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垣内光司さんのことばを聞く③

新しい言葉は作れるか

福西|話しは変わりますが、垣内さんは今やりたいとか、やろうとしていることはありますか?

垣内|教会を作りたい思っています。「上鳥羽の離れ(仮)」のクライアントが信者さんで、彼のお父さんとお母さんがその教会の立ち上げた最初の方なんです。教会自体は築70年ぐらい経過していて、お金はないけどそろそろ建て替えたいな、という話は聞いていて。それなら信者さんと一緒に半セルフビルドで作りたいですね。

福西|半セルフビルドで神殿や教会を作ったら、もうそれ以上やることないじゃないですか(笑)。

垣内|いやいや(笑)。でもね、教会の工事が始まったら、「上鳥羽の離れ(仮)」が教会の集まりやミサができるような場所になったらいいな、と思っています。だから床の間に十字架を立てているし、庭を大きく教会側に開いてある。できるか分からない将来の教会の為に「上鳥羽の離れ(仮)」の配置も決められています。

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< 上鳥羽の離れ(仮) / 八百光設計部 >

福西|将来を見越して地域を計画するのは必要なことではないでしょうか。

垣内|できればその教会で村野藤吾賞とか欲しいな(笑)。いや実はね、リアル村野賞は頂いたつもりなんですよ(笑)。

福西|え?どういう意味だろう。

金沢アウトサイダーアート展

垣内|以前、金沢の21世紀美術館で開催された「3・11以後の建築」という展覧会に参加しました。その企画のひとつで、美術館の地下にある市民ギャラリーで毎年展示をしている市民団体と出展建築家がコラボする「垣内光司×金沢アウトサイダーアート展」の会場構成をやりました。

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< 垣内光司×金沢アウトサイダーアート展 >

これまでの「アウトサイダーアート展」に来る人はアーティストの身内や関係者が多かった。始めにアウトサイダーアートのことをもっと世間に広く知ってもらいたい、より多くの人に作品を見て欲しいという主催運営側の希望を聞きました。自分のやっていることを他人に知ってもらうには自分のやっていることだけではなく、アートとは一見関係のない別の事象にもちゃんとコミットできる、という姿勢を見せないと誰も興味を示しさない。僕は建築家なんで金沢でも社会問題になっている空き家を絡めた展覧会にしましょう、と運営側に提案しました。

福西|その話は初めて聞きました。

垣内|そこで金沢R不動産に協力してもらい、空き家を紹介してもらいました。そしたら加賀友禅の工房の空き家があって、それが売りにでていた。内部は工房時代の家財道具がそのまま残されていて、これを粗大ゴミとして破棄するのにもお金がかかるので、その分その空き家を安く売るので家財道具のゴミは自分で処分してください、というものでした。

福西|いいですね。

垣内|残された家財道具は見る人が見たら、もう宝の山。工房で使用していたオリジナルの木製家具とかそのまま残されていて。そこでオーナーに空き家を掃除するので、この場所を「アウトサイダーアート展」の会場として貸してくれませんか、という話をしてアーティストの家族やボランティア方達と一緒にまずは空き家の掃除をしました。掃除する時に邪魔になる家財道具を金沢21世紀美術館に移動して、「3.11以後の建築展」の僕の展示ブースに仮置きして一連のプロセスとして展示し、同時にそれを市民ギャラリーでの展示什器としても使いました。

福西|素晴らしい取り組みですね。

垣内|美術館内の市民ギャラリーをアウトサイダーアート展の第一会場とし、空き家を第二会場にして、二拠点同時開催にしました。展示した家財道具は市民ギャラリーにてチャリティーオークションで販売してその売り上げをアウトサイダーアート展を運営する支援団体に全額寄付する。そしてその寄付金を支援団体から空き家オーナーに会場費用として支払う、という仕組みにしました。

福西|なるほど!

垣内|空き家オーナーが粗大ゴミだと思ってたものを美術館に展示し換金することで、「これはゴミではない」ということを証明しました。今後、この仕組みを継続する為のアピールポイントとして、今後アウトサイダーアート展に会場を貸したら、空き家が奇麗に掃除されて返ってくるし、お金もくれるの?!ってことになる。おまけに整理清掃された空き家は、以前よりも売れやすくなる。「アウトサイダーアート展」で空き家の見方を変えるような循環を作ろうとしました。

福西|すごい仕組みづくりですね。

垣内|それで余談なのですが、レセプションの時にパスカードを首にぶら下げ美術館をうろついていると、僕を学芸員と間違えて「写真撮って頂けませんか」と上品なご婦人2人から声を掛けられました。「良いですよ」と写真を撮ると、「あなた出展者の方なの、作品はどちら?」と聞かれたので案内することになりました。ひと通り説明すると「あなたに未来を託したいわ。私たちの親族も出展しています。村野です」とその方から名刺を頂きました。村野藤吾さんの息子さんの奥様とその娘さんでした。さすがにビックリしました。でもこれって村野賞でしょ?(笑)

福西|やっと分かった、確かに村野賞!。垣内さんがそのような設計活動も行っていることは知らなかった。それもある意味、教育的立場ですね。

垣内|教育的だし、それをいかに面白がらせるか、というか。上から目線じゃなくてね。

福西|そうか。教育的っていうと、すこし威圧的な感じもしていましたが、そうではない。

垣内|うん、その辺りの言葉が発明できていなくて。

福西|確かに。新しい言葉を作ったほうがいいですよね。「神殿性」や「自律性」いう言葉にしても、ちょっと人に理解されづらいかもしれない。

垣内|それがなかなか難しくて。どうしてもオールド・スタイルの建築家に憧れがあるかも(笑)。

福西|それはすごく分かりますが。

神殿・身体・インテリア

垣内|カーンなんて神殿じゃないの?カーンの建築で身体性が語られることとかあるの?行ったことがないから分からない。行ったことのある福西さんからしたらどうなの?

