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“人”に会いに、本屋に行く|『本屋、はじめました』読書感想文

荻窪にある新刊書店「Title」。
その店主、辻山良雄さんの著書を読みました。
大型書店リブロで勤務されていた時のことからTitle開店後のことまで、さまざまに語られています。

個人経営の書店について調べ始めたとき、すぐに気になった本。書店を経営すること、個人でお店を始めることのリアルを知りました。そして、結局わたしたちが本屋に求めていることって何なのか?それも考えずにはいられません。

“人脈をつくる”って、やっぱり必要

これは読んでいて、ずっと感じていました。

お店の内装、商品の仕入れ、ロゴデザイン、イベントの企画など。辻山さんがリブロ時代から培ってこられた人との繋がりが、至るところに見えるのです。「〇〇のことなら、あの人に話してみよう」という人が、知り合いの中にいつもいるイメージ。読んでいるこちらも、心強い繋がりだなと思うことがたくさんありました。

大手の書店で働き、全国さまざまな場所を訪れ、大型店舗を運営し…そうやってひとつずつ経験を積み、多くの立場の人に出会う。そのどれもが、本屋Titleの姿に繋がっていると感じます。

もちろんそれは、辻山さんが自ら行動をおこし、縁を大切にされている結果にちがいありません。ただ言われたことをやり、お店をまわしているだけでは、こんなにも豊かな人脈はきっと生まれないでしょう。


街と、店と、人のイメージが重なるとしっくりくる

辻山さんは、お店を出す場所として思いつく街を実際に訪れ、1日を過ごしながら、イメージを膨らませていました。

街はとても素敵で、良いところ。だけど、自分たちのお店を出した時のことを想像してみたらどうだろう。
周りの環境の豊かさや、その場にいる人の会話や服装から伝わる雰囲気。自分たちと合うか、やりたい店と合うか。新刊書店として、鮮度の高い経営を続けられるか。
さまざまな視点を持って、イメージしていきます。

店がある場所によって、店に求められるものは変わります。私は以前、販売の仕事で数店舗を異動しながら働き、そう感じました。
駅前の百貨店、郊外のショッピングモール。ターミナル駅とベッドタウン。電車で来るか車で来るか。急いでいるのか、じっくり話したいのか。買うものや量が変わるので、客単価も店によってさまざまです。

同じものを扱ってはいますが、品揃えは店に合わせて変わっていました。変えることでお客さんにより満足してもらうのが、店がそこにある目的のひとつ。
でもこれは、各地で展開しているからこそ変えられるのであって、1店舗だけ構えるのとは訳が違います。

やはり、自分のやりたい店のイメージが固まっていて、それにしっくりくる街や人を選んでいくことがいかに重要かを感じました。
そして、“しっくりくる”かどうかは、実際に街を歩いて、そこにいる人や店を肌で確かめなければわからないなと思います。


何を求めて本屋に行くんだろう?

この本を読んだことが、自分の考えを巡らせるきっかけになりました。

私は、本屋の主役はあくまで本であってほしいと思っています。だから極論、無人の店でもいい。本を見ていて、誰かにおすすめされることは必要だと思いません。

私は、本屋という「場所」が好き。
本を手に取るという体験がしたい。
それを求めて本屋に行く。

ただ、その体験には、やっぱり「人」が不可欠です。

本を書いた人、本が形になるまでに関わった人、その本をその棚に選んで並べた人。
本屋に本があるということは、その背景にたくさんの人がいます。
あまり意識していなかったけど、私は本を手に取った時、そういう「人」にビビッときたものを持ち帰っているのかもしれません。

本屋という場所や空間を求めているように見えて、実は、人に出会いたいのかも。
なんだか照れくさい感じがしますが、辻山さんのこの言葉に、とても共感したのです。

情報技術が発達し、世のなかが更に便利になったとしても、人の感情を動かすのは、人の手が感じられる仕事である。
「本屋、はじめました」p.242より



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