家成俊勝さんのことばを聞く③
都市におけるホールの役割
福西|日本の住宅だと、縁側や軒下のような場所が街のホール的な役割をしていたのでしょうか。
家成|していたと思います。
福西|そのように街に開かれた住宅も目指しますか?
家成|開き方が重要だと思っています。以前、住宅特集で「家開き特集」があった。家をどのように道や街に開いていくか、がトピックだった。物理的に開いていく案がほとんどだったけど、僕はその物理的に道や街に開いていく必要があるかと考えるとそうとも思わなくて。ただ、パーティーできる空間を住宅は内包しておくべきだと思う。どんな極小住宅でも。それが物理的に閉じられていても開かれていると言えるのではないかと思っています。
福西|パーティーですか。文化的な違いもあるのかなあ。アメリカで学生生活していた時に、周りのアメリカ人の友人たちは週末によくハウスパーティーをしていましたね。でも、そのパーティーの場所って、ある意味その場所性を突き詰めていくと少し宗教的になるのかもしれませんね。
家成|確かに。
福西|NYの郊外にシェーカー教のシェーカービレッジがある。安藤さんがシェーカー教の話をよくされていた。アメリカに住んでいた時に実際にビレッジを訪ねて建物や街を見ましたが、衝撃を受けました。すごく禁欲的な宗派ですが、確かある周期ごとに男と女が集まって踊り明かす、ダンスする場所・建物がありました。宗派の名前の由来も「シェイク」するからのシェーカー教でしたか?
<シェーカー・ビレッジ>
家成|そうそう。体を揺らすから。
福西|それを踊る建物が大きな「ホール」でしたよ。
家成|おもしろい!
福西|だから、先ほどの話を突き詰めていくと、宗教的になるのかな、と。
家成|そうですね。日本で言うとお堂になる。お堂とかに人が沢山集まる目的は一つですよね。皆同じ方向を向いている。でも、先程のアメリカのハウスパーティーは、もうちょっと欲望がバラバラだよね。お酒を飲みたい奴もいれば、口説きたい人もいる。単純にその雰囲気を楽しみたい人もいる。その様々な欲望を内包できる場所という意味でのホールは作りたいですね。住宅の中にそんな場所があるといいなあ、と思います。
福西|できるといいですよね。ギリシア時代の建物とか、列柱の下で哲学の議論や井戸端会議が行われていたように。
家成|そうそう。ホールの起源を調べていたらやはりギリシア・ローマ時代まで遡ってしまう。
福西|やっぱりそうなんですね。
家成|当時の建築には、アトリウムと呼ばれる場所とか、抜けのある空間があって。そこがホールぽい扱いになっている。豪邸ですけどね。
福西|パルテノン神殿にも大きなアテネ像が置いてあったみたいですよね。ミコノス島にミケーネ神殿を見に行った時も、遺跡ですけどホール空間ありましたよ。
家成|いいですね。やっぱり都市部における住宅にはホールがあったほうがいいな。まだ文章も書いてないし勉強の最中ですよ。
福西|ホールについて語れる人はいるんですか?
家成|すごく少ない(笑)!
福西|ですよね。でもホールっていうと、どうしても公共空間に回収されてしまうのではないですか?
家成|今はそうですね。でも私的なゾーンと公的なゾーンが交わる場所にホールがあればいいな、と思っています。
福西|今、このようなコロナの状況下で、人が集まることに関して色々な意見がある。でもそのホールにはやはり人が集まってこそですよね。
家成|そう。やはり「集まる」という想像力は常に持っているほうが良い。一人でいたい時はそうすればいいし、集まりたい時は集ればよい。人との距離感を含めて、そう振舞いなさい、と言われるとちょっとしんどい。やっぱりパーティーのイメージを常に持っておきたい。
福西|とても家成さんらしい。トルコでタルカン(トルコの歌手)を聞いて踊っていた時と何ら変わりがない。
家成|あはは!懐かしい!
垣内光司さんへの質問
福西|次は垣内光司さんにインタビュー予定です。何か垣内さんに聞きたいことありますか?
家成|垣内君は最近プロポーションにこだわっているからね。すごく難しい問題ですが、そのプロポーションが身体化できているかどうかを聞いてみたい。美しいとか綺麗とかを、ちゃんと体で感じと取れているかどうか。
福西|そう感じたのは垣内さんの「伏見稲荷の納戸」を見てですか?