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福西|うーん。びしびしとくる身体性みたいなものはあまり感じられないのかもしれないけど。現存するカーンの住宅は内部まで殆ど見て回りましたが、ものすごく住まい手の生活のことが考えられている。だからカーンの住宅には、そこにしかない身体性は存在していると思いますよ。

垣内|もちろん、気持ち良い場所を作ることを考えることは大切なことだと思いますが、建築をこうやって語り合う時に、それにどうのような意味があるんだろうか。建物を見に行って、気持ちの良い場所を見た、身体にびしびしと感じる空間を垣間見た、という話をするのは果たしてどのような意味があるのだろうか、がよく分からない。家成さんに逆に質問するとすれば、身体性を言語化する意味がどこにあるのかを聞きたい。

福西|なるほど。身体性は個人的な見解を超えない、と?

垣内|うーん、それに対する疑いが僕のインテリアに対する興味の薄さに繋がっているのかもしないけど。本当にインテリアに興味がないから困ったな(笑)。

福西|言い方を変えると、先程の金沢の話もそうですけど、美術館を飛び出して街全体で設計活動を展開している。だから、建築だけのインテリアを作るのではなく、街のインテリアの仕組みを作る、みたいな表現はできないですか。建築だけのインテリアの話にしてしまうと、つまらないのかもしれない。

垣内|その意味で言うと、インテリアという言葉が不要なのかもしれない。

福西|先ほどの「教育的」の話にもつながりますが、インテリアという言葉も含めて、新しい言葉で表現しないと、ちょっと勿体ないですよ。

垣内|あ、でもね、教育的でありながら、建築家として僕にしかタッチできない部分もやっているんですよ。金沢の場合は、空き家に残っていた家財道具もとても慎重に選んでいる。空き家も、どんな空き家でも良い、と言うわけではなく、どのような設えや空間があるかを見て、ここなら面白い展示ができるのではないか、と思いながら選んでいる。建築の設計も同じで、タッチできない部分は意識的に設計している。だって「伏見稲荷の納戸」の鳥居の形式なんてだれもタッチできないじゃないですか。

福西|なるほど。

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< 伏見稲荷の納戸 / 八百光設計部 >

垣内|それを黙らせるようなマナーとか基本的なことはきっちりやってますよ。そうじゃないと、おまえ鳥居なんて並べてふざけてるのか、ってなるじゃないですか(笑)。そうならないためのマナーは必要以上にきっちりやっているつもりです。だから、施主も満足ですよ。だから、コンテクストの設計や、設計条件を編集するところから、プロジェクトは始めています。

福西|単純に形式と様式美の話、プロポーションと身体性について話を聞こう、と思っていましたが、垣内さんが設計全体をこれほど俯瞰してプロデュースするように設計活動をしていることは知らなかったから、今日は話が聞けて良かった。

香川貴範さんへの質問

福西|次回のインタビュー相手は、SPACE・SPACEの香川貴範さんです。何か彼に聞いたみたいことはありますか?

垣内|香川さんね、頭の中で全てのことを理解して設計を進めているような印象を受けます。SPACE SPACEの住宅や工場のプロジェクトを見ていますが、彼の興味対象はずっと変わらないし、良い意味で知っていることをずっと続けている。でも同時に、自分の想像を超えるときはあるのかな、とも思います。

福西|インタビューの初めに大声出してもらいましょう(笑)。

垣内|あはは!でもね、出来上がってくるものもそうだけど、言葉がちゃんと先を走っている。理路整然と。だから、その分、自分の想像を超えているのかなって、いつも思うんですよ。めちゃくちゃ面白いものができた!とか思うのかな。

福西|面白い質問ですね。聞いてみましょう。垣内さん、今日は長時間ありがとうございました。とても面白かったです。

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インタビューを終えて
数年前、真夏の京都の時期に八百光設計部を訪問した。ひんやりとした土間空間と、昭和の雰囲気の残る住空間に居心地の良さに感じた。Tシャツ+半パン、うちわで扇ぎながら熱く建築を語る垣内さんの熱気に押された。その夜は京都の小料理屋で日本酒を酌み交わしながら、延々と建築の話しを聞いた。東京に戻る新幹線ではいつも以上にお酒がまわった。今回のインタビューを終えた時、似た種の感覚にとらわれた。垣内さんの言葉にはやさしい毒があり、彼の建築は教育的かつ愛がある、改めてそう感じた。(20.08.31)
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垣内光司 (かきうち こうじ)
1976年京都府生まれ。大阪芸術大学卒業後、阿久津友嗣事務所を経て、実家の青果店八百光に設計部を設立。現在、一級建築士事務所八百光設計部主宰、大阪市立大学非常勤講師。第23回吉岡賞、第6回京都建築賞藤井厚二賞、WADAA2018など受賞。著書に7ip#03 KOJI KAKIUCHI(ニューハウス出版)がある。
福西健太(ふくにしけんた)
1979年大阪府生まれ。ウィスコンシン大学ミルウォーキー校建築学科卒業 / TEN Arquitectos NY勤務/ ペンシルベニア大学大学院建築学科修了/ 伊東豊雄建築設計事務所  / 福西健太建築設計事務所主宰/www.kfaa.jp

過去インタビュー
>>家成俊勝さんのことばを聞く①
>>家成俊勝さんのことばを聞く②
>>家成俊勝さんのことばを聞く③
>>垣内光司さんのことばを聞く① 
>>垣内光司さんのことばを聞く②

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