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12話 出会い再び

ある日、千鶴は深呼吸をして、スマートフォンの画面を見つめていた。画面に映し出されているのは「ボイスヴェール」という音声配信アプリで、そのアプリで使用している彼女のハンドルネーム「千鶴」と「アイコン」が並んでいた。

千鶴は「ボイスヴェール」のハンドルネームとアイコンを見つめながら、もう一つのアプリを開いた。それは写真投稿アプリ「イメクスト」である。千鶴はハンドルネーム「夜空の星」から「千鶴」に変えアイコンもボイスヴェール」のアイコンへ変更した。
彼女は優斗のアカウントに、ダイレクトメッセージ機能を使ってメッセージを送り始めた。

送られたメッセージは短かったが、その中には彼女の深い想いと意図が込められていた。「優斗さん、ボイスヴェールでお聴きしています。あなたの世界に魅了されています。」

千鶴は送信ボタンを押すと、まるで時間が止まったかのような静寂が訪れた。彼女の心臓が高鳴る音だけが、部屋に響き渡っていた。彼女の思いと意図が詰まったその短いメッセージは、虚空に飛び立つ鳥のように、静かに彼のもとへと向かっていったのだった。

彼女の胸は喜びと期待でいっぱいで、そのドキドキの感情とともに積極的なアプローチを続ける覚悟を決めた。優斗からの返信を待ちながら、千鶴は新たな出会いと未来への第一歩を踏み出した。

画面を見つめる千鶴、1時間ぐらいっ立ったころだっただろうか、画面には「既読」の表示が出た。千鶴は優斗の返事を待った。彼はどう答えるだろうか。千鶴は不安と期待で胸が高鳴った。

千鶴は画面を見つめ続けた。しかし、優斗からの返事はなかった。千鶴は不安になって、彼のイメクストのプロフィールを見た。そこには「最終ログイン:1時間前」と表示されていた。千鶴はショックを受けた。優斗はメッセージを読んだ後、すぐにアプリを閉じたのだ。それは、千鶴の告白に対する拒絶の意思表示だったのだろうか。

千鶴は涙がこぼれそうになった。彼女は自分の気持ちを伝えたかっただけなのに、なぜこんなに苦しまなければならないのだろう。千鶴は「ボイスヴェール」のアプリを開いた。彼女は優斗の配信を聞きたかった。彼の声が聞こえれば、少しは安心できるかもしれないと思った。しかし、優斗の配信はオフラインだった。千鶴は彼の過去の配信を再生した。優斗の声が千鶴の耳に届いた。

「こんにちは、優斗です。今日は何を話そうかな。あ、そうだ。今日は千鶴さんのリクエストに答えて、好きな映画について話してみようと思います。千鶴さん、ありがとうございます。」

千鶴は優斗の声に耳を傾けた。彼は自分の好きな映画のジャンルや作品、感想などを熱く語っていた。千鶴は優斗の話に共感した。彼女も同じ映画を見て、同じように感じたことがあった。千鶴は優斗の声に癒された。彼はいつも優しくて、面白くて、素敵な人だった。千鶴は改めて、優斗のことが好きだと思った。

2日ほど経って優斗から返事があった
優斗から千鶴への返信には、千鶴の心を躍らせるような素晴らしいメッセージが含まれていた。
「千鶴さん、メッセージをありがとうございます。こちらこそ、VoiceVeilで千鶴さんの名前を見かけて、興味を持っていました。千鶴さんから直接メッセージをいただけるとは思ってもいませんでした。とても嬉しいです。私も千鶴さんとのコミュニケーションを楽しみにしています。これからどうぞよろしくお願いいたします。」

千鶴は優斗からの返事を読みながら、喜びと興奮が胸いっぱいに広がった。彼の積極的な返事は、彼女のアプローチが成功し、興味を引くことができたことを意味していた。これからの会話で、彼らのつながりが深まることを千鶴は心から楽しみにしていたのだった。

数週間にわたるDMのやり取りの後、千鶴から「逢いたいです」というメッセージが届いた。優斗は一瞬、そのメッセージに目を疑った。しかし、結菜との関係が彼に自信を与えていた。その自信があったからこそ、彼は女性とリアルで会うことに対するハードルが下がっていた。それに、千鶴の気持ちを知っていたからこそ、彼の迷いはさらに小さくなった。

そんな思いから、優斗は千鶴と会うことを決めた。彼女が指定した場所を見て、彼は再び驚いた。それはなんと、彼女の家だった。普通ならば、男性が女性の家に行くことは控えるべきだろう。しかし、優斗の感覚は結菜との出会いによってすっかりマヒしていた。

彼が家の前に立つと、少し緊張が走った。彼女の家に足を踏み入れることがどんな意味を持つのか、彼は理解していなかった。しかし、彼の心は千鶴に会いたいという欲求でいっぱいだった。

(つづく)

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