見出し画像

「好きを、つらぬけ。」

「好きを、つらぬけ。」

私も、仕事には「好き」を大切にしているほう。
ときめきやワクワク、心躍る出来事を大切にして日々生きてきた。

だけど、「好き」を仕事にすることは、思ったよりも楽なことじゃない。
周りと比べて落ち込むし、「好き」なのに納得の出来ないものを生み出してしまったときはくやしい。
私の方が「好き」なのに、そうでもない人が私の欲しい仕事をしている。

「好き」に疲弊してしまうことも、しばしばある。

辻村深月原作の「ハケンアニメ!」が実写化された。
大好きな原作で、王子千晴を中村倫也さんが演じると知ったときは心が踊った。

本作は、伝説の天才アニメ監督・王子と、新人監督・斎藤瞳を中心にしたアニメに関わる人々の物語。ファンの心をつかむのは、「覇権」を取るのはどちらの作品か。「好き」にまっすぐなお仕事モノだ。

大好きな原作が実写化すると聞いてまず心に浮かぶのは「大丈夫かな?」ということ。でも、本作はふたりの監督が作ったアニメまでもが丁寧に描かれていて、その世界を実際に見たくてたまらなかった。

心躍る気持ちで映画館に足を運んだ。

スクリーンの中にあったのは、頭の中で想像して、描いた世界。
描いた瞳、王子監督、プロデューサー、声優…何もかもがスクリーンの中で息をして、働いて、動いていた。大好きなせりふもちゃんと物語の中にあって、瞳が、王子が生の声で話していた。

吉岡里帆さんの、頑固で不器用なほどまっすぐで、脆くて強い瞳が、最高に素敵だった。
愛され主人公ではないかもしれない。だからこそ、しばしば自分と重なって、心が抉られて、ヒリヒリする。飾らない演技が、瞳そのものに見えた。あのまっすぐさが、苦しかった。どうかもっとうまくやってくれよ、何度もそう思った。苦しいよ、痛いよ、って、何度も。

瞳が言いたいことを言って、人に伝わらないシーンがある。とにかく不器用なのだ。まっすぐさは、時に誰かを傷つける。正しさは、時に誰かの枷になる。きっと瞳も頭ではわかっているのに、うまく伝えられない。それは自分の「好き」が先行して、思いが先走りすぎてしまうから。

このシーンで、「好き」を仕事にすることのもどかしさを痛感する。なんで思うように動いてくれない、なんで思うように進まない。でも当たり前だ、仕事はどんな仕事もチームだ。好きの押し付け、自分の考えの押し付けではそのチームは破綻する。

仕事は、客観的な目線が必要だけど、このときの瞳には客観性があまりない。そしてそんな瞳に投げかける、王子の言葉。ここで好きなのは、瞳は王子に憧れているのに、その言葉を聞いても喜ばない。というか、全体的に別に王子に会えたからといって喜んでいる風ではない。それよりも「やってやるぞ」感がすごい。

人への憧れは、単純な好きだけではない、「この人を越えたい」という気持ちが、物語を通して瞳から強く伝わってくる。私にも憧れの人はいるけど、それはただの憧れの人。越えようなんて思わない、むしろ思えない。でも私は瞳のその熱さと、強さが好きだ。そして、越えようって、越えたい、って、思ってもいいんだよね、って、少し背中を押された気分になった。

そして中村倫也さんの、圧倒的存在感。特に、瞳とステージで対峙するシーンは心が震えた。自分の言っていること、行動に自信があるから出る言葉。その裏で、不安を知っているから出る言葉。大好きな王子監督がそこにいた。

あと、個人的にすごいと思ったのは、小野花梨さん。最近よくドラマで見るけど、見る役見る役全然違う人に見えて驚く。役者さんってすごいなぁ、と、そんなシンプルな感想しか出てこなくなるくらい、その人を生きている感じがする。


「好き」を仕事にするのは、楽なことではない。
人と比べて嫌になるし、惨めになるし、悲しくなるし、悔しくなる。

それでもこの感情は、「好き」が根底にあるからこそ強く感じるものだ。
「好き」は時に邪魔になる。それでも、その気持ちがなくてはやっていけない。

人生を変えてしまうほどの出会い。それを信じている人たちだけが、たどり着ける場所。

「好きを、つらぬけ。」
この世に魔法はないと、瞳は言う。
でも、「好き」は、何よりも強い魔法なのだと思う。
「好き」を信じた人だけが使える魔法が、きっとあるのだと思う。

この記事が参加している募集

映画感想文

いただいたサポートは勉強用・読書用の本購入に役立たせていただきます。読んでほしい!という本があればこっそり教えてください✩.*˚いつか連載を持ちたいのでご協力よろしくお願いします!