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【日吉屋 西堀 耕太郎社長インタビュー】言語の学習は文化を学ぶことでもある

「伝統は革新の連続である」を企業理念に掲げる日吉屋。

時代によって伝統も新しさも変わるので、伝統的なものが「革新の連続」の結果であるのは当然のことともいえる。そのなかで、なぜ今現在「革新」がより強く求められるのかというと、少子高齢化による人口減少の問題があるからだ。

このことは伝統産業に限った話ではなく、国内だけでは市場が先細りになるので、今まで以上に積極的に世界に発信していく必要があるという。


現地のニーズを読み取り、海外に発信していく

―海外をマーケットとして捉えたとき、主要なターゲット層はあるのですか?

西堀社長(以下、西堀):世界の人口が増えてしまって、貧富の差が激しくなっています。一般的な大量生産品ではなく、付加価値の高い伝統工芸品の場合、いいか悪いかわからないのですが富裕層の方しか現実的に購入していただけない。実際、今日食べるものに困っていますという方に、ラグジュアリーな照明器具などは売れませんので、必然的にターゲットが絞られます。

そして、国別やジャンル別にそうした顧客の方々をつないでくれる支援先が世界各国にのべ800社くらいあるんです。自社の製品を販売する際に築いていったそのネットワークを活用し、近年では他の伝統産業などの支援も手がけています。


―海外展開する上で、重要なポイントは?

西堀:「伝統工芸をアップデートし、現代に即してデザイン化する」というとデザイナーを呼んでくればいいという話になるんですけど、それだけでは上手くいきません。もちろん、デザイナーも大事なんですけど、一番大切なのはバイヤーなんです。

日本と商流がまったく違っていて、これが海外進出の大きなハードルになるんですね。基本的に、世界には同じような商流のルールがあるんですけど、日本だけガラパゴス化していて、国内だけで有効な商流で我々は商売をしています。

―まずは、その商品の流れの違いを理解する必要があると。

西堀:はい。あとはバイヤーの方はそれぞれの国のニーズに精通しているので、「こういう商品なら需要がある」「この価格帯だったら売れる」というのがわかるんですね。商品開発をする上で、その視点があることは非常に重要です。


―アメリカのバイヤーの声を反映して、日吉屋さんが「古都里-KOTORI-」をモダンなものにカスタマイズして「MOTO」(※
第二話参照)が生まれたように、対象となる市場の声を商品づくりに活かすわけですね。

西堀:はい、先ほどお話したネクストマーケットインという手法を実践しています。実際にアメリカとか中国とか、現地の本当のニーズはちょっと調べただけではわかりませんよね。リサーチだけだったらインターネットでもできるんですけど、ターゲット層や販売までをきちんと考えようと思ったら、見えない部分がたくさん出てきます。

同じことを弊社では国内でもやっていて、京都のものを京都以外で売り出すときに、デパートや通販のバイヤーの方に意見を聞き、そのアイデアを元にデザイナーがデザインに落とし込んでいくということをしました。その際に、いいものを作るのは当たり前なんですけど、プラスして先ほども言いました「物語性」が重要になってきます。

伝統工芸品の魅力を多角的に伝える日吉屋「越境EC」

▲日吉屋が運営する「越境EC

新たな取り組みとして、日吉屋では2022年に「越境EC」をローンチした。

同サイトでは、、日吉屋の和傘やデザイン照明「古都里-KOTORI-」だけでなく、日吉屋がサポートしたメーカーのオリジナル製品も購入できる。

サイトは日本語はもちろん、英語、中国語に対応しており、世界中のどこからでも商品を注文購入できる仕組みだ。


―越境ECを立ち上げられた経緯は?

西堀:コロナ禍になった環境の変化も大きな要因ですが、決済方法としてクレジットカード以外にPaypalやShop pay、GooglePayといった選択肢が増えて、グローバル決済が身近になったのも大きかったですね。D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー:消費者直接取引)が日常的なものになり、インフラが整ったことが後押ししてくれました。

リアルでも、バイヤーと相談して商品開発をし、展示会で売るという販売方法を実践していましたが、つまりは代理店や問屋さんがいらないんですね。ネット上でもD2Cが当たり前のものになったことで、Amazonなどのプラットフォームに頼らずに自分たちでできる。中間マージンがなくなるので利幅が大きくなるのもありますが、顧客情報も自分たちで管理できるようになり、そのメリットも大きいです。


―サイトは多言語対応ということですが、スタッフも語学が堪能な方を採用されているのですか?

