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だから僕たちはメジャーになれない

格闘技ファンが5年間待ち続け、遂に実現した那須川天心対武尊の東京ドーム大会が開催3週間前になって生中継を予定していたフジテレビから放送を突如打ち切られるという事件が起きました。人気がないから?いえいえ、この大会、最前列のチケット料金が300万円、その次が200万円、というとんでもない価格なのに秒で完売。僕も奮発して10万円の席を狙ったのに抽選に外れ続けました。それ位には注目されていた大会だったのです。

その原因が何なのか自体はここでは特に触れません。今回僕が伝えたいのは、メジャーになれない悲しみです。そう、僕は、悲しいです。結局こうなるのか、という絶望感を抱いています。

今回は格闘技というより、人生の悲哀をテーマに書きますので、今の人生に悲しみを感じてる人は30万回位読んでください。

最低限の前提知識

まずご認識いただきたいのは、格闘技というのはメジャースポーツコンテンツではない、ということ。あくまで民営企業が運営しているイベント、興行でしかない。その証拠に、格闘技の試合は日々行われているのにテレビのスポーツニュースには取り上げられません。格闘技の選手は過酷な試合を乗り越え世界チャンピオンになっても誰も知らない。さらには稼げないので、チャンピオンでも会社員やりながら定時後に日々トレーニングしてたりします。

野球やサッカーのメジャースポーツ選手がシーズン切り替えの時に年俸何億円、みたいな報道見る度に、僕ら格闘技ファンは複雑な思いをしてきたわけです。

そんな格闘技ファンが捲土重来のチャンスになったのが2000年代に流行ったPRIDE、K-1ブームでした。テレビをつければ格闘技選手がバラエティに登場し、「昨日見た?」みたいな会話が格闘技ファン以外のクラスメイトの口からも話題になる。スクールカーストで低い地にいた僕も、何だか妙に誇らしい気持ちになったものです。

特に2003年大晦日は、日本テレビ、TBS、フジテレビの地上波3局が格闘技イベントを生中継するという格闘技ファンにとっては嬉しい悲鳴が起こるお祭り状態でした。しかし、そんなお祭り状態もすぐに終わりました。人気絶頂だったK-1、PRIDEを中継していたフジテレビの突如の放送打ち切り。今とは違い、インターネットがそこまで整っていなかった時代、格闘技を見るには地上波テレビしかなかったのに、です。僕たち格闘技ファンは、大好きな格闘技を映像で見る事ができなくなってしまった。

中継がなくなりスポンサーが離れ経営が苦しくなったK-1、PRIDEはすぐに衰退し、潰れてしまいました。本当はもっとややこしい話があるのですが、本記事の趣旨ではないので割愛します。だいぶ端折って書いてますのでご了承を。

まぁとにかく、僕ら格闘技ファンは大好きな趣味をいきなり奪われたのです。飽きた、とかではなく、奪われたのです。この感覚、想像できますか。

活躍の舞台が奪われた格闘技選手

それから格闘技は暗黒の時代を迎えました。大会が開催されても全然日の目を見ない。実は今回の主役である那須川天心や武尊は、地上波が放送されていた頃に格闘技を見て夢憧れ、格闘家になった人達です。しかし、折角プロになったのに夢の舞台は無くなってしまった、というわけです。

天心武尊に共通していたのは、「格闘技を再びメジャースポーツにしたい」という強い想いがあった事。二人はリングに上がれば無類の強さを発揮したのに、それを誰もが知らない。かつて自分がテレビで見た東京ドームのキラキラしたステージはもはや存在しない。悔しくて格闘技に再びスポットが当たるように、それぞれ試合ではお客を沸かせる熱戦を繰り広げ、お茶の間のバラエティ番組にも自分を売り込みにいき、YouTubeでもファンを増やしていった。

以前別のnoteでも書きましたが、格闘技ファイターとしては2人は完全に平行線であり、一時は訴訟問題にまで発展した位にはタブーの2人の関係性。それでも、格闘技を広めたいという思いは2人共通していた。泣けますね。

こうしてお茶の間にも那須川天心や武尊の名前が少しずつ広がり、そして二人がこじつけたのが、今回のTHE MATCH2022東京ドーム大会。かつて格闘技を見捨てたフジテレビによる、ゴールデンタイム生中継だったわけです。この二人にとって、お互いの存在との戦いでもありながら、世間との戦いだった。二人で勝ち取った奇跡だったわけです。

