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教員エッセイ「多民族国家シンガポールから」(教員:横浜)

 私はアジア各地にある、ごちゃごちゃとした雑多な雰囲気や市場を歩くのがとても好きです。その影響もあり、研究はアジア、それも、もっぱら中華系の小さな地域の助け合い活動(NGOなど)を対象にしています。私がこれまで訪ねた地域は、北京上海香港広州雲南省などの中国大陸、そして、最近は台北シンガポールに調査対象を広げています。
本日は、この夏に調査に行ったシンガポールについて少しお話します。

 シンガポールと聞いてみなさんが持つイメージは、冒頭の写真のマーライオンではないでしょうか。頭がライオンで体が魚という実にユニークなものです。建国50年余りのシンガポールの国土は、およそ東京都23区と同じ広さ、人口は570万人ほどの小さな国家です。ただし経済発展はめざましく、2024年の世界競争力ランキングでは第1位です。ちなみには、日本38位、アメリカ12位なので、シンガポールの経済発展には驚くばかりです。

 多民族で構成されるシンガポールの民族構成は、中華系(74%)、マレー系(14%)、インド系(9%)、その他(3%)です。人々はお互いの文化や宗教、風習、伝統を尊重しながら生活しています。街を歩けば中華街があり、インド人街にはヒンズー教の寺院、アラブ人街ではモスクを見ることができます。まさに、私の好きなアジアのごちゃごちゃを、1つの国で感じることができる魅力的な国です。そのシンガポールの面白さは、多文化のみならず、なんといっても食事です。たとえば、“ラクサ”は私の好きな麵料理ですが、海鮮やココナツが出汁に使われていて、東南アジア料理ならではの甘辛いスープがとてもおいしいです。

ヒンズー教寺院
ラクサ

 私はシンガポールを調査するようになってから、この国で使用されている言語(教育)にも関心が出てきています。シンガポールでは小学校からバイリンガル教育が始まっています。小学生は英語と自分の民族の母語(中国語、マレー語、タミル語など)を学んでいます。ですから多くのシンガポール人はバイリンガルです。また中華系シンガポール人は、祖先の出身地(福建、海南、客家、広東、潮州)の方言も大切にしています。
ここで、私は1つの疑問を持ちました。「シンガポール人は普段、何の言語を使って会話しているのだろうか?」です。それの疑問を解くために、シンガポール大学の学生に聞いてみました。「皆さんは普段、何語で話をしているの?」。そうしたら、彼ら、彼女らの回答は英語、中国語、マレー語ではなく、「シングリッシュだよ。」でした。シングリッシュとは、シンガポールで話されている独特の英語をいいます。例えば、フードコートの店員が、客に、日本語で「良いですよ」をあらわす、「キャン、キャン。」(シングリッシュ)と言って会話をしていることがあります。この「キャン、キャン。」がシングリッシュのようです。興味深いです。
シンガポール人のコミュニケーションについて少し調べたところ、彼ら、彼女らは、日常生活でいわゆる教科書通りの綺麗な発音で英語を使うことは、なんだか気恥ずかしく感じるそうです。
そういえば日本でも、例えば関西の人が友人との会話で標準語を使うと、「なんやねん。」と、周囲の人からツッコミがくるのと一緒かもしれません。

シンガポール福建会館①
シンガポール福建会館②(福建省出身者による互助組織:子どもたちへ福建語の教室もおこなっている)
南洋理工大学 教育研究センター①
南洋理工大学 教育研究センター②
南洋理工大学 教育研究センター③
南洋理工大学 教育研究センター④

さて、私はシンガポール調査ではもっぱら南洋理工大学(NTU)の華僑会館に行くのですが、この大学には、シンガポールで唯一の教員養成機関(いわゆる教育学部)の国立教育研究センター(NIE)があります。ちょっと訪問してきました。
(NIEのホームページ) https://www.ntu.edu.sg/nie/about-us/academic-departments
 
この施設は国内唯一の教員養成機関でもあるため、その敷地の広さ、図書館、運動施設、音楽演奏環境の充実ぶりは素晴らしいものでした。教育内容は算数、理科、国語など各教科の教員養成のみならず、幼児教育特別支援教育発達心理学体育音楽造形芸術などの専科もありました。私は、このセンターと本学部が、いつか何か一緒に活動できたら面白いかもしれないなあ、と思いながら帰路につきました。
日本でもすでに小学校で英語教育が始まっています。またSNSで世界の人と、簡単に繋がることができる時代です。学生のみなさんも、なにかの機会に外国籍の人(子どもを含め)と接する機会がありましたら、ぜひ積極的に交流してみてください。きっと普段とは違う世界が広がると思います。
ありがとうございました。
横浜勇樹