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家成俊勝さんのことばを聞く②

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Umaki camp / dot architects (Photo: Yoshiro Masuda)

マッシブな建築

福西|僕が家成さんに会った当初からずっと「マッシブな建築を作りたい」と言っていますよね。その意識は今でもあるのですか?

家成|それはすごくある。西沢大良さんが「木造住宅進化論」で、在来工法の住宅で壁の中のレイヤーの多さについて言及しています。そのレイヤーが非常にまどろっこしい、というか、一枚でドンと行きたい。一枚でドン行くことがマッシブなんだと思う。例えば安藤忠雄さんのコンクリートの壁も一層で、密実な壁がある。それがいくら薄くても、マッシブだと言える。妹島さんの梅林の住宅も鉄板1枚ですけど、あの一枚じゃないですか。それがマッシブであり、削りようがない。

福西|ああ、なるほど、そういうことか。

家成|最近聞いた話ですけど。ロームシアター京都という建物ですが、京都会館のコンペを前川國男さんが勝った時に、京都の景観に合うようにタイルを貼るか塗装をするように言われていたらしい。だけど、コストが膨らんでコンクリートの打ち放しでいくとなった。その時に市民から京都の景観にそぐわないからと、反対意見がでたらしい。だけど前川さんがは京都市長に、「東本願寺は木の打放しじゃないか!」と言って打放しで通したらしいんです。

福西|いいですね、その話。

家成|なんというか、東本願寺もマッシブというか、木しか使っていない。素材の少なさって強いな、と思う。シーランチの外壁の木の厚みもすごく分厚い。木の厚みで潮風に対抗している。その割り切り、素材の使い方に憧れがある。それが僕の言うマッシブかな。

福西|なるほど。ずっとマッシブって言っていたから、いまだに興味あるのかなって。

家成|いまだに結構ありますよ。

福西|見た目では「馬木キャンプ」とかってマッシブではないように見えますが。

家成|あれも、基本的には材料の表と裏がない。

福西|ああ、そういう意味で。

家成|柱が全部見えていて、柱は表から見てみ裏から見ても一本の柱である。表から見たらガルバリウム合板で、裏から見たらプラスターボード、というような裏表のある作り方はしていない。とは言え、今住宅を設計していますが、実際それでできるか、となると中々難しい。なぜか余計にコストがかさむ。

福西|住宅においては住まい手の理解も必要ですよね。シーランチの話でいうと、12年程前にstudio-L の山崎亮さんと一緒に見に行ったことがあります。現地で彼に色々と教えてもらいましたが、元はローレンツ・ハルプリンが敷地周辺の生態調査からシーランチのプロジェクトは始まっている。建築単体で、潮風の強い地域に建てることに対応しているわけでもない。大地に掘り込まれたテニスコートなんかもそうで、風の強い場所にうまく対応している。住宅に関して言うと、先ほどの大地の話に戻りますが、建築単体と言うよりも周りの風景との連続や、地面との接し方も含めて建築を作っていきたいですよね。アーキテクチャーとランドスケープと言ってしまうと安易なのですが、そういう作り方ができれば面白い。

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<シーランチ・コンドミニアム>

家成|そうだよね。先日、中谷礼仁さんと話す機会があって一枚の写真を見せてもらった。確かイタリアだったかな、とある開拓の歴史がある集落の話です。開拓を始める上で、食料が必要なので、畑を作らなければならない。畑を耕そうとすると石がでてくるので、石を除いて畑を耕さないといけない。その除けた石で家を作っている。石を除けた後、畑を耕す。それって元からそこにあった物のレイアウトが少し変わるだけで、食料が育つ場所と家を同時に作っている。なんだか、建築とランドスケープのとても良い関係ですよね。耕すついでに家を作るのが良い。

福西|元々の人間の生活の行為はそのようなものなのかも。もしかして、今設計中の住宅は除けた石を積んで作ろうとしていますか(笑)?

家成|全然してない(笑)。都市部で住宅を設計しようとすると、法律が邪魔。防火地域の壁の構成とか、全部決まっているし。コンクリートで建てようとすると、コストが掛かる。木造で設計すると、外装材・内装材・断熱材等は火に対することを含めて、認定された商品の組み合わせになる。アルミサッシもそう。本来僕がやりたい事の選択肢が最初から奪われている、都市部においては。だから、もう都市には可能性をあまり感じない。

福西|ないですか?

家成|別の可能性を発見しないといけないと思っていて、今一つ発見していることがあるんですよ。都市における住宅の可能性について。

福西|それまだ秘蔵ネタですか。

家成|いやいや、秘蔵ネタではないけど、誰にも言ってないだけ。

家成|今「ホール」についてちょっとずつ調べている。

福西|え、ホール?

