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14話(最終回) 愛よ!永遠に?

この日も結菜と千鶴は、音声配信で楽しくコラボレーション配信をする約束をしていた。しかし千鶴は、配信の直前に急用ができたと言って、屋外から配信に参加することになった。結菜は千鶴の急用が何なのか気になったが、配信を始めることにした。

配信では、いつもの通りの女子トークが展開された。彼女たちはファッションや恋愛、グルメなどについて語り合った。リスナーからのコメントにも反応し、楽しく盛り上がった。結菜は千鶴の声が少し遠くて聞きづらいことに気づいたが、それ以上は深く追求しなかった。結菜は千鶴が何か隠しているのではないかと感じたが、それを問い詰めるのは失礼だと思った。

時間が押し迫り、配信を終わらせる準備をした。千鶴が「結菜、そう言えば今日結菜の推しグッズ、コンビニでの発売日だったけど買った?」と聞いた。結菜は「そうだったけ?だったら今すぐコンビニに行かないと!」と驚いた。彼女は自分の推しのグッズを買うのを忘れていた。彼女は千鶴に感謝し、急いで配信を切った。結菜は急ぎ足でコンビニへ向かった。夜の静けさが街を包み、コンビニの明かりが心地よい暖かさをもたらしていた。しかし、その平穏な夜に結菜は予測不能な出来事に巻き込まれることになった。

暗いゴミ置き場のそばを歩いていた結菜は、不気味な音に気を引かれた。そこには二人の男性がゴミ袋をあさっている様子が広がっていた。結菜は警戒心を抱きつつ通り過ぎようとしたが、その時、背後から白く細い手が暗闇から伸びてきた。

男たちは何かに驚き、慌ててその場を逃げ去った。振り向くと、結菜の前には狂気に満ちた女性が立っていた。その瞳には異常なまでの狂気が宿り、結菜は言葉を失った。

白い手がますます伸びてくる中、狂気に満ちた女性が何かを囁き始めた。結菜はその言葉から、男たちが逃げたのは彼女のせいだと気づいた。「私、千鶴」と女性が冷たい声で名乗った。

「あ、あなたが千鶴さん、なぜこんなことを?」と結菜が問いかけると、首にかかった千鶴の手の力は増し、結菜の息が詰まる感覚が強まった。その時、千鶴は力強く暗闇を貫くような高い声で答えた。「私のゆ・う・と・さ・・んを…」

やせ細った見かけとは違い、この千鶴からは強大な力が感じられ、その腕を跳ね返すことができなかった。千鶴の怒りと悲しみに満ちた声が響き渡る中、結菜は徐々に力を失っていった。優斗の温もりを思い出し、彼と過ごした幸せな瞬間を振り返りながら、結菜の意識はゆっくりと闇に包まれていった。その最期の瞬間も、彼女の顔には微笑みが浮かんでいた。

千鶴は、家路を急ぎながら、心臓が早鐘のように鼓動していた。ようやくたどり着いた家に入ると、玄関で靴を脱ぎ捨て、静寂に包まれた部屋へと入った。部屋の中央には、優斗が静かに横たわっていた。かつては生命力に満ち溢れていた彼の肌は、今では茶色く変色し、みずみずしさも失われていた。まるでミイラのように。それでも彼女にとっては愛おしい存在だった。

千鶴は、そっと優斗の傍らに跪き、彼の頭を優しく撫でた。そして、彼の冷たく硬い頬にキスを落とし、ゆっくりと抱きしめた。「これで誰にも優斗は奪うことはできない」と、彼女はつぶやき、その言葉に込められた感情が彼女の目から涙となってこぼれた。

涙が彼女の頬を伝い、優斗の体に落ちた。その涙が彼の頬に当たると、まるで優斗自身が涙を流しているかのように見えた。その光景は、彼女の心をさらに痛めさせ、彼女の涙は止まることを知らなかった。千鶴は、優斗の亡骸を抱きしめながら、彼の温もりを感じようと必死に願った。二度と離したくないという強い思いが、全身を駆け巡っていた。部屋には静寂が訪れ、ただ二人が寄り添う音だけが響いていた。時間だけがゆっくりと過ぎていく。千鶴は、優斗の亡骸を抱きしめながら、永遠に続くかのような時間を過ごした。

しかし、優斗からこぼれたように見えた涙は、千鶴の想像とは全く異なる意味を持っていた。それは安堵の涙だった。その後、結菜と優斗は天国で再会し、永遠の愛を誓い合った。二人が再会したその場所は、地上のどんな場所よりも美しく、彼らの愛情が満ち溢れていた。彼らはお互いを見つめ、永遠に離れることのない愛を誓った。

翌日のテレビのワイドショーでアナウンサーが報道する。
「昨夜、東京都内で起きた女性一人が絞殺された事件について、警視庁は本日、殺人容疑で女性一人を逮捕しました。逮捕されたのは、被害者と同じライバー仲間だった千鶴容疑者です。警察によると、千鶴容疑者は被害者の結菜さんに恋愛感情を抱いていた優斗さんと交際していることを知り、嫉妬から殺害したと供述しています。優斗さんは既婚者で子供もいたことが判明しています。結菜さんは昨夜、路上で千鶴容疑者に襲われ、首を絞められて殺害されたとみられています。また、千鶴容疑者の自宅からは、優斗さんの遺体が発見されました。優斗さんは約一ヶ月前に行方不明となっていました。この事件は、ライバー界に衝撃を与えています。」

千鶴は逮捕された後、警察病院に入院した。彼女は自分の犯行を全て認め、優斗と結菜の遺族に謝罪の手紙を書いた。しかし、彼女の体はすでにガンに侵されており犯行前から治療を行っていた。彼女は甲状腺未分化がんと診断された。このガンは非常に悪性で、治療法もなく、余命は数週間と宣告された。

千鶴は自分の死を受け入れ、最期まで優斗の写真を抱きしめていた。その千鶴の執着した想いは時間を遡り、結菜と優斗二人が幸せそうに写っていた写真の優斗の顔を奪っていた。

彼女は一週間後、苦しまずに穏やかな最期を迎えた。彼女の死により、殺人事件の捜査は被疑者死亡のまま終了した。この事件は、ライバー界に深い傷跡を残した。

(おわり)





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