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さて、そろそろ本気出して

 プロフィールを書こうかな、と思う。以前にふざけた自己紹介を投稿して、それを見た友人から「二十代後半にもなってまともに自分の事も話せないのか?」と叱咤されたのです……。

だから、僕は今日こそ、自分のありのままの姿を皆さんに知って頂く良い機会にしたい。

 ただ友人の言葉は筋が通ってはいるものの、僕に対しての情というのが皆無であると思う。別にやましい過去なんてないけれど、それでも自分の本来の形を人に知られるのは、多少恥ずかしいものだし「はい、どうぞ」と言って簡単に出せる物ではないはずである。
 就職活動中に嫌というほど見直した履歴書を思い出して欲しい。
 ──趣味? 散歩かなぁ。
 ──特に学歴で強調したい部分は、なし。
 ──自己PRだって。字が綺麗、とか……。

 そう、本心で書けば上記のように、目も当てられない結果となるのは明らかな訳で、だから我々はささいな嘘で面接官に対抗したはず。
 ──趣味は、自己啓発本を読むこと。
 ──学生時代は、生徒会長とクラブの部長。
 ──趣味は、ボランティア活動です。

 しかし、面接官とは優秀である。僕が流れるように吐く嘘の数々は、名だたる企業に全くと言っていいほど通用しなかった。なるほどね、日本の未来は明るい。自己PRで「字が綺麗」と書いた手前、自らの汚い筆跡で履歴書を書くわけにもいかず、親戚の筆ペン講師に協力までして貰ったのに、普通に通用しなかった。
 従って、就職した会社の面接官はいかに杜撰だったかを再認識した僕ではあるが、やはり恩を仇で返すわけにはいかず、履歴書に書いた嘘の内容を実現すべく頑張っております。この歳で、生徒会長になる方法は分からないけれど。

 たとえば、自分のプロフィールが以下のようなものであれば、毎日でも書きたいと思う。
「東大卒で、大手コンサル企業に勤めてます。取引先の女性と結婚して、世帯年収は三千万。しっかりした娘、甘えん坊な息子たちを連れ、休日にピクニックをするのが趣味の一つです。勿論、妻とは月に一回デートをします。子供が学校に行っているあいだ、有休を活用して、昔の思い出の地を巡るのです。そうそう、この前雪が降ったクリスマスイブ、プレゼントを片手に帰宅した僕に、娘と息子が飛びついて来たので(お前たちが待っていたのは、父さんかい?それともこのプレゼントかな?)と問えば、皆一斉に(お父さんだい!)などと可愛らしい声を上げ、その傍らに微笑む妻が立って……」

 はい、最高ですね。これは毎日でも自慢の話をしたくもなります。別に、これが本当の自分ですと言い張っても良いんですけど、この胸に溢れ出る虚しさや後ろめたさが、僕の心を責めたてるのです……。正直者は、損ですね。

 ふと思う。自分は、自らの事を、どれだけ理解してあげれているのか。考えるに、理想の姿はどれだけ浮かんだとしても、本来の姿を明確に他人へと伝えれる人間は、この世界に多くはいないように思う。
 僕は、このような人です。こんな性格で、皆からはこう認識されていています、はい。
 ……分からない。いったい自分はどのような人生を送ってきたのだろう。僕が僕たる要素はどこの誰から与えられたものなのだ。いま自らが立つ場所は何処だ。居場所は……、僕が本来いるはずの居場所は何処だ。何をして、何をしてこなかった? 好きなものは? 嫌いなものや拒絶してきたものは? 他人との違いは? 明確に、僕だと証明出来る印はなんだ……?

 さて、こんな風に自分を見失ったとき、過去苦心して書いた履歴書を確認しましょう。
 ──趣味は、自己啓発本を読むこと。
 ──学生時代は、生徒会長とクラブの部長。
 ──趣味は、ボランティア活動です。

 なるほど! 僕は意外にも立派な人間だな!
でも、本棚に自己啓発本の一つも並んでないのは、いったいどういうわけなんだ?

 ……非常に下らない。でも、今日も自己紹介で1,600字稼いだわけだから、頑張りました。やはり、自己紹介は文字を稼げるなぁ。

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