結構僕らは、メジャーになれない

しかし結末は冒頭の通りです。フジテレビも生中継をするとちゃんと発表しておきながら、大会直前でまさかの撤退発言。2022年6月4日現在、天心も武尊も、まだ地上波復活を諦めていないという旨の発信をしていますが、現実的に考えてかなり厳しいと言われています。

世間から認められた証になるはずだった今回の大会。フジテレビで放送すれば、かつて自分がそうだったように、子供達が格闘技を見る機会になるかもしれない。そうして、格闘技の熱は次代に受け継がれていく。二人の戦いは、選手としての戦い以上に、これまでの自分の戦いの総決算であったはずなのです。

しかし、結果的に2人の戦いは世間の目に触れることがなくなってしまった。格闘技ファンがお金を払って見るだけの試合になってしまった。

正直、現在のテレビ地上波は以前の影響に比べると大した事ないと思います。しかし、今回の主役である2人は地上波にこだわってきた。実質的な効果よりも、コンプレックスの解消という意味の方が強い気がします。

今までの怨念の終止符としての地上波。それでしかないのかもしれません。

那須川天心はこの試合を最後にキックボクシングを引退し、ボクシングへ転向します。武尊も明言こそしていないもののこの大一番以外にキックボクシングでやり残した事はなく、新しい道に進むと思われます。そんな2人が自分を作ってきた地上波で闘う。これまでを精算する為の闘いでもあった。でもその意味は無くなってしまったのです。


そしてお金を払わなくてもたまたまテレビをつけた人が偶然格闘技を見る機会は無くなってしまった。たまたま2人の戦いを見て「自分もやってみたいな」と思う人は生まれなくなってしまった。格闘技は結局、マニアが予定調和的に楽しむものでしかなくなってしまう。

世紀のビッグマッチであることは変わりません。しかし、その意味合いはだいぶ変わってしまった事は否めません。

メジャーになれなかった全ての人達へ

僕はたまたま知人のチケットが余分に当たっており、現地観戦できるので試合自体は見届ける事ができるのですが、この地上波放送中止には本当にガッカリしました。自分の趣味が他の人と話が合わないのはなかなか悲しいものなのです。普段格闘技を見ない人が「那須川天心って凄いんですね」と僕に話しかけて欲しかった。「武尊の試合でおすすめの試合はどれ?」と僕に聞いて欲しかった。それで僕は救われるはずだった。そして暗黒時代の格闘技を愛してきたオールドファンは少なからず僕と同じような視点でこの試合を捉えてきたはず。

結局僕らは、メジャーになれない。日の当たらない場所で血を流しながら必死に戦ってきたのに誰もが知らない。スポットライトが当たる場所で何億と稼いでいるスポーツ選手がいるのに格闘技ファイターは数万円で殴り合ったりしている。

結局、日陰者はずっと日陰者なんです。夢なんて見てしまって、ごめんなさい。

メジャーに見切りを捨て、メジャーを越えてやろう

これまでのコンプレックスを精算する筈の地上波放送は叶わなくなった。僕らはもう日の目を見ない。しかし、ここで諦めないのが格闘技です。だって格闘技は、戦う競技なんですから。拳を握りしめ、逆境に争って相手を打ちのめす競技なんです。

フジテレビの放映がなくなった事で、この試合を見たい人は5500円払ってAbemaで見るしかなくなりました。格闘技ファンしか見ないでしょう。でも、格闘技ファンは全員この試合を買うでしょう。

実はビジネス的にはこの方が儲かる、と言われています。フジテレビで無料で見ようとしてた人たちが全員お金払って買うわけですから。選手達は、この方が遥かに稼ぐでしょう。選手達の戦いをみんなで応援して熱が生まれ、こんな素晴らしい試合を放送しなかったテレビなんてみんな見なくなる。あいつら、後悔させてやりましょう。あいつらから土下座して番組に出てくれと言わせましょう。

その時こそ、僕ら格闘技ファンの悲願は叶うのでしょう。暗黒時代を乗り越えてきた格闘技ファンの怨念と執念を、なめんなよ。やれんのか?


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