出て行ってしまった。さっきまで彼女が根寝そべっていたソファーには千切れた銀色スター柄が散りばめられた正月ネックレスが男達と一緒に置き去りにされていたのが印象的だった。音楽が人に何かを呼び起こし行動を悔い改めさせたり催眠にかけたりできる一部始終をこの時私は垣間見ていた。

朝9時近くになってモンちゃんとユキちゃんに焼いてもらったお餅をきな粉や醤油にまぶし食べさせてもらった後(現地入り直後にご馳走になった愛情雑煮も非常に美味しかったのだが)このパーティーに甲斐甲斐しく足を運び続けているオーティスという名の若者と話す機会があり、彼が共有してくれた一言が一晩中起こっていためまぐるしさからくる疑いをすべて取り払ってくれた。前々からお互いに顔を合わせ挨拶はしていたものの初めて話したのに、「昔の親友を思い出したヨ。」「なんで今まで君と話してなかったンだろう。」と私に言ってくれていた。

話を聞けば、どうやら彼はパンクのメッカであるオクラハマ州に住んでいた頃、そのジャンルの音に陶酔していたそう。ニューヨークへ移り住んだのちに、ハウスやいわゆるダンスミュージックの豊かさを発見していながらも、当時のシーンと同様のスピリットを感じるようなコアな出逢いには恵まれてこなかった。しかし彼が探し続けていたモノがこのシダールームにこそあると私に言うのだ。それというのが、この場所へ足を踏み入れて以来、このパーティーに「反骨精神」を見出しているのだと、恥ずかしそうに微笑みながら教えてくれた。

氷河の破片みたいに何もかも腑に落ちてくる曇り空の下、元旦の朝を迎えられた。

48歳から人生の本編スタート。「生きる」記録の断片を書く活動みならず、ポエム、版画、パフォーマンス、ビデオ編集、家政婦業、ねこシッター、モデル、そして新しくDJや巨匠とのコラボ等、トライ&エラーしつつ多動中。応援の方どうぞ宜しくお願いいたします。