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P2E = 「ゲームの生涯収益を得る権利」を分配する事業スタイル、という考え方

要点

Play to Earn(P2E)型のゲームは従来モデルと比べると、開発元がIGO(Initial Game Offering)により事業リスクを大きく低減させることができる一方で、そのリスクをNFT/トークン購入者が負担する。開発元とプレイヤー双方に強いインセンティブが働くため、(誰かが損はするが)このモデル自体は想像よりも持続可能性が高いのではないだろうか。

はじめに

P2Eをゲーム会社や開発元などの事業観点でまとめた記事を探していたのですが、結構探しても見当たらなかったのでまとめようと思いました。

P2Eがなぜ成り立つのかという疑問に対しては、買い圧vs.売り圧のような需給の話がほとんどですがタイトルのような考え方もあるんじゃないかということでまとめました。

従来のゲーム事業 - 初期投資回収モデル

一般的な事業の投資回収ライフサイクル

これまでのゲーム開発は大体↑のグラフの流れです。ゲーム開発に限らず、一般的な事業投資は大体こういう形でしょう。ブロックチェーンゲームでNFT買って「原資回収や!!」っていう人も常にこれを考えてると思います。

原資回収までは基本的に赤字の状態ですが、ゲーム販売を開始して一旦回収ができてしまえば、後はそのまま利益になります。また、ゲームソフト売り切り型のモデルではなく、課金で収益を上げるサブスク型?ゲームであっても、導入後の売上が引き伸ばされるイメージ(ゲームのライフサイクルが長くなり、期間辺りの売上が少ないが生産コストも少ない)で構造は同じです。

要するに、長期的に利益が出せると期待した上で、最初に借金を背負うスタイルです。

一方で、ゲーム事業は必ずしも安定してヒット作を作れるわけではなく非常に売上予測が難しいでしょう。天下の任天堂でさえ、収益のボラティリティ(変動)は大きく、Wii販売からSwitch投入までの期間はかなり厳しい状態が続いていたことが分かります(下図参照)。

https://shikiho.jp/news/0/428315

*豆知識ですが、そのためか任天堂は仮に事業売上がゼロであっても、今いる社員全員が定年になっても給料を払い続けることができるレベルに現金を保有している超キャッシュリッチ企業です。

http://www.kaisha4976.com/article/13252885.html

加えて、自社の開発リソース(ヒト・モノ・カネ)の確保ができない、初期スケジュールからの大幅な遅延なども発生しやすく、ゲーム開発自体は他と比べて初期投資のリスクが非常に大きい事業と言えるでしょう。

P2E型のゲーム事業 - 将来収益還元モデル

初期資金をゲーム開発前にカバーする新しい事業投資モデル

一方で、P2E型の事業投資のライフサイクルは↑のグラフです。先ほどの従来型との比較を①~③のポイントごとに説明します。

① NFT・トークンセールによる早期の投資回収
上図はかなり極端に書いてますが、P2Eゲームは、ローンチ前に開発側がゲームNFTやガバナンストークンの配布で資金調達ができます。購入者は大きく、1. ゲームプレイをしたいプレイヤー、2. 値上がり益を期待する投資家の2種類います。

彼らにNFTやトークンを購入してもらうための仕組みが、P2Eに他なりません。開発元はNFTやトークンに先行者特典をつけることで購入のインセンティブ設計をします。例えば、AxieのOrigin, Japanese partsのように供給数が限定されゲーム内で特別な機能を持つと期待される希少性の高いNFTであったり、ステーキング可能なトークンであったりします。つまり、購入者は、経済的な動機(= 儲かりそう)消費的な動機(= 限定NFTを使いたい)によって開発側に資金を提供します(現状前者の経済的な動機が大きなドライバーになっていることは否めませんが、後者の動機を刺激できゲームに飽きた時に資産として売却できるという形が理想的だと自分は考えます)。

これにより、開発者は初期の膨大な開発費をゲーム販売前にある程度回収ができるのでリスク低減が図れます。

②ゲーム収益のプレイヤーへの分配
一方で、ゲームローンチした際にはゲーム自体の購入費用は基本的に今のブロックチェーンゲームにはありません。そのため、本来ゲーム開発元が販売することで稼げたであろう売上は発生せず、かつAxieのブリーディング機能のようにNFT供給をユーザーが増やしていくシステムであれば、NFT販売による収益も基本的にはありません。