西堀:弊社スタッフは基本的に全員が英語を使えます。フランス人と台湾人のスタッフもいて、日・英・仏・中の4言語は不自由がない状態です。

越境ECに限らず、海外での商談などでも当然語学は必要ですし、日本や工芸のこともよく理解した上で、多言語ができるっていうのが日吉屋の強みになっていると思います。あとは、幅広い海外ネットワークも売りの一つですが、そうした強みをECサイトでも活かしたのが「越境EC」です。

また同サイトでは、単に商品を販売するだけではなく、それを手がけた職人の思いや技術などを伝える読み物やYouTube動画もアップしています。


―まさに「物語性」の提示ですね。

西堀:はい。上記のコンテンツを通じて、製品だけでなく、その背後にある工房の風景や商品開発ストーリーも一緒に届けるのが狙いです。

伝統工芸の魅力を多角的に伝えられるポータルサイトとして、今後も拡充していければと考えています。

国際日本学科で学ぼうとする高校生へのメッセージ

伝統文化を継承しつつ、常に革新し続けていくなかで、世界に自社製品をはじめ、日本の伝統工芸品を発信している日吉屋・西堀社長。

最後に、「日本の文化、社会について広く学び、それを英語で世界に発信する」ことを学びの軸に、2024年4月に開設される国際日本学科で学ぼうとする皆さんに、メッセージをいただいた。


西堀:外国語を学ぶのであれば、日本だけに閉じこもらずに、ぜひ広く世界に飛び出して、いろいろな体験をしてもらいたいですね。インターネットでさまざまな情報にアクセスはできますが、やっぱり実際に現地に行き、自分が体験するということは大きな財産になると思います。

そして、外に飛び出した時に、当地でしっかりとコミュニケーションができるかできないかで、世界の広がりも全然違ってきます。例えば、海外に行って日本のよさを伝えようと思っても、自分の言葉で話さないといけないわけじゃないですか。


―関西外大では、現地の学生と同じクラスで専門分野を学ぶ1年間のリベラルアーツ留学を推奨しています。まさに、英語をはじめとする外国語をツールとして「自分の言葉」として話し、専攻する分野を学ぶとともに、自身のことや日本の文化などを発信しています。

西堀:私自身、英語を子どものころから学んでいますが、言葉を学習することというのは、文化を学ぶことと同じことだと考えています。その国や地域の考え方などが、言葉には反映されるじゃないですか。言い方とか、言い回しとか。

例えば、キリスト教圏の方々だと神にまつわる表現があったり、日本だと「もったない」とか「いただきます」と言ったり、そうした言葉に紐づく文化を学ぶことも大切だと思います。つまり、言葉を学ぶということは必然的にその国の文化も学ぶということなるわけです。


―国際日本学科では英語と日本語を専門的に学ぶとともに、日本の伝統文化や現代のポップカルチャーなどについても広く学び、それを世界に発信する学びも展開していきます。

西堀:私は伝統文化を発信している立場なので、その観点から申し上げると、日本の文化というのはグローバルな視点で見ても、かなりユニークなものをもっています。

実際に、コロナ禍が一段落して、特に京都などは海外からの観光客が増えていますが、その要因の一つは「文化圏が全然違う社会を我々が作ってるから」だと思うんですよね。会社としては、そうした伝統工芸を体験できるクラフト・ツーリズムにも今後本格的に取り組んでいこうと考えています。

私自身、高校を卒業してカナダに行った際に、いろいろと日本の文化や社会のことについて聞かれ、答えられなかったという経験があります。その意味では、コミュニケーションツールとしての英語を学ぶとともに、広く日本文化について学ぶのはいいことですし、留学先などでも積極的に発信いただけたらと思います。


―海外に出て異文化交流をする際に心がけられていたことや、大切なことなどがありましたら。

西堀:相手のことを理解するには、自分のことも理解していないといけません。つまり、世界に打って出るには、当然ながら日本のことをよく知っていないといけない。グローバルな場では大事なことです。だから、相手の話に耳を傾けるのはもちろん、日本のことを知り、積極的に発信していく必要があります。黙っていても「察してくれる」とかはありませんので。

そうしたコミュニケーションの基礎となるのは英語をはじめとする外国語なので、翻訳ツールなども発展してきていますが、直接話せるのは大きな武器になります。そして、学んだものを活かすためにいろいろな国に行ってほしいと思いますし、将来的には文化と文化の懸け橋になるような人材になってほしいですね。


― 本日はありがとうございました。

(おわり)

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