家成|いや、そう思ったのは「石垣島の躯体」かな。外側から見たプロポーションは良いのだけど、内側の体験がよく分からなかった。本人とはその話をしましたが、インテリアの作り方はどうなのかな、と。
伏見稲荷の納戸 / 垣内光司(八百光設計部 )
福西|インテリアの問題は難しいですよね。
家成|インテリアはすごく大切だな、と常々思っています。建築の骨組みも大切だけど、インテリア、又は体を包んでいる内部にある種の美しさ、手触り、ディテールみたいなものがないと、中々感動するに至らない。
福西|インテリアをどう作るかは僕個人的にも課題です。色気をだしたい時もあるけど、どうだしたらいいかわからない時もあって。
家成|そうそう。それを強く感じたのが、西沢立衛さんの「House A」を見せてもらった時。あの建築を写真で見ていたら普通の白い壁なんだけど、中に入った時の体が感じる感動たるや、すごいものがある。もちろん、骨組みや空間のボリューム感があっての話ですけど、やっぱりインテリアが抜群に上手い。
福西|入った時に、ふわっと吹き抜けてくるものがあるのでしょうか。
家成|すごくある。家具や植物のレイアウト、小物の置き方とかも意識しているのかもしれないけど、もう全部いい。建築をやっていると、ついつい箱の在り方に執着しがちですが、「House A」は中から発想している。
福西|なるほど。アルヴァロ・シザが住宅を設計する時には、鉛筆を持って「ここから入って」「傘を置いて」「こちらを見て」「タバコを吸って」と言いながらプランを書いていると聞きました。行為を追いながら設計することで、いかにその場所を現実的に豊な空間にしていくかを考えている。シザの建築も素材の使い方も含めて、インテリアがとても豊かですね。
家成|写真から読み取れるだけでも、シザの建築のインテリアはすごい。
福西|僕が聞いた話では、シザはスペインの現場に行くのに、ポルトガルの事務所の前からタクシー拾って現場まで行くらしいですよ。後ろに座らないで、前に座って運転手さんと話をしながらスペインまで行く。すごく人間味ありますよね。
家成|最高だね。この間ピーター・ズントーのケルンのコロンバ美術館に行きましたが、インテリアがすごく良かった。シークエンスとかも含めて上手だなあ、と。展示は普通でしたが、空間は良かった。
福西|また、インタビュー2回目があれば、インテリアの話をしましょう。インテリアで取り上げたいのは、マッキントッシュのインテリアの作り方と、アドルフ・ロースのベッドルーム。
家成|二つとも濃いね(笑)。
福西|確かロースだったと思うのですけど、寝室の絨毯の毛が異様に長いベッドルームのプロジェクトがあった。かき分けながら進むような絨毯。あれが頭から離れないんですよ。
家成|そうですよ。アメリカンバーとかも装飾は無いけど、素材はすごく主張しているし。だから、装飾が無いことと、空間が貧相であることは別と言うか。
福西|インテリアについてはまた話しましょう。色の事とかも話したい。では、これで一旦終わりましょう。いや、楽しかったです。
家成|楽しかった。たまには飲まずに話をするのもいいね。
福西|まだ昼間ですからね!ありがとうございました。
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インタビューを終えて
私が家成さんと初めて会ったのは、トルコの古代都市ベルガモのバス・ターミナル。20年以上前の話だが、それ以来ずっと、色々な建築を一緒に見て歩き、建築の話をしてきた。久しぶりにじっくりと話ができた。建築や都市の領域を超えた、人間と地球を相手に設計に取り組む家成さんの姿勢は、20年前から何ら変わることがない。(2020.8.25)
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家成俊勝(いえなりとしかつ)
1974年兵庫県生まれ。 京都芸術大学教授。2004年、赤代武志とドットアーキテクツを設立。アート、オルタナティブメディア、建築、地域研究、NPOなどが集まるコーポ北加賀屋を拠点に活動。建築設計だけに留まらず、現場施工、アートプロジェクト、さまざまな企画にもかかわる。代表作はUmaki Camp(2013、小豆島)、千鳥文化(2017、大阪)など。第15回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展(2016)にて審査員特別表彰を受賞(日本館出展作家)。
福西健太(ふくにしけんた)
1979年大阪府生まれ。ウィスコンシン大学ミルウォーキー校建築学科卒業 / TEN Arquitectos NY勤務/ ペンシルベニア大学大学院建築学科修了/ 伊東豊雄建築設計事務所 / 福西健太建築設計事務所主宰/www.kfaa.jp
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