ホールについて考える

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家成|玄関ホールとかのホール。これは少し計画学の話になっていくのだけど、都市部ではどうしても材料で遊べないから、プランとか構成等の計画学的なところでやっていくしかない。そこで色々と考えていて、実はホールって面白いのではないか、と。一緒に近江八幡のヴォーリズの建築を見て歩いたじゃない。ヴォーリズの住宅って、家に入ったら玄関ホールあったよね。

福西|あった、あった。

家成|ちょっとぽかんした場所があった。現在でも建売住宅の玄関でも玄関ホールとか名前が付いている。ホールってそもそも何なんだろう、っていうのを今調べています。今の僕の仮説と言うか思い込みは、これはもうパーティー空間だと。

福西|あはは!なるほど。

家成|パーティー空間と言うか、もっと何でも有りの空間だったはずかな、と。西洋住居史って本を読んでいく中で、かつての家って、家と呼んでいなくてホールと呼んでいたらしい、みたいなことが書いてある。何もないただの切妻の家、中が空洞。それがある時期になって、台所が引っ付いて、寝室が引っ付いてホールの周りに諸室がくっ付いてきた。ホール自体はガランとした大きな空間で、生活の色々な空間を内包できていた。今は、寝るところ、食べるところ、作るところ、勉強するところ、等全部決まってしまっている。だから、ホールという名もなき、使い道のない場所を一つ準備してやると面白いのではないか。それで、今設計中の住宅の一番大きい部屋がホール、になるのかな、って考えています。

福西|それはあえて、ホールという名前を付けることに意味はある?

家成|うん、ホールと言ってしまおうと思って。当初はリビングみたいな名称で呼んでいたんだけど、そこに逆に玄関をつける。玄関をサブボリュームとしてとらえて、玄関ホールとは言わずに、単なるホールとしての独立性をそこで作っていこうとしています。最初はその場所にテレビを置くとか色々あったが、結局テレビすら置かなくなって。本当にただのヴォイド空間。本当は、そこの真ん中に一つ彫刻を置きたい。

福西|その話を聞いて、ふっと思い出したのは重源の浄土寺浄土堂。一緒に見に行きましたよね。あれって、念仏唱えながら内部をぐるぐる周る踊りの空間でしたか?

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<浄土寺浄土堂>

家成|そうそう、あれまさしくホール。日本で言うとお堂とかが近いのかも。

福西|カーン的に言うとルーム?

家成|そうかもしれない。

福西|ニッチとか掘り込まれた空間には僕もすごく興味があって、それがボリューム的に独立するのか、何かに引っ付いてくるのかで、大きく場所の作り方が変わる。にしても、確かにホールは、あまり聞かないですよね。

家成|ダンス・ホールとか。

福西|ホールって消えかけた考え方なのかな。

家成|そうなんですよ。前に何かをつけるだけで変わる。コンサート・ホール、玄関ホールとか。

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<ヴォーリーズ住宅>

福西|近江八幡で一緒に見たヴォーリーズの建築の玄関ホールは、家に帰ってきた時の泥落とし・埃落としの用途なのですかね。そこにもう少し意味を付け加えて、ホールから増殖するように場所が作られていく住宅ができれば面白い。

家成|ホールが核にあるのがいいな、と思います。ヴォーリーズの住宅の玄関ホールも、泥落としとか風除室の役割があったと思うのだけど、そこに諸室がくっついている。なんていうのかな、あのホールの何もない感じ。それが面白くて。

福西|ちょっと天井高も高くて。

家成|そうそう。何か腰高というか。

福西|美術館とかだと必ずホールってありますよね。何か整える場所でもある。

家成|そういえば、美術館におけるホールって大きいよね。

福西|メインの場所の一つですよね。

家成|そう、なぜか写真を撮るならそこ、みたいになっている。

福西|図書館もそうなのかな。

家成|オペラハウスもそう。

福西|そう考えると、伊東豊雄さんの建築ってあまりホールがない、と思いました。「せんだいメディアテーク」や「台中オペラハウス」にしても、入ってぬるっと空間がつながるようで、ホールらしいホールがない。

家成|空間のヒエラルキーはないものね。

福西|それは家成さんが目指しているところでもありますか?

家成|ある意味ではあるのかなあ。先ほど言っていた「マッシブ」の文脈ではその考え方は強いかな。どこまで柱が連続していて、どこで切るのか。柱がずっと連続していると、どこまでが柱の列なのか判別しづらい。そのようなヒエラルキーのない状況にも興味はありますね。

>>家成俊勝さんのことばを聞く③に続く

>>家成俊勝さんのことばを聞く①

家成俊勝(いえなりとしかつ)
1974年兵庫県生まれ。 京都芸術大学教授。2004年、赤代武志とドットアーキテクツを設立。アート、オルタナティブメディア、建築、地域研究、NPOなどが集まるコーポ北加賀屋を拠点に活動。建築設計だけに留まらず、現場施工、アートプロジェクト、さまざまな企画にもかかわる。代表作はUmaki Camp(2013、小豆島)、千鳥文化(2017、大阪)など。第15回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展(2016)にて審査員特別表彰を受賞(日本館出展作家)。
福西健太(ふくにしけんた)
1979年大阪府生まれ。ウィスコンシン大学ミルウォーキー校建築学科卒業 / TEN Arquitectos NY勤務/ ペンシルベニア大学大学院建築学科修了/ 伊東豊雄建築設計事務所  / 福西健太建築設計事務所主宰/www.kfaa.jp


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