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六道 畜生編 人の恩を軽んじるなかれ 2

※地獄のフィクションストーリーです。

第2章 親子と言えど畜生

奈落に落とされた姑の信子は、例外に漏れず、真っ暗闇の中を2年ほど彷徨い
死後のルート(詳しくは餓鬼編をお読みください)を通り、
三途の川へとやってきた。

船の船頭に渡す200円を信子は持ち合わせていなかった。
葬式の際には、信子の夫は認知症を患っていたし、息子の和彦は葬式を仕切るほど
積極的な性格ではなく、葬祭場の担当者に任せっきりだった。
妻の香織も、今更なんの感情も持ち合わせておらず、夫の実家の事に口を出す気分でもないので、任せっきりの葬式となった。
現代のお葬式の副葬品は、火葬が主流の日本において、紙幣や硬貨を入れることはできないことになっている。火葬で貨幣を燃やしてはいけないのだ。
貨幣破損等取締法で法律違反となる。
そこで、六文銭の印刷物をお金の代わりとして持たせるのである。
しかし、和彦はケチだ。
「副葬品はいらないよ。ちょっとでも安く上げてよ。」
戒名もなし、葬式ランクも形式的なもので、どうせ家族葬だから。

そんなことで、信子は白装束だけを身に着ける羽目になってしまったのだ。

船頭に「この渡し船に乗れますかね〜」と声をかけると、
「200円払えるなら乗れるよ」
と言われて、着物の中を探すがお金らしきものはなさそうだ。

少しもたもたしながら、河原で休んでいると
「歩いて渡る奴はあっち行きな。」とけし掛けられて渋々、その場を後にしようとした時、遠くから、見たような顔が近づいてくる。
「あら!和くん!」
「お袋…」
和彦は、ニヤリとした母の顔を見逃さなかった。
「まあ、あんたまでこっち来るなんて。早すぎよ。まだ翔太だってこれから大変じゃないのよ。まあ、香織さんは冷たい人だったから、早くおさらば出来て良かったかもしれないけどね〜。でもあんたがいると、私も心強いわ」
親子の縁は深いのかどうなのか。

「あ、その船ね、お金払わないと乗れないのよ。一緒にあっちに行きましょ」
信子が言う。
「あの、これ。」
何やら小袋から、紙幣らしきものを船頭に渡そうとする和彦。
「ちょっと、あんたお金持ってんの。私にもちょうだいよ。それよりあんたが歩いて、親を船に乗せるのが筋でしょうよ。今まで散々、世話してきたんだから、こんな時くらい恩返ししなさいよ。」
「は?よく言うよ。いつも押し付けがましいんだよ。やってあげました感満載で。これは香織が俺に持たせてくれた金だ。なんでお袋に渡さないといけない?それは虫が良すぎる話じゃないか。散々香織にも迷惑かけといて、よく言うよ。」
「ちょっと、何のためにあんたをこっちに呼んだと思ってんのよっ!」
ギロっと睨み返す和彦。
「やっぱりそうか。俺の寿命早めたのはお袋だったか。お袋が死んだ後から、嫌に寝つきが悪い日が続いて、日に日に体調が悪くなって。一体どんな念を送ったんだよ。悪魔と契約でもしたのかよ。この鬼畜が!」

もう2人の喧嘩は留まるところを知らない。
そんな時だった。
200円を巡って、奪い合ったものだから和彦の手から紙幣が風に飛ばされて
川に沈んでしまった。
「あっ」
「何すんだよ。畜生!ババアめ!」
「あんた親に向かって何よ。その言種は!」
そこでまた一悶着。
さすがに門番もこれには呆れて、2人を激流の中へ投げ込んだ。
それでも、2人は我先に岸に辿り着こうと、お互いが思いあうこともなく、
むしろその逆。見ていて情けないやら、悲しいやら。
頭を押さえつけたり、足を引っ張ったり、お互いがお互いの邪魔ばかりしながら、
ようやく岸に辿り着いた。
親子とはいえ、本性剥き出し。よく似ているのだろう。
息子は息子で、生前薄情だったのだろうとうかがえる。

その様子を見ていた奪江婆(だつえば)は、呆れて衣服を剥ぎ取り、ため息まじりに、「十王の裁きの結果をお聞き」とだけ言うと、姿を消した。

その間も、お互いの罵り合いは止まらない

つづく



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