そのため、開発側の収益源は、NFT売買手数料などユーザー同士の何かしらのアクション手数料収益であったり、新規のNFT発行などがオプションになってきます。

プレイヤー側のゲーム内収益は様々です。例えば、ゲームをプレイするだけであったり、対人戦で勝利することだったり、ブリーダーとしてNFTを売ることだったりします。ゲーム内収益はトークンで得られ、トークンはゲーム内の需要とリンクしているので、トークンの価値を上げないとプレイヤーは稼げません。そのため自発的なマーケティングを行いコミュニティを盛り上げるインセンティブも働きます。

つまり、タイトルの内容になりますが、開発元は初期のNFTセール価格に「ゲームプレイ代」+「ゲーム内の将来収益の一部を貰える権利(P2E)」を乗せて事前に販売していることになります。

③トークン価値向上という新たな収益源
では、開発はただ売上を前倒しにしているだけなのでしょうか?であれば、開発側はローンチ前の期待感だけを煽って、NFTセールで資金調達を行いゲーム開発はなおざりにしてしまうインセンティブが働きます(所謂ラグられるというやつです)。

本来であればユーザー側もそのような将来性の感じられないスキームのゲームに投資判断をしないので、開発側は長期的なロードマップの提示やNFTセールが初期投資を全てカバーするような規模にならないようにすべきです。しかし、ローンチ後の売上はユーザーに分配している形なので別の収益源が必要です。それがトークン価値の向上です。

P2Eゲームに多くのユーザーを巻き込み、ゲーム自体を発展させることで、ゲームトークンの価値を向上させ、その売却益で開発元は従来のゲームではなかった新たな収益を得ることができます。そのため、NFTを買ったユーザーも開発側のどちらもトークン価値の向上させ収益を上げるためには、ゲームの更なる発展と新規プレイヤーの巻き込みが必要なので同じベクトルを向けています。

誰が損をしているのか?

損と書きましたが、金銭的な観点だと誰かが消費していなければいけません。ゲームの状況により異なります。誰が損をするorし得るのでしょうか?

1. ゲームが失敗した時(ローンチしない・人気がない)

  • NFT購入者 : 購入資金を回収できない

プレイヤーと投資家が事業リスクを負担し損を出すシンプルなケースです。

2. ゲームが成功している時

  • ゲーム会社 - 得られたであろう収益が貰えない(≒機会損失)

  • NFT購入者 - ゲームを楽しむ目的でNFTを購入/追加課金をしている
    ※機能・収益性ではなくステータス等に価値を見出しているなど

これが本来あるべき健全な損の仕方です。
まず、ゲーム会社ですが、P2E型でないと発生しない収益要素もあり、トークンの売却益もあるため一概に機会損失とは言えません。次に、NFT購入者であるユーザーも、欲しいものが欲しくて余剰(例えば好きな見た目のAXIEが欲しくて、機能的には本来$100の相場のものに$200払った$100分の支出)を払っているので、経済的には損をしていますが、欲しくて買ったのだから文句はないでしょう。

3. ゲームの成熟・衰退期

  • 新規のNFT購入者 - 購入資金を回収できない

ゲームの成熟期には新たにゲーム内にお金を落とす新規参入が減っていくでしょう。また、十分にゲームを楽しんだ既存プレイヤーの追加購入/課金も減っていくので、原資回収を目的とした新規のNFT購入者は購入資金を回収できない可能性が高いです。ただ、ゲームプレイのためにNFTを買うのであればやりたいゲームをするために消費しただけです。

まとめ

今回はゲーム会社の観点で従来のゲーム開発とP2Eゲーム開発の比較をしました。P2Eゲームのエコシステム自体もまだまだ理想的な姿を模索する必要が必要です。長期的に安定成長していると言えるP2Eゲームは今のところ存在しないので。ただ、投資回収リスクが大幅に下がることでアイディア一つでゲーム開発が容易になるので、今後P2Eゲームが主流になってくるのは間違いないのではないかと自分は予測しています。

ここまで読んでいただきありがとうございました!
意見や不足点などがあればコメント欄で教えていただけると嬉しいです。
また、このような話に興味のある方と今後も繋がっていきたいのでシェアいただけると泣いて喜びます🙏

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